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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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 いつの間にか、俺以外が跪いていた。

 というか、俺だけ出遅れた。


 ファルネーゼ将軍が出てくるところをじっと見ていたのがいけなかったようだ。

 他の連中をまったく見ていなかった。


 どうしようか。今から慌てて跪くのも変だし……と思っていたら、ファルネーゼ将軍から許可の言葉が出た。


「よい。オーガ族に完璧な礼節を求めようとは思わない」


 なるほど、たしかにオーガ族には、礼儀に疎い面はある。

 だが、俺はやればできるオーガ族だ。

 跪く事くらいできる……今さらなので、やらないけど。


 ファルネーゼ将軍が中央の高いところに立ち、俺たちを眺める。


「戦果報告にはすべて目を通した」

 凜と響く声が広間にこだました。よく通るいい声だ。


 ファルネーゼ将軍の顔は、バタ臭い顔の美女といったところか。

 病的なほど真っ白な肌は、ヴァンパイア族特有のものだ。

 かわりに唇が真っ赤に染められている。

 そのコントラストがまたいい。まるでハリウッドの映画女優のような華があった。


「そなたらはさきの戦いでよく守り……」


 ファルネーゼ将軍の口上が続く。

 報告をすべて読んだというのは本当らしい。


 見晴らしの丘攻防戦について、よく知っている。

 俺の知らない他の部隊長の動きまで把握している。


 夜の作戦会議ではたまに報告を聞いていたが、なるほどそういうことだったのかと、納得することも多い。

 さすが将軍、凄いわ。


「また、ギガントケンタウロス族が構築した陣を攻め……」

 俺の部隊の話に移った。


 脚色されるでもなく、かといって適当にごまかされるわけでもない。

 事実をありのまま述べている感じだ。


 この報告を行ったのはコボルド族だと思うが、彼らはこのような感情を廃した報告ができるのかと、ちょっと見直した。


「……以上を鑑みて、軍団長ネヒョルには銀翼ぎんよく徽章きしょうを贈る。また、部隊長にはそれぞれ青銅剣牙(けんが)徽章を贈るものとする」


「「ははーっ!」」

 みながさらに深く頭を下げた。


 ……俺はどうしよう。


 立ったままだしな。

 エビってみようか。ウケるかもしれない。


 ……もちろんやらないぞ。ちゃんと、お辞儀をしておいた。


 ファルネーゼ将軍の口上が終わったからか、お盆を持った部下がやってきた。徽章が載せられている。


 そこで全員が立ち上がった。これで横並びだ。俺が目立たなくなった。


 ファルネーゼ将軍の部下は、俺たちに徽章をつけていく。

 これは前世でいう勲章と同じだろう。感謝状がないだけで、意味は変わらないと思う。


「……そして戦果著しかった軍団長ネヒョル」


「はっ」


 さすがにネヒョル軍団長も、こんなところではおちゃらけないようだ。

 真面目な声を出している。


「敵軍団長を撃破した褒美を与えようと思う。なにか希望はあるか? もちろん私の権限で何とかなる範囲でだが」


「だったら、地下書庫の閲覧許可がほしいかな」

 普通の口調に戻った。


 どうやらネヒョル軍団長も、あらかじめ何をもらうか決めていたらしい。

 しかし、本の閲覧許可か。敵の大将を撃破したというのに、欲のない。


「あれは小魔王メルヴィス様の書庫。他の二将軍が何というか……」

 でもないのか。将軍が悩み始めたぞ。


「でも将軍も書庫の管理者のひとりだよね」


 どうやら、三人の将軍それぞれが地下書庫の鍵を持っているらしい。

「たしかに鍵は持っているが、過去将軍以外でメルヴィス様の蔵書を閲覧した者はいないのだが……」


 ファルネーゼ将軍はしばらく悩んでいた。


「……よし、閲覧時に部下を付ける。それで許可しよう」

「ありがとうございます。やったー!」


 どうやらネヒョル軍団長の目的は達せられたようだ。


「他の二将軍は私から話を通しておこう。……つぎに、敵の部隊長を二体倒したゴーラン」

「はっ!」


「同じく、褒美を授けよう。……地下書庫の閲覧でもよいぞ」

 俺を軍団長の監視役にするつもりか。二人一緒だと面倒が省けてよいとか?


「いえ、俺は……これに代わるものを戴きたいと思います」

 腰の刀を鞘ごと抜いて前に出した。


「ふむ……」

 ファルネーゼ将軍が目配せをすると、部下のひとりが俺の刀を取りにきたので渡す。


「……細身の片刃剣か」

 シャラリンと刀を抜いて、そんなことを呟く将軍。


「たしか、城の武器庫に似たようなのがあったな……」

「ファルネーゼ様、ゴーランは深海竜しんかいりゅうの太刀を希望するようですよ」


 ネヒョル軍団長が将軍の言葉にかぶせてきた。


「深海竜の太刀か……あれは私の屋敷にあるが……ふむ?」


 なんだ? 軍団長は俺にどうしてもその太刀を持たせたいのか?

 戦力増強のため? よく分からん。


「ゴーランよ、深海竜の太刀を希望するのか?」


「はい。できましたら、お願いします」

 そう、俺は空気の読める男なのだ。


「……分かった。あれは、私の持ち物であるから、渡すのに誰の許可もいらない。ただし私物ゆえ、人任せにはできんな。私が直接渡すから町まで取りにきなさい」


「はっ、ありがとうございます」


 俺は刀を返してもらってから、深く感謝の念を述べた。

 ちなみにロボスたちに褒美はない。


 徽章と違って、褒美は敵将を討った者にのみ与えられるようだ。


 こうして論功行賞は終わった……わけではなかった。


「おまえたち、少し話さないか?」


 ファルネーゼ将軍はこのあと予定がないらしく、新しく部隊長になった俺に興味を持ったようだ。


 場所はこのまま。また、軍団長含めて全員が残っている。

 ファルネーゼ将軍としては、ちょっとした雑談をしたい感じか。


「しかし、本当にオーガ族なのだな」


 将軍は壇上から降りてきて、きさくに話しかけてきた。




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