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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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 この会議に集まった人数は十人を超える。

 ヴァンパイア族だけでない。


 全員がこの町で重要な地位に就いているのだろう。

 魔界の住人は会議ばかりやっている印象を受けるが、これは伝達手段が限られているからである。つまり仕方なくだ。


「会えた人にだけ伝えればいいや」なんて考えていると、誰に何を話したか分からなくなってしまう。

 重要な案件でそれをやったら致命的だ。


 また、各自の判断で動いてもらうため、情報を小出しにして少しずつ伝えるというのもよろしくない。

 大事なときにいつでも連絡がとれるとは限らないのだから。


 そういうわけで、ファルネーゼ将軍が集めたこのメンバーは、詳しい内容を知るべき人材であり、彼らは将軍が信を置くにたる力を備えていることになる。

 俺を除いてだが。


「みな、よく集まってくれた。今日来てもらったのは他でもない。魔王トラルザードの使者について話し合うためだ。最初に概要を伝える。そのあとで忌憚のない意見を聞かせてほしい」


 ファルネーゼ将軍は、会談にいたるまでのあらましと、会談の内容、そして会議を開いた理由を語った。


 前も思ったが、将軍は話をまとめるのが上手い。横で聞いていて、とても分かりやすい。

 人の上に立つ者が、下の者に誤解なく物事を伝えられるというのは、希有な能力ではなかろうか。


「……というわけで、内容を一旦持ち帰ってきた。明日また同じ場所で会談を行うが、そのときまでに結論を用意していかねばならない。……みなの意見を聞かせてくれ」


 将軍の話が一通り終わると、みな一様に考え込む。

 思ったことをすぐに口に出すオーガ族と違って、思慮深いようだ。


 彼らはみな、ファルネーゼ将軍の貴重な部下たちだと分かる。

 会談で犬死にさせたくなかったと将軍が言ったのも分かる。


 だからと言って、俺が会談に同行して死んでいいとは限らない。

 その辺は今度将軍に、しっかり伝えておこう。


「そのメラルダという者の雰囲気ですが、どんな感じだったのですかな。……我らに伝えた内容ではなく、本人がどう思っているかですが」


 老齢なヴァンパイア族が口を開いた。


 会議の場で自己紹介とかしていないので、俺は誰が誰だか分からない。

 服装から、事務方のようだ。政治家とか文官のようなイメージがある。


「私が思うに、純粋に魔王の言葉を伝えに来ただけように思う。ゴーランはどう感じた?」

 ここで俺に振るのか。

 まあ、会ったときの印象なら、答えなければならない。


「俺の場合、あの会話の中でひとつ、違和感を抱きました」

「ほう? 違和感とは?」


「魔王トラルザードが南と北で二面作戦を強いられているのは本当でしょう。ただ、レニノスにしろ、ファーラにしろ、メラルダ自身はまったく歯牙にかけていない印象を受けました」

「ふむ、それで?」


「かりに魔王国が誕生したところで、メラルダは気にしないと思います。ですが、そう考えるとおかしいのです。さらに格上のトラルザードならば、もっと気にする必要がありません。たとえ気にする必要があったとしても、こんな早くから動く必要性を感じません」


 俺が感じた違和感の正体は、「動きが早すぎる」だ。

 戦争が終わったのを見計らったようにやってきて、野望を阻止してほしいと提案してくる。


 こんな小国に借りを作るほど、追い詰められているはずはないのだ。


「すると、目的は別にあると?」


「魔王トラルザードが東の安定を欲していて、メラルダがただそのメッセンジャーをしている可能性はあります」

「メラルダの言葉をそのまま受け取るとそうなるな」


「はい。ただ、安定を欲するならば、攻め入って支配すればいいでしょう。ですが、今回はわざと迂遠な方法をとった……そんな印象を受けました」


 攻め込まない理由を述べていたが、あれだってただの理由付けとも考えられる。


「つまりメラルダの説明した言葉を額面通り受け取らない方がいいということか。たしかに、口調とは裏腹に、どうでもいいような雰囲気ではあったが」


 ファルネーゼ将軍は、あのときの会話を思い出している。


「そもそも野望を阻止し、この周辺国は小魔王国のままでいろというのはどうにも解せません。別の目的も視野に入れておくべきではないでしょうか」


 ここまで俺が話したら、会議に参加した者たちが「なんだこいつ?」という顔をした。

 考えてみれば、ファルネーゼ将軍を除いて、俺が一番喋っている。


 あれ? どうしてこうなった?


 というか今気づいたが、俺の座っている位置がおかしい。

 なんでファルネーゼ将軍の近くにいるんだ?


 これは「上座かみざ」というやつではなかろうか。

 魔界に上座という風習はないが、偉い人の周囲は実力者で固めるのが普通だ。


 そして俺は普通のオーガ族だ。

 なるほど、みなが変な顔をした理由は分かった。

 分かったが、どうしようもない。


 ここは気づかぬ振りをしよう。なにしろ俺はオーガ族だ。

 そういうことに気づいてなくてもだれも不審に思わない。


「今の意見について、少しだけよろしいでしょうか」


「フェリシアか。言ってくれ」

 将軍の知略担当のフェリシアが手……いや、羽を高く上げた。




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