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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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◎ファルネーゼの屋敷 フェリシア


 魔王トラルザードの意を受けた使者が来たことで、エルスタビアの町は厳戒態勢を敷くことになった。


 使者としてやってきたのが、翔竜族のメラルダ。

 魔王の部下の中では比較的話の分かる人物である。


 将軍に就任して百年ほどだが、感情にまかせて虐殺したとか、そういった血なまぐさい話は聞いたことがない。


 だからこそ使者として選ばれたのかもしれないが。


 対策会議が開かれ、参加者の疲れが見え始めた頃に一旦休憩となった。

 ファルネーゼ将軍はその辺の機微がよく分かっている。


 強者であっても、考えるのが苦手な者は多数いるのだ。

 別室に用意されていたお茶が運ばれると、室内にゆるやかな雰囲気が流れる。

 そろそろ頭が飽和状態になっている者もいたので、いいガス抜きになったであろう。


 何人かが席を立ち、外へ出ていった。

 密談……というほど密やかなものではないが、それぞれが思うことを話しつつ、情報交換を続けているのだろう。


 会議の間、「ふんふん」と聞いていた者の何割かは、意味を理解していなかったに違いない。

 その証拠に、会話に加わった者とそうでない者に綺麗に別れていたのだから。


 そんな中、わたくしはオーガ族のゴーランを盗み見た。

 お腹が空いたのか、お茶以外のつまむものを注文し、それを手に持って部屋を出て行った。

 外で食べるのだろう。


「――気になるか?」


 ファルネーゼ将軍の言葉に、ゴーランが出て行ったあとも、その姿を目で追っていたことに気づいた。


「そうですね。オーガ族らしくない……とは思いましたので」

「ふむ。フェリシアにしては、要領を得ない言葉だな」


「今日ここにいるのは褒美の件であると聞いております。あの日わたくしはちょうど他の軍団長を城の外まで送っていたため、あの場にはいませんでしたが、報告書は読みました」


 報告書の通りならば、ゴーランはオーガ族らしいオーガ族であるはずだった。

 突撃によって敵陣を落とす様は、前部隊長と変わらない。


 ハイオーガ族が下克上で負けたのには驚いたが、戦争の最中である。

 そういうこともあると思っていた。


 数百年ぶりにおきた自国への侵略。

 今後のためにと、多くの情報を集めていた。


 ネヒョルの部下についてもしっかりと把握している。

 ゆえにゴーランがこの会議の席上で、あれほどしっかりと話せるとは思っていなかった。

 気になるかと言われれば……ものすごく気になる。


 オーガ族のわりになぜか知恵がまわる。

 ファルネーゼ将軍の仕込みだろうか。

 何らかの理由で、ゴーランに自分の意見を言わせたのだと最初は思った。


 だから最後のアレはその確認だった。

 わたくしが最初に言葉を紡ぎ、ゴーランにそのさきを促した。


 だれかが裏で糸を引いているのか確かめるためだった。

 きっとゴーランが言葉につまり、その者が代弁してくると考えていた。


 だがその目論見は外れた。

 ゴーランの返答を聞いて、裏にだれもいなかったことを確信したが、では「あのオーガ族は何なのだ」という問題が残っている。


「ファルネーゼ様の仕込みでないのでしたら、ネヒョルの差し金でしょうか」

 わたくしはネヒョルを信用していない。


 捉え所のない性格や言動に振り回されるからではない。

 わたくしからしたら、ネヒョルの行動は予想の範囲を出ることはない。

 ネヒョルは何かを待っているのだ。


 その「何か」が分からないだけで、ネヒョル自身はただそれだけのためにここにいるような気がしている。


 そのため、ネヒョルの部下であるゴーランがあのような発言をした背景に、ネヒョルからの入れ知恵でもあったのかと疑っている。


「ネヒョルは関係ないよ。フリではなく本当にね。ゴーランの考えは私たちとは違うし、ネヒョルとは大きく違う」


「何なのですか、その……考えとは」

「ゴーランは自分自身を下に見られても反応を示さなかった。ただ、オーガ族が同じように扱われたときは違う。本気で怒っていた」


 ゴーランがファルネーゼの爪を斬り落としたことは知っている。

 町の外まで軍団長らを送り、戻ってきたら一戦が終わったあとだった。


 オーガ族がヴァンパイア族に戦いを挑むなど、無茶や無謀を通り越して、自殺となんら変わりない。

 そのことを聞いて「やはりオーガ族は後先を考えないな」と思ったほどだ。


 だがさきの会議を聞いて確信した。

 ゴーランは、他のオーガ族とは明らかに違う。


「ネヒョルの息がかかっていれば、何かとこちらが不利になるような発言をするでしょうが、それはありませんでした」


 ゴーランの発言におかしなところはない。

 至極まっとうなことだけを述べている。


「そうだな。私も驚いているところだ。……というわけで、この後もいろいろ意見を引き出してみるのもおもしろいと思わないかい?」


「ファルネーゼ様のお好きなように。なにがあってもわたくしがフォロー致します」

「よし決まった。少し引っ掻いてみよう」


 ヴァンパイア族が引っ掻いた場合、それは致命傷となるのではないでしょうか。

 それ、分かって言っています?



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