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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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073

 理由は分からないが、ネヒョル軍団長とのつながりが切れた。

 いや、もう軍団長ではないのか。


 支配のオーブは、上の者から下の者へ木の枝が広がるのようにつながっている。

 樹形図じゅけいずを思い浮かべるといいかもしれない。


 その流れが断ち切られたのだ。

 そう……表現としては断ち切られたというのが一番正しい。


「どこにも寄る辺がないのは、こんな不安な気分なんですね」

 俺は呆然と呟いた。


 魔素のつながりがあれば、互いに分かる。

 脳筋たちが戦っても、戦争で敵味方を間違えないのはこれのおかげが大きい。


 それがなくなった。

 たとえば軍団長や部隊長が死んでもここまで慌てることはない。


 死んでも魔素の流れはそのまま保たれる――樹形図でいえば、分岐点の者がいなくなっても、樹形図の形は変わらないと考えればいいだろう。


 だれか別の者を入れれば元通りになる。


 だが今回のは違う。ネヒョルが断ち切ったのだ。

 相当な力を使って、ファルネーゼ将軍からの流れをぶった切った。


 支配の楔から外れることは、本人が意識しなければできない。

 太い針金を糸鋸いとのこで切るようなものだ。偶然切れたという線はない。


「おぬしらさっきから……何があった? 察するに離反りはんが行われたようじゃが」

 離反か。たしかにそうだな。まさかネヒョルがメルヴィスの支配から脱したなんて。


 そこで俺は気づいた。

 いまは会談中。ファルネーゼ将軍もあまりに動揺していて、この国の内情を喋ってしまっている。


「少々こちらで問題が発生しまして……」

 将軍も失言に気づいたようで、表情に余裕がない。


「何があった?」

「いえ、他国の方にお聞かせするような……自国内のことですから」


「いまは両国で重要な話をしておる。関係するやもしれん」

「関係ありません。私の部下の事ですので」


「それを決めるのはおぬしではない。隠すと為にならんぞ」

 納得できる言い分ではある。


 メラルダとしても、俺たちが信用に足る相手かどうか、見極めたいのだろう。

 ここで嘘をついたり、ごまかしたりすると、この場は収まっても心証はすこぶる悪い。


「……そうですね。お話します。つい先ほど、私の部下で軍団長の地位にある者が支配の楔から解き放たれました」


「ほう……ネヒョルと呼んだ者か」

 そういえば、最初に将軍が叫んだっけか。


「はい。そのとおりです」

「このことが伝わって恐ろしくなって逃げたか?」


「……いえ、その者はメルヴィス様の城にいますので、知る術はなかったはずです」


 俺もそう考えている。昨日の今日だ。知るわけがない。

 いまはまだ地下書庫で本でも読んでいるんじゃないかと思っていたんだが。


「先ほどのおぬしらの会話からすると、軍団長の地位をだれかに移さずに脱したようじゃな」

「はい。ゆえにその者の部下たちはいま、だれの支配も得ていない状況におかれています」


 もしネヒョルがだれかに軍団長を移譲してから抜ければ、そんな騒ぎにはならなかった。

 これはネヒョルの宣戦布告と同じだ。


 わざと混乱するような形で抜けて、存在感をアピール。

 もう戻ってこないと俺たちに知らしめたかったのか。


 次の軍団長を決めない限り、混乱は続く。というか、俺が混乱している。


「強引に支配から抜けたのか。追われるのは分かっておろうに。逃げる手はずもできていると考えてよさそうじゃな。いまごろは国境を抜けるため、移動しておるのではないか?」


「そうでしょう……なるほど追われないために私を町に」

 将軍の言葉で俺も思った。思い当たることが多すぎる。


 俺に『深海竜の太刀』を所望するよう言い出したのはネヒョルだ。

 やたらとそれを押すとは思っていたが、将軍の私物をもらい受けるには、屋敷のあるこの町へ来なければならない。


 一方ネヒョルは城だ。

 支配から脱したことを知っているのは将軍を除けば、ネヒョルの部下たちばかり。

 ゴブゴブ兄弟にビーヤン、ロボスに俺か。


 連絡はできないし、将軍が追いかけようにも、町と城では距離が離れすぎている。


「……あの戦争のときから、今日のことを考えていたわけですね」

 俺は……将軍を城から切り離すダシに使われたわけか。


 中々どうして策士だ。今度会ったら殺す。


「おぬしらの国は一枚岩ではないようじゃな。そのネヒョルという者がこのあとどうしたいか知らぬが……ん?」


「どうしました?」

 メラルダの様子が変だ。何か思い出そうとしている。

 俺たちが知らない何かがあるのか?


「ネヒョル……そういえばどこかで聞いた名じゃなと思ったのでな」

 大国の将軍が、こんな弱小国のいち軍団長の名を知っている?


「ネヒョルは三百年前に我が国にやってきたヴァンパイア族ですが、いぜんはそちらに?」


「いや、そうではない。三百年前……そうか。思い出したわ、あれか」

 メラルダは端正な顔をゆがめた。

 どうやら過去、思い出したくなかった事実があったらしい。


「この国に来る前のことは本人が語りませんでしたので、知っている者はおりませんが」


「ふむ……確証を得ているわけではないが、少し語らせてもらおう。我が国にも関係することであるしな」


 そう言ってメラルダは懐をさぐり、丸めた地図を取り出した。


「我が国が魔王リーガードの国と長い間、戦争状態であるのは知っているな」

 そういって、メラルダは語りはじめた。




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