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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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079

 サイファが以前持ってきた話はこうだ。


 ここからふたつほど離れた村。

 そこは水が豊富らしく、近くに複数の水源がある。


 井戸もあるため、めったに水源の方まで足を伸ばさないのだが、獲物を追いかけた猟師が偶然水草の陰に隠れている種族を見つけた。


 猟師は賢明にもそこに近づかなかった。

 正体不明のそれは、明らかに小魔王メルヴィスの支配下に入っていなかったから警戒したらしい。


 ネヒョルがこの前断ち切ったつながりだが、あれは魔素を効率よく上に集めるだけではない。

 魔素のつながりを通して、自国の者とそうでない者を見分けることができる。


 そしてどこにも属していない者はすぐに分かる。

 目立つのだ。


 ゆえに猟師はその者を凝視した。

 相手は水草の中を移動して姿を消した。猟師はそれ以上追うことはしなかった。


 賢明な判断だと思う。

「それで謎の種族を俺に調べてもらいたいわけね」


 よほど力のある者以外、はぐれが単独でいるとは考えづらい。

 ということは、この前の死神族のように種族単位で存在していることになる。


「だとすると、やっかいだよな」


 それでも攻撃的な種族とは限らない。どちらかというと、他国で迫害されて逃げ出してきた方があり得る話である。


 どこにも属していない種族と折衝する。

 この手の微妙な話は、決定権のある俺がいくしかない。


 というわけで、まる二日かけてくだんの場所に足を運んだが。


「……洞窟?」


 水草の生えている場所はすぐに分かった。

 湿地帯のため、中に入ると足をとられてしまう。


 大きく迂回すると近くの水源に出た。

 周辺を探索していたら、洞窟を見つけてしまった。


「洞窟の入り口は縦長で、それなりに大きいな。水源の近くにあるし、ここにいる可能性は高いのだけど……」

 気が進まない。


 洞窟の中は暗く、そして狭い。

 死角が多いので、慎重に進まなければならない。


 中にいるのが警戒心の強い種族の場合、恐怖のあまり襲いかかってくるかもしれない。


「近くの村が襲われてないし、攻撃性のある連中じゃないとは思うが……」


 野山で村を作ったり、拠点を築くタイプでない限り、この洞窟を見逃すはずがない。

 いるとしたら、この洞窟の中だと思える。


「ええい、ままよ!」

 うだうだ考えても埒があかない。進むしかないのだ。


 背嚢はいのうの中にランプがある。それに火を灯して、洞窟に踏みいった。


「だれかいるか?」


 こっそり近づいて攻撃されてはたまらない。

 時々声を出して反応を見る。


 俺の影が洞窟の壁に揺れている。

 しばらくじっとして耳を澄ませてみる。


「だれかいるか?」


 しーんとした洞窟に俺の声がこだまするが、返事はない。

 少なくとも、近くにはだれもいないようだ。


 天然の洞窟は一本道ではない。

 また平らな場所はほとんどなく、昇ったり、降りたりを何度も繰り返す。


 それでもかなり下っているなと感じるころになって、水音が聞こえてきた。


 ――チャポン


「音がしたな……水たまりでもあるのか?」

 それでも水滴にしては音が大きい。


 その場で耳を澄ませていると、さらにチャポーンとやや大きめな音が聞こえた。


「そこにだれかいるのか?」


 俺は声を張り上げた。すると……。


 ――バシャ、ジャバン、ザザーン


 次々に水音が聞こえてきた。

「飛び込んだ? 地底湖か?」


 ランプを掲げて慎重に進むと、足首まで水が来ているのが分かった。

 そのまま無視して進む。


「やはり地底湖か。……それと」

 湖の中から顔の半分だけ出している者たちがいる。その数四、五十体ほど。


 ランプの明かりが届かない範囲にもいるかもしれない。

 光を反射して瞳だけが光っている。


「あれはちょっと不気味だ」


 夜行性の動物の目が光るのは、目の中で光が乱反射しているからと聞いたことがある。

 何度も網膜に光が当たるため、暗い場所でも目が見えるのだとか。


「俺はこの周辺を預かるゴーランという者だ。戦いに来たんじゃない」

 反応はない。かなり警戒しているようだ。


「もう一度いう。戦いに来たわけじゃない。だれか代表者と話がしたい」


 相手は湖から顔の上だけ出している状態なので、表情は読めない。

 それでも視線を互いに合わせ、なにやら相談している雰囲気が感じられた。


「ここには俺ひとりで来ている。他にだれもいない。話がしたいだけなんだ」

 ようやく一体が進み出てきた。


 水中を立ち泳ぎしている。水棲すいせいの一族なのかと思っていると、上半身が露わになった。


 そして全身が現れて俺の前に……いや、俺を見下ろすようにやってきた。


「……ラミア族だったのか」


 人頭蛇尾の一族。上半身は人型だが、下半身は鱗をもった蛇。

 しかも下半身は大蛇なみに太くて長い。


「少し話がしたい。いいか」

 ラミア族は黙って頷いた。



 近づかれると、ちょっとこえーよ。




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