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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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071

 会議の休憩でお茶が出された。

 何か腹に入れるものはないかと尋ねたらパンをくれた。


 保存食によくあるタイプのものだ。

 喰おうとしたら周囲の目がこちらに向いたので、それを持って外にでる。


 腹ごしらえを終えて戻ったところで会議の後半がはじまった。


「さきの会議でおおよその意見が出たと思う。どのようにして野望を阻止するか、それはまた別の問題だ。ただ、みなの意見を聞いて分かった。どのような形になるにせよ、魔王の要請は受けようと思う。レニノスとファーラ。このふたりの小魔王に覇権は渡さない」


 ファルネーゼ将軍の言葉に全員が頷いた。

 なかなか人をまとめるのがうまい。


「さて、これは他の二将軍も同じ意見だと思う。侵略者に唯々諾々と従うのは本意では無い。というわけで、休憩前の話に戻る。魔王トラルザードの意見を聞く代わりに、何か譲歩を引きだそうと思う。考えてくれ、何がいい?」


 このあと、みな好き勝手な意見が飛び出した。

 ただし、実現可能性は低い。すこぶる低い。


 たとえば……


「向こうは大国。ならば強力な部隊を借りればいい。そやつらを働かせれば勝利できる」


 無理に決まっている。

 逆に、ホイホイと屈強な部隊を寄越してきたら、それは侵略の布石だ。

 同盟すら結んでない大国の軍隊を引き入れるなんて、何を考えているのだか。


「こちらの部隊を派遣して、鍛えてもらったらどうだろうか。年中戦争をやっている国だし、戦い方も部隊の動かし方もよく知っている」


 阿呆かこいつは。

 なぜ軍事的な機密を無償で教授しなければならないのだ。

 戦略とか戦術とか、経験があってはじめて生きてくるもの、敵に知られてはいけないもの……そんなものを教えてくれるわけがない。


 というわけで俺は呆然としつつ、会議の行く末を眺めていたら……。


「我が軍を鍛えてもらい、そのまま友軍として我が軍に組み込む。さすればどのような敵がきたとしても、簡単に蹴散らせるであろう」


 などと言い出す始末だ。


「馬鹿か」

 思わず呟いてしまった。小声なので、誰にも聞かれなかった。


「ゴーランも意見があるようだな」

 将軍が俺に振ってきた。いまの聞かれたか?


「いや……とくに」

「あるならば聞きたい。会議の初めに伝えた通り、忌憚のない意見が聞きたい」


 そうまで言われてしまえば、「何もありません」は通用しない。


 見たところ、会議参加者の半分は今の意見に不賛同のようだ。

 かといって自分に代案がない……そんなところだろうか。


「俺たちの国と接している小魔王国は三つあります。ひとつは戦争継続中のレニノス。前にも話にでましたロウス。そして、ルバンガと戦争中のクルルです」


 出席者の半分は何を今さらという顔をしている。


「続けますが、クルルとロウスのどちらかに攻め込んだとしても、レニノスはこの国に攻めてきます。いま三将軍がそれぞれ分担して国内を守っているからこそレニノスへ攻め入ることができません。……つまり、城を守る一軍を除いた二将軍でレニノスに攻め込むために協力してもらうのはどうでしょう」


 トラルザードの軍を東に向かわせる。

 もちろん国境を越える必要はない。


 軍を集め、東に展開していることが重要なのだ。

 そうすることによって、攻め込まれる危険性のあるロウスとルバンガが身動きが取れなくなる。


 クルルとナクティはこれ幸いにとルバンガに大軍を派遣するだろう。

 なにしろ、両国の目が一時的にも西側に向いているのだ。

 これは千載一遇のチャンスと考えても不思議ではない。


「つまり、トラルザードの戦力を囮に使うわけか」

「見せ軍……そういう言葉があるのか分かりませんが、レニノス以外の邪魔な四国がちょうど巻き込まれますから」


 ロウスとルバンガは同盟を結んでいる。

 その二国が西からやってくるかもしれない魔王軍に兵を割く。


 東の防衛が疎かになれば、現在進行中のクルルもナクティも勢いづく。

 こんなチャンスを放っておいて、この国を攻めようとは思わないだろう。


 四国で仲良くつぶし合っていればいい。

 俺たちは、レニノスに全力で当たれる。


「……なるほど。という訳らしいが、フェリシアはどう思う?」


「よい考えとは思いますが、懸念がふたつ。ひとつはロウスやルバンガがそれに乗ってこないこと。そうなるとクルルも強気に攻めることは難しいでしょう」


「だそうだ。ゴーラン、どうかな」


「そのときは作戦中止を視野に入れるべきでしょう。ただ、国境近くに軍が集結してまったく反応がないというのはおかしな話です」


「そうだな。魔界の現状からすれば考えられん」


「その場合、我が国もしくは魔王国に裏切り者がいて情報を流しているか、気を回す余裕もないほど追い詰められているかです。動かない理由を探ることで打開策が見えてくるかと思います」


「なるほど。そういうことらしいぞ、フェリシア」


「分かりました。わたくしが感じたもうひとつは、魔王トラルザードがそのまま我が国を攻める可能性があることです」


「ゴーラン、これは?」


「それについてはどうしようもないですね。どんなに頑張ったって、魔王が攻めてくれば負けは確実でしょう。どれだけ兵を残そうとも意味はない」


「……たしかにそうですね」


 魔王国軍と対等にやり合えるならば、はじめからそうしている。

 会議に集まったメンバーたちの意見も同じだった。


「では以上をまとめて明日の会談に持って行くとしよう。あとは私とゴーランに任せてくれ」


 将軍の言葉に全員が頭を下げた。了承の合図だ。


 いや、俺だけ下げてなかった。

 というか、「俺ぇ!?」と自分を指差したまま、固まっていた。

 また行くのか。




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