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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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077

 なぞなぞだ。

 若いうちは余っているけど年を取ると足りなくなるもの。


 ――それは時間


 でもないか。

 俺なんか、まだ若いけど時間が全然余ってない。


 人よりも多くの時間を持つヴァンパイア族でも、それは同じらしい。

 彼らもまた、時間に縛られている。


「時間がない。すぐに会議を開くぞ!」


 ファルネーゼ将軍はまだ十分若い(見た目)が、時間の貴重さは知っているようだ。


 まるで手品のごとく昨日のメンバーを招集し、会議をはじめた。


 議題はふたつ。使者とネヒョルの件。

 こんなとき、時間はなにより貴重。


 俺は傍観者を決め込む予定だったが、ついウッカリ……ちょっとだけやり過ぎた。

 気づいたときにはもう遅く、ここまで来たら『皿まで喰らう』つもりで持論をぶち上げてしまった。


 ――小魔王レニノスを斃すには、短期決戦しかない!


 声を高らかに主張した。

 後悔してもあとの祭り。


 やれ補給が、兵力がと言い募る連中を、全員まとめて論破したのである。


 うん、やり過ぎた。マジでやり過ぎた。

 面目を潰されたのは、ヴァンパイア族をはじめとする、町に住む有力者たち。


 フェリシア軍団長がすでに町を発っているので、抑えにまわる者もいなかった。


 町の有力者たちは、脳筋のオーガ族に言い負かされて顔を真っ赤にしながら帰っていった。

 何しろ、言い返したらその分自分が不利になるくらいケチョンケチョンにしてしまったのだから。


 月夜のない晩は気をつけよう。


「ゴーラン、あれはさすがにやり過ぎだ」

 ファルネーゼ将軍にそう言われた。


 分かっている。分かっているのだが、どうやら俺に何かが降りてきたらしい。

 笑いの神ではない。念のため。


 素面しらふで酔っ払ったか、白昼夢はくちゅうむを視たか。

 とにかくネヒョルをどうにかしてやろうと思うあまり、自重をどこかに置き忘れてしまったのだ。


 過ぎたことはいい。よくないけどいい。

 あとネヒョルが悪い。


 会議で決まった(というか俺が強引に決めた)ことを持ち寄って、翌日メラルダと三度目の会談をした。

 あに図らんや、無事密約を結ぶことができた。


 提案したのは俺だが、本当にいいのかと思うような内容だ。


「おぬし、本当にオーガ族か?」


 帰りしな、メラルダにそんなことを言われた。

 そんなことを言われて、俺はどう返答すればいいのだ。


「俺がオーガ族であるのは、俺自身が知っているからそれでいい」


 つまり他者の認識は必要ないというスタンスを貫いたら、「それはなんとも哲学的じゃな」と言って、メラルダは帰っていった。


 これで俺も村に帰れる……と思ったら、肝心の太刀を貰ってなかった。


「本当にゴーランはおもしろいな。いま帰ったら、なんのために来たのか分からないぞ」

 たしかにそうだ。


「頂いたら帰ります」


 とにかく一度村に帰って、軍団長の下から外れたことを伝えたい。

 リグなんか卒倒してないだろうか。卒倒していても俺のせいじゃないからな。

 文句はネヒョルに言ってもらう。いないけど。


 そこで思った。いまの俺、部隊長じゃないし降格したことになるのか?

 出世したいわけじゃないが、なんか納得いかない。これだけ頑張っているのに。


「戦働きの報酬は深海竜の太刀だったね……いま取ってくるから待っていて」

 さすがに宝物庫の中には入れてくれない。


 俺は大人しく外で待っていた。

 するとファルネーゼ将軍は、一抱えもある包みを持って現れた。


「これが深海竜の太刀だ。海の深いところには強力な魔物が棲んでいる。深海と名の付く場所には、信じられないくらい強力な魔物がうじゃうじゃいるらしい。それの骨で作ったのがこの太刀だ」


「ありがとうございます。大事にします」

「これでも貴重なものだからね」


 さくっと受け取ったら、なんとなく釘を刺された。

 大事に使えということだろう。


「でもそんな深海にいる竜をどうやって倒したんでしょう」

 この世界に潜水艦なんかない。まさか素潜りでということもあるまい。


「そりゃもちろん襲って来たからだろう。深海竜は普段、光の届かない海の底にいるけど、海上を通る船を感知したりすると、急浮上して襲うんだよ」


 ちょっと待て!

 深海竜は深海魚の一種かと思ったら違うのか。

 深海と海上を行き来できるって……潜水艦並の機能が備わってないと無理だぞ。


 外皮なんか相当厚いだろう。

 よくそんな存在を倒せたな。さすが魔界。

 やっぱり強そうな奴には喧嘩を売らないでおこう。


 貰った太刀だが、包みをほどいてみると、たしかに太刀だった。

 俺が持っていた……そしてファルネーゼ将軍と戦ったときに折れた刀に比べると、刀身が長くて太い。


 だがこれは、紛れもなく太刀だ。

「刀身が白い……んですね」

 骨で作ったからかな。これもまたいい。


「気に入ったかい?」

「ええ……すごく」


 陶器に牛の骨を混ぜてつくるボーンチャイナというのがあるが、あんな感じに白光りしている。

 かなり気に入った。鞘はないけど。


 性能は……また今度試せばいいだろう。

 ちなみに魔界には、鋼鉄よりも強靱なものがいくつもある。


 こういった強者の骨もそうだ。

 堅くて粘りがあったりする。おそらく鉄すら両断するんじゃなかろうか。


「いいものをありがとうございます」

「褒美だからね」


 そういえばネヒョルへの褒美が、地下書庫の閲覧だったな。

 何がやりたかったんだか知らないが、今度会ったら、この太刀で縦に裂く。


「じゃ、帰ります」

「ゴーランは、本当にブレないね」


 俺ははやく村に帰りたいのだ。


「ネヒョルの件は調べておく。なにかあったら話を聞くかもしれないから、そのときはよろしく」

「分かりました。見つけたら知らせてください。ひと太刀でも浴びせたいので」


「分かった。必ず知らせよう」


 こうして俺は、エルスタビアの町を後にした。


 町から俺の村まで、歩いたらちょうど五日で着いた。


 なんにせよ、ようやく俺は村に帰ってこられたのだ。




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