055
戦いが終わったので、部隊は解散。めいめい帰路に就く。
俺の場合、怪我が酷いのでみなと同じようには帰れそうに無い。
死神族はペイニーに、オーガ族はサイファに任せて先に帰した。
「こりゃきついな」
全身に痛みが走っている。俺からおれに変わった反動もあるだろう。
あと、筋肉痛か。
歩けないほどじゃないが、村まで数日かかる。怪我した身体で歩きたくない。
そのため、戦傷者と一緒に陣に残ることにした。
敵がいる限り戦線を維持する予定でいたため、食糧がいっぱい残っている。
コボルド族がここぞとばかり世話してくれるので、四、五日も横になっていれば、帰れるくらいに回復するだろう。
そう思って、呑気に横になっていた。
「……ん? 騒がしいな」
ここは戦傷者を癒やす場所だ。
怪我人がいるから静かにしようなんて殊勝な者はいない。
だが、残っているのは全員起き上がれないような者ばかり。
騒ぐ体力のある者の方が珍しいのだ。
何が起きたのか分からないが、俺は横になったままふて寝を決め込んだ。
すると、騒がしさの方が近寄ってきた。
ベッドなんて上等なものはなく、板の上に丸太の枕で寝ているだけの状態だ。
唯一文明的だなと思うのは、天幕があることくらいだ。
これがあるだけで、雨風が避けられるので、重宝している。
そんな場所にやってきたのは……。
「やあ、ゴーラン。元気している?」
「元気なら村に帰ってますよ、ネヒョル軍団長」
「まあ、そうだよね。声だけ聞けば元気そうだけど?」
「無理すれば帰れるんですが、大事をとっているだけです。……それで軍団長も治療ですか?」
俺の場合、頭や腕、足に包帯を巻いているだけだが、軍団長は違う。
片足がない。
ヴァンパイア族らしく顔色は悪いままだが、どうにもやつれているようにみえる。
「治療は終わったんで、いまは魔力の回復を待っている感じだね。食べて寝ていれば治るんじゃないかな」
「軍団長は、相変わらず不思議な身体ですね」
手首を生やしたり、斬った腕をつなげたりする人だ。
足だってそのうち生えてくるのだろう。
「でもちょっと時間がかかるかな。足がないと不便でしょ」
「そうですね」
「飛べばいいんだけど、それだと治るのに時間がかかるし」
なるほど、ヴァンパイア族の飛行も魔素を使って行うのか。
身体の一部を生やしたり、切断面をつなげたりするのも魔素を使うのだから、軍団長の言い分も分かる。
「それでもここで療養しているのは一般兵ばかりですよ。軍団長なら、専用の天幕くらいあるでしょうね」
「あー、違う、違う。ここへ来たのはゴーランに会いにだよ」
「俺ですか?」
なんだろう。軍団長が俺に話?
「ゴーランは今回活躍したよね」
「そう……ですね」
なんか、含みのある言い方だな。
「たぶん、将軍から褒美の打診があると思うんだ」
「そうですか……でも将軍から? 将軍が俺の事を知っているんでしょうか」
「その辺の報告はコボルド族が全部やっているはずだよ。彼らはそうする義務があるし。ただし、ファルネーゼ将軍はいちいち部隊長の戦果なんか確認しないけどね」
ん? 話が矛盾していないか?
「だったらどうして俺に褒美が出るって分かるんですか?」
「そりゃ、ゴーランが活躍したからじゃん。さすがにあれをなかったことにはできないと思うよ。将軍が直々に褒美を渡すんだ、他の部隊長の励みにもなるしね」
なるほど、論功行賞か。
「分かりました。そのときは、ありがたく受け取っておきます」
「それでね」
まだあるのか。
「ゴーランが欲しいものを聞かれるから、『頸骨の太刀』を希望したらどうかなと思ってね」
「頸骨の太刀ですか……それはどういう?」
「深海竜の首の骨を削り出して作ったものらしいけど、ファルネーゼ将軍が持っているんだ。ゴーランが使っているものによく似ているんだよね。あれよりももっと良いものだからちょうどいいかなと思って」
「ほう……」
ネヒョル軍団長が言っているのは、俺が持ってきた刀のことだよな。
それはいいことを聞いた。
「まあ、そういうことだから覚えておくといいよ」
「気を遣っていただいて、ありがとうございます」
「ううん。じゃーね」
軍団長は天幕を出て行ってしまった。
「頸骨の太刀か……深海竜って聞いたことがないな」
深海というくらいだから、魔界の海の底に住んでいるのだろうか。
何千メートルの深海……いや、へたすると、何万メートルとか?
そんな深い所にいる竜なんて、想像がつかないな。
水圧に耐えられるんだろうか……ああ、だから骨が硬いのか。
褒美に深海竜の骨で作った太刀か……ちょっと興味が出てきた。
いや、それを望んだとして、くれるのか?