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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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 戦いが終わったので、部隊は解散。めいめい帰路に就く。

 俺の場合、怪我が酷いのでみなと同じようには帰れそうに無い。


 死神族はペイニーに、オーガ族はサイファに任せて先に帰した。


「こりゃきついな」


 全身に痛みが走っている。俺からおれに変わった反動もあるだろう。

 あと、筋肉痛か。


 歩けないほどじゃないが、村まで数日かかる。怪我した身体で歩きたくない。

 そのため、戦傷者と一緒に陣に残ることにした。


 敵がいる限り戦線を維持する予定でいたため、食糧がいっぱい残っている。

 コボルド族がここぞとばかり世話してくれるので、四、五日も横になっていれば、帰れるくらいに回復するだろう。


 そう思って、呑気に横になっていた。


「……ん? 騒がしいな」


 ここは戦傷者を癒やす場所だ。

 怪我人がいるから静かにしようなんて殊勝な者はいない。


 だが、残っているのは全員起き上がれないような者ばかり。

 騒ぐ体力のある者の方が珍しいのだ。


 何が起きたのか分からないが、俺は横になったままふて寝を決め込んだ。

 すると、騒がしさの方が近寄ってきた。


 ベッドなんて上等なものはなく、板の上に丸太の枕で寝ているだけの状態だ。

 唯一文明的だなと思うのは、天幕があることくらいだ。


 これがあるだけで、雨風が避けられるので、重宝している。

 そんな場所にやってきたのは……。


「やあ、ゴーラン。元気している?」

「元気なら村に帰ってますよ、ネヒョル軍団長」


「まあ、そうだよね。声だけ聞けば元気そうだけど?」

「無理すれば帰れるんですが、大事をとっているだけです。……それで軍団長も治療ですか?」


 俺の場合、頭や腕、足に包帯を巻いているだけだが、軍団長は違う。

 片足がない。


 ヴァンパイア族らしく顔色は悪いままだが、どうにもやつれているようにみえる。


「治療は終わったんで、いまは魔力の回復を待っている感じだね。食べて寝ていれば治るんじゃないかな」

「軍団長は、相変わらず不思議な身体ですね」


 手首を生やしたり、斬った腕をつなげたりする人だ。

 足だってそのうち生えてくるのだろう。


「でもちょっと時間がかかるかな。足がないと不便でしょ」

「そうですね」


「飛べばいいんだけど、それだと治るのに時間がかかるし」

 なるほど、ヴァンパイア族の飛行も魔素を使って行うのか。


 身体の一部を生やしたり、切断面をつなげたりするのも魔素を使うのだから、軍団長の言い分も分かる。


「それでもここで療養しているのは一般兵ばかりですよ。軍団長なら、専用の天幕くらいあるでしょうね」

「あー、違う、違う。ここへ来たのはゴーランに会いにだよ」


「俺ですか?」

 なんだろう。軍団長が俺に話?


「ゴーランは今回活躍したよね」

「そう……ですね」

 なんか、含みのある言い方だな。


「たぶん、将軍から褒美の打診があると思うんだ」

「そうですか……でも将軍から? 将軍が俺の事を知っているんでしょうか」


「その辺の報告はコボルド族が全部やっているはずだよ。彼らはそうする義務があるし。ただし、ファルネーゼ将軍はいちいち部隊長の戦果なんか確認しないけどね」

 ん? 話が矛盾していないか?


「だったらどうして俺に褒美が出るって分かるんですか?」

「そりゃ、ゴーランが活躍したからじゃん。さすがにあれをなかったことにはできないと思うよ。将軍が直々に褒美を渡すんだ、他の部隊長の励みにもなるしね」


 なるほど、論功行賞か。

「分かりました。そのときは、ありがたく受け取っておきます」

「それでね」

 まだあるのか。


「ゴーランが欲しいものを聞かれるから、『頸骨けいこつの太刀』を希望したらどうかなと思ってね」

「頸骨の太刀ですか……それはどういう?」


深海竜しんかいりゅうの首の骨を削り出して作ったものらしいけど、ファルネーゼ将軍が持っているんだ。ゴーランが使っているものによく似ているんだよね。あれよりももっと良いものだからちょうどいいかなと思って」

「ほう……」


 ネヒョル軍団長が言っているのは、俺が持ってきた刀のことだよな。

 それはいいことを聞いた。


「まあ、そういうことだから覚えておくといいよ」

「気を遣っていただいて、ありがとうございます」


「ううん。じゃーね」

 軍団長は天幕を出て行ってしまった。


「頸骨の太刀か……深海竜って聞いたことがないな」


 深海というくらいだから、魔界の海の底に住んでいるのだろうか。

 何千メートルの深海……いや、へたすると、何万メートルとか?


 そんな深い所にいる竜なんて、想像がつかないな。

 水圧に耐えられるんだろうか……ああ、だから骨が硬いのか。


 褒美に深海竜の骨で作った太刀か……ちょっと興味が出てきた。



 いや、それを望んだとして、くれるのか?




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