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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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 その日から俺は、天幕の中で喰っちゃ寝の生活を五日間続け、歩いても支障ないほどに回復したので、村に帰ることにした。


 他の天幕では、いまだ重傷の者たちが傷を癒やしている。

 こんな世紀末ヒャッハーな世の中だからこそ、はやく元気になってほしいと思う。


 帰りがけに町へ寄ってみた。

 戦争中はじいさんたちだけ残ってあとはみな避難した後だったが、今日は違っていた。


「町の住民は戻って来ていたんだな」


 と言っても、出歩いている住民は非常に少ない。

 見かけるのは、好奇心旺盛な妖精種ばかりだ。


 樹妖精種は足が遅いため、まだ到着していないのだろう。


「じいさんは……いたいた」


 公園に向かうと、見覚えのある木が目に入った。

 公園には子供の姿は無い。戦争が終わったとはいえ、家族づれが戻ってくるのはまだ先になるかもしれない。


「よお、じいさん」

 話しかけたが、応えはない。枝を動かすこともなければ、葉を揺らすこともない。

「そうか。俺と同じ回復中か」


 年内はしゃべれなくなると言っていたし、仕方ないのかもしれない。

 この町を守ったじいさんたちだ。俺も守られた。


「家に帰るよ、じいさん。また来るからな。そしたら子や孫やひ孫に玄孫だっけ? 紹介してくれよ」


 俺はじいさんの身体を数回撫でて、その場を後にした。

 来年になったら、顔を出してみよう。また、この前のような「ほっほっほ」という笑い声が聞こえることだろう。




 数日間かけてゆっくりと歩き、俺はようやく自分の村に帰り着けた。


「ゴーランじゃないか。来たのか?」

「来たのかって何だよ。ここは俺の村だよ」


「そうだったな……てっきり町に住むのかと思ったぜ」

「住まねえよ。俺は……村に住んでいいんだよな?」


 不安になってくる。

 帰って来るのが遅くなっただけで、忘れられてないよな。俺の家はちゃんと残っているよな?


「ゴーランじゃないのさ。いらっしゃい」

「そこはおかえりだろ!」


 なんでお客様扱いなんだ?

 本当にここは俺の村でいいはずだよな。


 心がえぐられたので、なるべく村人に会わないように歩く。


 程なくして、自分の家が見えてきた。

 村人の多くは戦争で減ってしまった。いまは無人の家が多く残っている。


 部隊長になって、そのひとつに俺が住んだのだが、大丈夫だよな。

 まだ俺が住んでいいんだよな。


「……ただいま?」

 おそるおそる戸を開けると、ベッカがいた。


 ここ……俺の家だよな? なんでベッカがくつろいでいるの?


「あれ? ゴーランじゃん。どうしたの?」

「それはこっちが聞きたいわ! なんでベッカがここにいるんだよ」


「そうそう、ゴーラン。聞いてよ」

「その前に俺の質問に答えろ」


「兄ちゃんがさあ……家を出て行っちゃったんだよ」

「お前が俺の家に……って、サイファが? 家を出た?」

 なんだそれは?


「オレはゴーランのようにもっと強くなれるとか言っちゃって、修業に行くって」

「修業って……本当に行ったのか」

 サイファが行ったところで、大して強くなれないだろうに。


 ああ、あいつ。そういうのも分からないか。


「どこへいったんだ?」

「山もごり?」

「山ごもりな。……あいつ山に行ったのか。ここだって山みたいなものだろうに」


 俺が山にこもったのは、理論を実践するのに他人の目を避けたことと、誰にも邪魔されたくなかったからだ。

 そのおかげで集中して修業できた。


「その山ごもりってやつしてくるって……三日前に出て行っちゃったんだよ」

「形だけ真似してもしょうがないんだが……三日前か。俺が村に向かって歩いている途中だな。道では会わなかったが」


 ということは、どこか近くの山だろう。

 あまり気にしてもしょうがなさそうだ。


「ベッカ。とりあえずあいつのことは気にするな。どうせ食糧が無くなったら、腹が空いたと言って戻ってくるさ」

 それでも半月やひと月は掛かるだろうが、オーガ族の強さを舐めてはいけない。


 サバイバル技術がなくても、しっかり生き残ることができる。


「だって兄ちゃん、あたしのことを置いていったんだよ。どこへ行くにも一緒だって言ってたのに」


「男にはやらなくてはならない時もあるのさ。分かってやれ。あいつは、それが今なんだ。あいつは今、必死に生きている。俺たちはそれを応援してやろう」


「そっか。そうだね。兄ちゃんが頑張ってるんだね」

「そうだ。頑張っているさ。だから……」


「ただいま。おっ、ゴーラン、いたのか」

「兄ちゃん!」


「台無しだろ!」


 サイファが帰ってきやがった。


「ん? どうしたゴーラン。そんなに怒って」

「おまえ、山ごもりしに行ったんじゃなかったのか?」

 まだ三日目だろうに。


「ああ、行った。行ったんだが、途中で支配を受けてない種族がいるって噂を聞いてな。そこへ向かったんだ」


「祭りの前に聞いたな。その話。死神族のことだろ?」

「いや、あれとは別件だったらしい。水源近くの洞窟にいるらしくて、近くの村で困っていたから戻ってきた」


「なんで村が困っているとお前が戻ってくるんだよ」

「そりゃ、ゴーランに丸投げするからに決まってるだろ」


「俺かよ!?」

「部隊長なんだから、当然なんじゃないか?」


「そうだよね、当然だよ」

「ベッカもかよ」


 何で駄兄妹は当然のごとく、俺に面倒事を押しつけようとするんだ?


「というわけで、ゴーラン。頼むな」

「まあ……部隊長だし、最終的には俺のところに話が来るんだろうが……それでどんな種族なんだ?」


「水草の背が高くてよく分からなかったと。普段は洞窟の中で住んでいるらしいし」

「水辺の種族か。やっかいだな」

 攻撃的な種族ということもある。


 戦闘系種族の場合、そして数が多いといきなり襲ってきたりする。

 どうするかな。確かめに行きたくないな。


 そんなことを考えていたら、リグがやってきた。


「今回戦場に向かった部隊長以上の者は、城に集合するよう指令が出ました」


「城か……集めたのはだれだ?」

 小魔王メルヴィスはいまだ起きていないはず。


「指令はファルネーゼ将軍の名で出されています」

 ネヒョル軍団長の行っていた論功行賞か。


「分かった。将軍の招集じゃ、すぐに行った方がいいな」

 軍団長経由で話が来たのだろうが、俺の村は辺鄙な場所だ。急いで向かっても到着が最後になるかもしれない。


「というわけで、サイファ。そっちの件は戻ってからだな」

 深海竜の太刀ね……くれと言ったら、本当にくれるのだろうか。


 それを言い出したのって、ネヒョル軍団長なんだよなぁ……また変なトラップとか仕掛けてないよな。


 ちょっと不安だ。




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― 新着の感想 ―
トレントの爺さんの再登場ないかなー、スピンオフとかでもいいから
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