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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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 メラルダから一日の猶予をもらった。

 明日、密約の中身をつめるのだが、これまでを振り返ってみる。


 小魔王メルヴィスの国が小魔王レニノスもしくは小魔王ファーラの野望を阻止する。

 野望とは、周辺の小魔王国を併呑して魔王国へと成り上がろうとすることである。


 魔王トラルザードはその要請の代わりに、小魔王国周辺へ軍を派遣して牽制する。

 こんな感じだ。


 こちらの言い分はほとんど通った。大成功と言ってよい。

 メラルダの態度を見る限り、こちらに含むところはない。


 騙してやろうとかそういう雰囲気も感じられないので、こちらが約束を守れば、向こうも守ってくれるのではないかと思っている。


 メラルダが要請してきた内容――レニノスやファーラの覇権を潰す。

 それは俺たちの方針とも一致している。


 つまり、もともとの方向性に沿った内容だったため、他の将軍も賛成しやすい。

 さらに援助も引き出せた。


 本来ならば万々歳のはずだ。

 でもいまは、気が重い。憂鬱だ。


「……どうするんです? ネヒョルのこと」


 これは離反した元軍団長のせいだ。


 隠しておけるわけがないので、公表するしかないが、いかんせん過去のネヒョルが存外大物であることが分かってしまった。


 追っ手を差し向けたら全滅させられましたなんてこともありえる。

 そうしたら恥の上塗りだ。


「頭が痛い問題だが、後回しにはできないな」


 俺としては将軍が落とし前をつけに行って、プチッとやってほしいところだが、単独での追跡は危険かもしれない。


 かといって軍を引き連れて出かけた場合、国境を越えられていたら、その国と戦争になってしまう。


「お呼びと聞いて、伺いました」

 フェリシアがやってきた。


 フェリシアは将軍の戦略立案担当で、何族か分からないちょっと謎の多い人物だ。


「フェリシア、緊急事態だ。軍団長のネヒョルが裏切った」

「……まあ」

 さすがにそれは驚くか。


「やつの下についていた者たちの支配が切れてしまっている」

「たしかにゴーランはいま、どこにも属していませんね」


 そう、俺はいまフリーだ。

 そして困ることに、だれの支配も受けていない場合、魔界では結構目立ってしまう。


「すまんが、フェリシアにネヒョルの代わりをやってもらいたい」

「わたくしが軍団長……大丈夫でしょうか?」


「力量的にも問題ないだろう」

「いえ、わたくしが申し上げているのは違います」


「表に出していいかという話か? 緊急事態だし、今後のことを考えればその方が良いだろう」


「……ん?」

 俺の知らないトークが始まった。どういうことだ?


 フェリシアとファルネーゼ将軍の間には、阿吽の呼吸のようなものが存在している。

 俺の入り込む余地はない。口が出せない状況だ。


「それでしたら、お引き受け致します。……まずはゴーランを下に置きましょう。ゴーラン、準備を」

 言われて俺は自分のオーブに働きかけ、その先をフェリシアに向けた。


 身体から出ていった光の筋は、ゆっくりとフェリシアにまとわりつき、体内に入って消えた。

 これで俺とフェリシアの線がつながった。


「大丈夫のようですね」

「随分と魔素量が増えたな……ゴーラン、これはどういうことだ?」


「はいっ? 俺に言われましても……」


「グーデンのときとは違う気がするが……思ったより増えている」

「もしかすると、死神族を引き入れたからかもしれません」


「あれはゴーランのところだったのか。報告は来ている。これにロボスたちが加わると……溢れるかな?」


「そうですね。可能性はあります」

「いくつかの部隊は私の直属にした方がよいだろうか」


「万全を期すならば、その方がよいでしょう」

「フェリシアにはネヒョルの後始末をしに城へ行って貰わねば困るからな、ゴーランはこっちで引き受けよう」


 俺の知らない話で、俺の去就が決まってしまった。

 ファルネーゼ将軍が引き受けるって……まさか。


「ではこれを……」

 ファルネーゼ将軍とフェリシア軍団長の間でやりとりがあり、俺の供給先が変更された。

 将軍に直接つながったようだが、これって俺の部隊が将軍直属になったってことか?


「フェリシアは早速行ってほしい。部隊長は残り四人だ。それぞれの場所は城に行けば分かる。できれば、向こうでも情報を集めてほしい」


「かしこまりました」

 優雅な礼を披露して、フェリシア軍団長は去っていった。


「というわけで、ゴーランはフェリシアから外れることになった。いいな」

「いいというか、何がなんだか」


 ふたりだけで話していて、意味が分からねえよ。


「次はネヒョルの居場所だな。誰を派遣するかだが、戦闘になっても逃げ切れる者は少ないが……」

「その前に、ちょっといいですか?」


「ネヒョルはこちらから遠ざかる方角に逃げただろうし……その前に、どのくらい部下を引き連れていったかが重要だな。事前に準備していたのならば、迎えを寄越している可能性もある。下手をしたら国内でワイルドハントが発生してしまうかもしれない」


「将軍! よろしいでしょうか!」

「なんだ? どうしたんだ、大声をあげて」


「できればその……いろいろ説明して欲しいのですけど」

「なにをだ?」


 フェリシアのこととか、フェリシアのこととか、フェリシアのことだよ。




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