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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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069

「フェリシアか。いまので何か気がついたことがあるか?」


 ファルネーゼ将軍が、知略で一番信頼を置いているのが、このフェリシアらしい。


 強さで一番信頼しているのが、メルヴィスの城に残ったアタラスシアらしいので、この二人は将軍の双璧なのだろう。


「今回の動きですが、もとをただせば天界の侵攻に端を発した下克上です」

「そうだな。魔王が斃されたことで、小魔王や魔王だけでなく大魔王ですら天界に警戒心を抱いている」


 ゆえに各地で戦争が活発になった。


「レニノスにしろ、ファーラにしろ、小競り合いがあったところで、魔王トラルザードが動くとは私も思えません。ですが天界がらみならば別です」


「ということは、フェリシアは魔王トラルザードの動きは、天界と関係があると?」


「想像の域を出ませんが、天穴てんけつが開いたのは、トラルザードのすぐ南のバロドト領です。また、トラルザード領には塩の柱もございます。天界関連が行動に影響を与えたと考えても、不思議ではありません」


「ふむ……」

 ファルネーゼ将軍は考えている。


 天穴というのは、数十年前に天界が侵攻してきたときに開けた穴のことだ。

 そこから天界の住人がやってきて、魔界で大暴れをして帰っていった。


 奴らの目的は、俺たちが体内に持っている「支配のオーブ」の奪取。

 天界では、「魔石」と呼んでいるものだ。


 天界の住人に敗れた魔王バロドトの国は、現在七つに分裂している。

 見る影もない状態だ。


 ちなみに塩の柱――別名「六塩柱ろくえんちゅう」とは、もっと昔に天界が侵攻してきたときの拠点跡地である。

 聖なる力みたいなもので魔界を覆うために、かなり無理して侵攻したが結局失敗。


 哀れ、使われた聖力は塩の柱として、いまだ魔界に残っている。

 だれも近寄りたがらないので、いまだ残っているらしい。俺は見たことないが。


「フェリシアの意見は分かった。他に意図があるかもしれないという前提で考えていこう。それで向こうが伝えてきた内容だが、それについてはどうだ?」


 将軍が尋ねると、多くの意見が出てきた。

 概ね、俺が考えたのと同じ内容だ。


 レニノスやファーラの野望を阻止するとはいっても、こちらの戦力では難しいのではないか。ではどうする? というところで、喧々囂々、まとまりがつかなくなった。


「……一旦休憩にするか」


 明日まで猶予があるとはいえ、早急に結論を出さねばならない。

 一旦、頭を休めようと考えたのだろう。

 将軍が俺の方を見た。


「そういえばゴーランは、提案に乗るのは反対だったな。どうしてだ?」

 また俺に話を振ってきた。

 まあ、聞かれたからには、答えなければならない。


「反対というより、現実的ではないとお伝えしました」

「そうだろうか。最初に与しやすい国を狙えば、力を蓄えることができると思うが」


「そうですね。いま小魔王ルバンガの国は、二国から狙われて窮地に陥っています。そのため、小魔王ロウスの国と同盟……助けを求めたわけです。幸い俺たちの国はロウスと領土を接していますので、ルバンガへ援軍を出した頃を狙って、ロウスに攻め入ることは可能だと思います」


 魔界で困るのは、A国とB国が戦っていると、C国が介入してくるところにある。

 どの国も戦いたくてしょうがないのだ。


 ABCの三国が戦っていると、D国が乱入してくる。

 そうなるともはや収拾が付かない。

 多数の国が入り乱れて、大きな戦乱が繰り返される。


「話を続けますと、この国がロウスに攻め入れば、おそらくレニノスの国が攻めてくるでしょう。おそらくではありませんね、間違いなくです」


 するとどうなるか。

 俺たちはロウスと戦いながら、ただでさえ強国であるレニノスとも戦わねばならない。

 こんなちっぽけな国が二面作戦などやったら、早晩詰まる。


 よしんば、成功してもロウスはルバンガと同盟を結んでいる。

 援軍が来られたら、目も当てられない。


「つまり、魔王トラルザードの提案は断るわけか」

「いえ、攻めるならレニノスの国でしょう」


 いまは戦闘状態なのだから、こちらから打って出る分には、他国を刺激しない。

 唯一攻められるかもしれないロウスはいま、他国への援軍で忙しいだろうから。


「……ん? 直接レニノスの国と戦っても勝利が難しいからこそ、どこかを攻めようと話していたのではないか?」


「そうですけど、もし戦うのならば他国ではなく直接レニノスを潰すべきです」

 潰せるものならば、とっくに潰している。


 会議に出た者たちの顔はそれを物語っていた。

 ……と、ここで援軍がきた。


「私もそう思います。ここで別の国に手を出すのは下策でしょう」

 意外なことに、フェリシアからだった。


「フェリシアもか……だが、勝てない可能性が極めて高いと結論が出たであろう。どうするつもりだ?」


「でしたら……」

 フェリシアは俺の方を見た。何か言えということだろう。


 俺は先ほどからずっと考えていたことはある。それを見透かされたのか?

 それとも俺のあとだと言いやすいとか? よく分からん。


「俺が考えますに、依頼を引き受けるかわりに、あの使者から何か譲歩を引き出せばいいかと。たとえば、レニノスの国に勝てるようになる何かを」


 俺の言葉にフェリシアはゆっくり頷いた。

 まあまあ、合格点だ。そう顔が物語っていた。


 フェリシアがなんか偉そうだ。

 戦略立案担当のくせにやたらと魔素量が多いから喧嘩は売らないけど。




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