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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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 魔王トラルザードが派遣してきたのは、将軍職にある翔竜しょうりゅうメラルダ。

 派手な着物に負けないくらいの美人さんだ。


 俺は見た目以上に年をとっているのではと思っているが、空気を読むオーガ族なので、そんなことは確認しない。


 メラルダは、俺の元日本人的の感性からすると、ストライクな外見をしている。

 こんな状況じゃなかったら、口説きたいくらいだ。


 そんなメラルダは、ゆっくりと昔を語り出した。


「魔王リーガードの国の東に小魔王レグラスの国がある。六塩柱のひとつがある国と言えば分かるだろうか」


 六塩柱……天界からの侵攻があった場所だな。

 ものすごい激戦で、数多くの魔界の住人が死んだ場所ともいえる。


「かつては小魔王ソラが治めていたのじゃが、下克上で代替わりし、いまの小魔王レグラスがその座についておる」


 俺は地図を見た。

 小魔王レグラスの国は、大魔王ビハシニと魔王リーガードの国と領土を接している。

 ここは小魔王国にとって、なかなか緊張のおける位置ではなかろうか。


「その代替わりに一役買った者がおったというのは、だいぶ後になって入ってきた情報じゃ。その後、その者は国内に留まらず、自分の部下を連れて各地を荒らし回った。一番被害を受けたのがリーガードの国じゃな」


 魔王国に喧嘩を売ったのか。すごい度胸だ。


「そんなことをして、レグラスの国と戦争にならなかったのでしょうか」

 ファルネーゼ将軍の意見はもっともだ。


 自国を荒らし回られたら絶対に報復する。それが魔界の住人だ。


「その荒らし回っている連中は、レグラスの支配を受けていないのじゃよ」

 つまりいまの俺と同じフリーだ。


 どこの支配にも属さない連中はいる。

 が、たいていはどこでも爪弾きされる。


「それがとうとう我が国にもやってきた。町や村がいくつか壊滅したな。一団は滅殺狩人めっさつかりゅうど、黒色騎士、デュラハンなどじゃ。それぞれがみな強力な者たちでな、我が国も手を焼いた。何人かは斃したし、捕らえた者もおる。そこで知ったのじゃ。彼らを統率している者の名を」


「もしかして……」


「ネヒョルと呼んでおった。小さきヴァンパイア族だという。そのネヒョルに率いられた一団の名が『ワイルドハント』。どうじゃ、聞き覚えがあるか?」


 問われても俺は知らない。ファルネーゼ将軍はというと……。


「闇より現れて暴虐の限りを尽くし、闇の中に消えていく亡霊集団『ワイルドハント』……」


「知っておるようじゃな。それがある時期を境にプッツリと噂と被害が消えおった。討伐されたのかと思っておったが……」


「それが消えたのはいつ頃でしょうか」

「三百年ほど前じゃな」


 ネヒョルがこの国にきたのと一致する。


 ということは、昔魔王国を相手にブイブイ言わせていたのが、俺たちの軍団長だったわけ? 善良な小市民である俺は、そんなヤンキーの下にいたわけか。


 しかし、それではネヒョルの目的が分からないな。

 またワイルドハントをやりたくなったとか?


 だが、それなら筋を通して支配を離れることだってできたはずだ。

 こうやって用意周到に策を巡らせて逃げる必要はない。


 やはりネヒョルの考えは謎だ。

 目的どころか、普段何を考えているか分からない。



 ――あれは信用しちゃいけないやつだ。



 俺は心のどこかでそう思っていた。


 ネヒョルが逃げたと聞いても、怒りはするものの、「やっぱりな」と納得している自分がいる。会ったら許さないけど。


「事情は分かった。さきのおぬしらの提案を受けよう」

 メラルダの言葉に俺は口を開けたまま固まってしまった。

 突然意見を変えた? いまのが原因で?


「よろしいのでしょうか?」

 ファルネーゼ将軍も半信半疑だ。


「ネヒョルがワイルドハントの頭領であった場合、わが国にも何らかの厄災がふりかかるやもしれん。この三百年、やつが何を考え、何を待っていたのか知らぬが、おぬしたちとの縁がここで切れるのはよくなさそうじゃ。これは貸しにしておく」


「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 俺と将軍は揃って頭を下げた。

 借りをつくることになったが、それは問題ない。


 もともとこちらは強く出られない立場だ。

 いつか借りを返すときが来るかもしれないが、それは命令されるのとなんら変わりない。


 それよりも今回をしのぐ方が大事だ。


「では詳細を詰めよう……と言いたいところじゃが、おぬしらは大事なことがあるのじゃろう?」

 そう、ネヒョルが消えたことで、いまの俺など宙ぶらりん状態だ。


「我はまだおるゆえ、そっちを先に済ませるがよい」

「はっ、ありがとうございます」


「ではまた明日、この時間でどうじゃな?」

「それで構いません。半日もあれば目処は立つでしょう……いえ、立たせてみせます」


「うむ。良い心がけじゃ。期待しておる」


 メラルダは満足そうに頷くと、消えていった。

 今度は目を凝らして見ていたが、特殊技能の発動を察知することはできなかった。


 万一メラルダと戦うことになったら、それであれを使われたら、俺は為す術もなく斃されてしまう。


「メラルダ、恐ろしい子……ぐぇっ!」


「ゴーラン、すぐに戻るぞ!」

 俺は首根っこを掴まれたまま、空に舞い上がった。


「ぐえええっ……」


 く、くるちい。




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