078
村に戻ったら、案の定大騒ぎだった。
ネヒョルが魔素の流れをぶった切ったせいで、村のみんなも全員メルヴィスの支配下から外れてしまったらしい。
原因を知っている俺はいいとして、村の連中は何がおきたのか分からない。
「メルヴィスが死んだんか?」とか、俺が死んだという噂が流れ、果ては俺が反乱を起こしたと言い出す奴がいる始末。
「ゴーランならやると思ったぜ」
とは駄兄の弁。
ちゃんと小突いて、腕の関節を外しておいた。
関節をはめるのは俺しかできないから、泣きついてくるまで放っておくことにする。
「……というわけで、元軍団長のネヒョルが離反した。今後やつに関わった者は反逆者として扱う。またなにか情報を知っている者は、早急に名乗り出てもらいたい」
俺が帰ってくるまでの間のことだが、副官のリグはネヒョルの町へ行って、情報を仕入れてきていた。
さすが副官だ。
そのため、俺が帰ってくるまでの間に、村はある程度の落ち着きを見せていたのだが、サイファが余計なことを吹聴しまくったせいで、俺がネヒョルと組んで謀反を起こしたんじゃないかと疑われている。
その辺をしっかり説明した上で、コボルド族を各村へ派遣した。
これで混乱は収まるだろう。たぶん……。
説明で一番困ったのが、俺たちの処遇についてだ。
新しい軍団長にフェリシアが就いたことを伝えた。
フェリシアはもともとファルネーゼ将軍の子飼いだったと説明するとみな納得した。
ついでに、俺たちはそこに属さないと告げたら、「やはりゴーランは反乱を?」とか言い出したので、ボコった。
そんなに俺はアナーキーか?
説明するのも面倒なので、俺たちは直接将軍の下に就くのだと結果だけ話した。
そのときの反応は真っ二つ。
リグやペイニーなどはかなり驚いていた。
将軍直下の軍というのは優秀であることが求められているからだ。
真実は違う。ただ、フェリシアの名が出ないように守るためだが、それは言えない。
「今後は遊軍という形で参加することになるだろう」
将軍からそう言われている。
今さら軍の中に組み込めないので、何かあったときに使うからそのつもりで、ということだ。
「それは素晴らしいことです」
ペイニーは感動している。
「遊軍の長ということは、軍団長に引けを取らないかと思います」
「えっ、そうなの?」
そんなこと将軍は一言も言ってなかったけど。
「将軍の本隊が動くときは、最後の決戦の場合がほとんどです。そのときに重要な役割を担うのが、直属部隊になります。つまり、敵の大将を撃破する為だけの軍隊です。そのひとつを任されて、なおかつ長をするのですから、これまで以上の働きが求められるでしょう」
「いや、そんな大げさに考えられても……」
真面目なペイニーには悪いが、そんな働きを待望されて配下に就いたわけじゃない。
ただただ、フェリシアの存在を目立たせないために、軍団長の配下から外れただけなのだ。
「でもあれだよな。村になにかあったら、将軍が守ってくれるのか?」
「それはどうなんだ?」
「無理だろ」
もうひとつの反応がこれだ。
これまでは、なにか問題がおこっても軍団長に直接陳情にいけた。
俺が村の要請を受けて解決に乗り出すのと一緒だ。
その規模がデカくなったと考えればいい。
将軍の直属になった場合、それはどうなるんだろう。
俺では判断のつかない問題や、手に負えなくなった問題が出てくるとしよう。
これから先、いろいろと出てくるだろう。
以前なら軍団長のところへ相談に行けばよかったが、これからは直接……将軍のところへ行くのか?
そんな村の問題を将軍へ投げる? ……ちょっと想像しづらい。
「おそらくだが、どこかの軍団長が代わりに対応するか、将軍の部下が気を利かせてくれるんじゃないかな」
よく分からないけど。
そのときになったら、実際に分かるだろう。
まあ、放っておかれることはない……と思いたい。
そんなこんなで全ての説明が終わり、村も日常を取り戻した。
これでゆっくりできると思ったのも束の間。
サイファがやってきた。
「なあ、ゴーラン。あれはどうなった? どこにも属していない種族が居座っている件だ」
「あー、忘れていた」
うん、素で忘れていた。
そういえば、サイファからそんな話をもちかけられていた。
あのとき、俺が城に呼ばれたので後回しになったんだった。
すぐに戻れるかと思ったら、将軍の町まで報償を取りに行かなきゃいけなくなったし、向こうに着いたら変な会談に巻き込まれたりで、すっかり忘れていた。
「明日、調査しに行ってくるよ」
面倒だが、仕方が無い。
これも部隊長の勤め……いや、俺もう部隊長じゃないじゃん。
今度から、俺はなんて呼ばれるんだろうか。