表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
8/359

008

 俺は木の棒を構えて、イリボと対峙している。

 距離は弓を使うイリボに有利なくらい離れているが、俺は別段気にしちゃいない。


(えーっと、弓の特殊技能って何があったっけか)


 こういうときの為に色々覚えておいたんだが、そもそも特殊技能をたくさん知っているオーガ族がいない。

 流れの猟師から聞いた話を思い出す。

 よくある弓の特殊技能だと〈速射〉、〈曲射〉、〈連射〉くらいだったはず。


「確かめながら行くかね」

 俺はゆっくりとイリボに向かって歩く。


 矢が飛んできたが、棒で払う。まだ距離があるから余裕で払える。

(奴が遮蔽物の陰に隠れないから〈曲射〉ではないな。俺が間合いを詰めても余裕そうだし、〈速射〉の技能持ちかな)


 大小の岩がゴロゴロしているこの場所で、遮蔽物を盾に使わない時点で〈曲射〉はありえない。あれは姿を見せずに、矢だけが遮蔽物の裏から弧を描いて飛んでくる技だ。


〈連射〉の場合、一度に複数の矢を持って、次々と放つ技だが、手に持った分を撃ち終えると次の矢を射るまでに時間がかかる。

 間合いを詰められたくないはずだ。


 次々と矢が飛んでくるが、〈連射〉しているようには見えないから、イリボは〈速射〉持ちとしておこう。

〈速射〉だと、いつのまにか手に矢を持っていて、それを撃ってくる。ガンマンの早打ちみたいなものだ。


 イリボの特殊技能が〈速射〉だとすると、それを使うのはもっと間合いが近づいてからだと思う。

 俺が持っている木の棒の間合いより少しだけ外、「さあこれから殴るぞ」と振り上げた、ここぞという時に撃ってくるだろう。


 牽制のような単発の攻撃が続いているのがその証拠だ。俺は正眼せいがんに構えた。


(……そろそろだな)


 木の棒が届くまであと三歩。ということは、二歩を踏み出したら撃ってくるとみていい。


 必殺の間合いに入る前、つまり木の棒が届かないこの距離で、俺は仕掛けなければならない。

「きぇええええええ!」


 引き足を速くして間合いを詰めつつ、剣道の突きを放った。

 このくらい距離があっても関係ない。突きは伸ばせるのだ。


 何万、何十万回と練習した技だ。身体が覚えている。

 伸ばした先に衝撃があった。

 間合いの外からの突きであるため、喉を穿つには至らなかったが、オーガ族の力で喉を突いたのだ、無事であるはずがない。


 ぶっ飛んで仰向けに倒れたイリボは、ピクリとも動かなかった。

 これは確認するまでもないな。


「次はどっちだ?」


 残ったのは賢狼族と飛鷲ひじゅう族。どちらも獣体型だ。

「ワシはネヒョル様より戦闘を禁じられておる」


「そういえばそうだったな。……ということはビーヤンか」

 飛鷲族はゴブリンと同じく戦闘向きな種族ではない。


 ネヒョルがなぜこんな非戦闘系種族ばかり配下にしているのか謎だが、こいつはどうするつもりだろうか。


「調子に乗るなよ!」

 ビーヤンが空に舞い上がった。やる気だ。


 飛鷲族は高所からの偵察に優れている。なぜ戦闘に組み込んでいるんだか。


(戦い方はハーピーと同じでいいのかな。だとすれば、〈引っ掻き〉や〈切り裂き〉の特殊技能を警戒するくらいか。〈急襲〉は視認されていない状態から無音で襲いかかる技だし、関係ないだろうし)


 いままで俺は、グーデンと戦った時に使用した〈腕力強化〉を使っていた。今回それを変えようと思う。

 離れた上空にいるビーヤンを打ち落とす技を俺は持っている。


 特殊技能を〈腕力強化〉から〈岩投げ〉に変える。

〈岩投げ〉はオーガ族ならば半数が持っている基本的な技だ。


 人の頭ほどの岩をいくつか拾い上げる。

「じゃ、いくぜ」


 大きく振りかぶって投擲とうてきした。

 以前確かめたところ、〈岩投げ〉には、投げた岩の「速度上昇」と「命中補正」がかかっていた。

 速度が上がれば威力が上がるので、「威力上昇」でもいいのかもしれない。


 俺が投げた岩はテニスのサーブほどの速度で飛翔し、ビーヤンの羽を打ち抜いた。

 一発目から当たりとは幸先がいい。


「次いくぞ」


 ここでは投げる岩に事欠かない。

 ビーヤンは餌を捕るコウモリのように空中で動いているが、そんなものはただの時間稼ぎにしかならない。

 十も岩を投げれば、一発くらい当たる。


 二発目、三発目と岩が羽に当たると、ビーヤンの動きは目に見えて遅くなった。

 そこへ狙い澄ました一発がビーヤンの腹部に決まり、そのまま真っ逆さまに落下した。


 羽も穴だらけだし、戦闘継続は無理だと思うが、しっかりと決着をつけに行こう。

 両手に岩を抱え、踏み出そうとしたところで、俺の後ろに気配がうまれた。


「はい、そこまで。ゴーランはそれ以上、駄目だよ」

 急に生まれたこの気配はネヒョルのもの。なんの特殊技能を使った?


「イリボとグルボ、それにビーヤンを一方的にだね。魔素量からするとこんな結果になるはずがないんだけど、ずいぶんと戦い慣れているよね」

「あいにく、俺の村はヌルい場所じゃなかったんでな」


 魔素量が少ない俺は、馬鹿にされてしょうがなかったのだ。それを下していたら、今度は下克上を仕掛けてくる連中が列をなしていたし。


「……それで今更だけど、なんで戦ったんだい?」

 ネヒョル軍団長は少しだけ真面目な顔で聞いてきた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ