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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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 半人半蛇のラミア族は、ガルーダ族と敵対していない。

 同じ蛇型であるものの、その辺はナーガ族とは違う。


 代わりに、荒れ地に集落を作って細々と暮らすドネストル族と敵対している場合が多い。


 ドネストル族の容姿は、ライオンのような顔に人の下半身。

 つまりラミア族と正反対だ。仲が悪い原因はその辺にあるのだろうか。


「俺はオーガ族のゴーラン。この周辺を治めている者だ」


 いいんだよな、治めていると言っちゃって。なんとなく俺の身分が宙ぶらりんになっていて、妙に座り心地が悪いのだけれども。


「ラミア族のダルミア」

「そ、そうか」


 なんか威圧感がある。

 ダルミアは妙齢の女性で、身体にピッタリとした服をまとっている。

 水着のようなものか。


 他のラミア族も同じようなのだろう。水から上がってこないので分からないが。


「村のオーガ族から、この国に属していない者がいると報告があって、調査にきた」

 するとダルミアの瞳がスッと剣呑な光を帯びた。


 蛇と同じように、ダルミアもまた縦長の瞳孔をしている。

 これで睨まれると怖い。


「だからといって、どうこうしたい訳ではない。まず話を聞きたい。君らはどこから、そしてなぜここに来た?」


「…………」

 だんまりか。雰囲気から予想していたが、話し合いになりそうもない。


「分かった。それはいい。言いたくないのなら、無理に聞きだそうとは思わない」

「……いいのか?」


「言いたくないならな」


 ラミア族だってここに来たくて来たわけじゃなかろう。

 どうしようもない理由があったはずだ。


「助かる」


「ただし、それ以外でいくつか質問には答えてもらう。たとえば、食事とかだ。何を食べて、どうやって確保している?」


 水草が生い茂った場所に彼らはいた。

 蛇型の場合、あまり町中に住むことはないので、一般的な生態について知っている者がいない。


「池の虫や魚、それに水草などだ。水を飲みに来た動物も食べている」

「ふむ……」


 予想通りの答えだった。だが、そうすると腑に落ちないことがある。


「この洞窟を出たところに池があった。あそこだよな」

 ダルミアが頷いた。


「俺がここまで来た道には、ラミア族が出入りした跡がなかったが」

 痕跡が地面になかったのだ。


 鱗でも落ちていれば、俺でもさすがに気づいたはずだ。

「……池の底とここがつながっているから」

「あー」


 なるほど、そういうことか。

 この地底湖は外の池とつながっているわけね。


「それともう一つ質問だ。君たちはオーガ族を……いや、他の種族を襲うか?」

 ダルミアは首を横に振った。


「後ろの者たちも全員そうか?」

「襲わない。ここで暮らしたいだけ」


「……よし。ならばそれでいい。オーガ族の村には俺から言っておく。互いに迷惑をかけなければ、べつにここで暮らしても構わない」


「……いいのか?」

「少なくともここは俺の縄張りだ。代替わりしない限りは有効だ」


 本当は追い出した方がいいのだけど、洞窟の中に住んで、ときどき池へ狩りに行くくらいならば問題ない。もともとこの周辺には住民もいないのだし。


「ありがとう」

「どういたしまして。ただし暴れたり、他種族を襲うのならば、出て行ってもらう」


「分かった」


 俺は帰ろうとして気づいた。

 水面から顔を出しているのが倍に増えていた。結構いるんじゃないか、これ。


 及び腰になるのを奮い立たせて、俺は洞窟をあとにした。

 ちなみにラミア族は純粋な戦闘種族ではないが、魔素量はオーガ族より多い。


 平均的な者たちが一対一で戦ったら、おそらくオーガ族が負ける。

 そのくらい脅威なのだ。


 何事もなくて良かった。


 俺は近くの村へ向かい、事情を説明した。

 水源のひとつが使えなくなるが、それほど困っているわけではなし、見知らぬ種族が住みつこうが、あまり問題ないようだった。


「なるべく用事がない限り、近寄らない方がいいな」

 メルヴィスの配下になっていないため、仲間意識は芽生えないだろう。


 出会って戦いになる可能性もある。

 その辺だけよく言い聞かせて、俺は自分の村に戻ることにした。


「しかし、ラミア族ね。一応ファルネーゼ将軍にも伝えておくか」


 自国にどこにも属していない種族が住み着くのは嫌がるだろうが、こっそり住んでいるだけなら追い出す必要はないと俺は思っている。


 追い出すよう言われたら説得するつもりだが、ファルネーゼ将軍はそう言わないような気がしている。




 村に戻ったところで、俺に客が来ているという。


「なんだよ。ちっともゆっくりできないな」


 誰だろうかと確認を取るとヴァンパイア族だという。

 まさかネヒョル本人か、その部下か?


 飾っておいた深海竜の太刀を引き寄せて、俺は会いに行った。


「……はじめまして、アタラスシア副官の補佐をしております、ミョーネと申します」

 いたのは年若い女性のヴァンパイア族だ。見た目はまんま少女。


「オーガ族のゴーランです」

 アタラスシアの名前には覚えがあった。


 ネヒョルを監視するため、兵とともに城に残してきた将軍の副官だ。


 ミョーネはかなりの魔素量だった。


「それではゴーラン遊撃隊長へ、上司から反逆者ネヒョルの目的が分かったのでお伝え致します」


「反逆者……ですか」

「はい」

 ミョーネは重々しく頷いた。


 やはりネヒョルは、何かやらかしたようだ。



 あと俺の呼び名、決まった?




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