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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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◎みはらしの丘 サイファ


 オレたちは敵陣へと殴り込みをかけた。

 目の前には高い擁壁がある。これをゴーランは、木の棒を使って軽々と越えてみせた。


 オレもゴーランに続いて敵の擁壁を飛び越えた。

 これは棒高跳びと言うらしい。村で散々練習させられたやつだ。


 なんでも今回みたいに高い壁を越えるとか、流れの速い川の向こう岸に飛んで行くのに必要なんだとか。


 あいつはどうしてこう、よく分からねえものを考えつくのかね、心底そう思う。


「うらぁあああ!」


 目についたケンタウロス族をぶん殴る。

 もんどり打って倒れていったが、やっぱりオレは強いよな。


 弓と矢を持っていたが、どこかへ飛んでいったようだ。

 震えながら起き上がりかけたんで、土手っ腹に蹴りを入れたら、ソイツは動かなくなった。


 ケンタウロス族ならばオレは武器なしでも渡り合えるようだ。

 オレはそれだけ強い……だのになんで、ゴーランには勝てないんだ?


「オレが年間百敗もしているのは、なにかの間違いかと思っちまうぜ」


 とにかく何度戦っても、ゴーランには勝てない。


 まあ、最近は奴に勝つのは諦めている。

 なにしろ部隊長になったゴーランは、オレの手の届かない相手にも次々と喧嘩を売っているらしい。


「……よし、コイツを使ってみるか」

 村にいるレプラコーン族の鍛冶屋に頼んで作ってもらった一品、いや二品か。


 背中にくくりつけた武器をオレは抜いた。


 それは他のオーガ族が使う金棒に似ている。

 持ち手の太さは同じくらいだ。ただしオレのは、先にいくに従って太くなっている。


 重量も他の金棒の倍以上ある。

 オレはそれを両手でそれぞれ持った。


「さあ、かかってきやがれ」


 第二の擁壁を抜けたあとは、武装したケンタウロス族が相手だった。

 だが鎧を着ていようとも、これを一振りすれば同じだ。

 たった一撃で、血反吐を吐いて昏倒する。


「おら、おら、おらぁ!」


 おもしろいようにケンタウロス族が吹っ飛んでいく。

 今まで二撃を必要とした奴はいない。やっぱりオレは強いんだけどなぁ……。


「ところでゴーランはどうした?」


 さっきまで近くにいたはずだが……そう思ったら、もの凄い魔素の気配があった。

 敵のボス、ギガントケンタウロス族だ。よかった、ここからは遠い。


 そしたら、いつの間にかゴーランがそいつと対峙していた。


「ありゃ、ちょっと分が悪いんじゃないか?」

 魔素量の差が圧倒的だ。


 勝てる、勝てないじゃなく、喧嘩にならないレベルの話だ。


「大牙族を倒したって聞いたが、ゴーランのやつは、いつもああいう絶望的な戦いをしているのか?」

 それで生き残っているっていうのが、ちょっと考えられねえ。


 そんなことを思っていると、死神族の……なんだっけ。ペとか、パとか言ったやつが、オレたちを集めてどこかへ連れて行こうとしやがる。


 もちろん面白そうだから、ついていくことにした。

 オレのまわりのやつらもみんなそうだ。


 そしたら戦場を大きく迂回して、ギガントケンタウロス族の横に出た。

 そんで、腰のものを投げろと言ってくる。


 腰に吊り下げたもの――鎖に重りがついた道具だ。たしか、ボーラと言ったか。

 これもゴーランが考え、オレたちが練習したものだ。


 オレたちはギガントケンタウロス族に向けて、それを力の限り投げ続けた。


 そして敵ボスの動きが制限されはじめたとき、それ(・・)は起こった。


 ゴーランの魔素量が、あり得ないほど上昇したんだ。




 ゴーランの魔素量が増えた。

 ちょっと驚きすぎて、意識が一瞬飛んでいた。


 気がついたら、ゴーランは凄い速さで突っ走り、ギガントケンタウロス族の前足に金棒をぶち当てていた。


 一撃で金棒がひしゃげるくらいの強攻撃だ。

 しかも壊れやすいひざを狙いやがった。性格がよく出ているな。


 ひしゃげた金棒でもう一撃。今度は金棒が反対方向に折れ曲がった。

 ギガントケンタウロス族が痛みで飛び上がろうとした。

 鎖で縛られたのを忘れたのか、失敗して横倒しになった。あの姿はちょっと滑稽だな。


 ゴーランはギガントケンタウロス族に掴みかかり……ああ、あれだけ魔素量が増えると、肉弾戦でもダメージが与えられるのか。


 だがギガントケンタウロス族も負けてねえ。

 身体を変な風に動かしていると思ったら、鎖を引きちぎりやがった。なんてパワーだ。


 そのままひづめでゴーランの身体を蹴りぬいた。

 おおっ、ゴーランは地面にめり込んで死んだ……わけじゃなさそうだ。元気に這い出てきた。


 あれだな、魔素量が増えたのはオレの勘違いじゃないらしい。

 本来ならば、さっきの蹴りでゴーランの体中の骨が粉々になって死ななきゃおかしいはずだ。


 あれで元気に反撃できるんなら、強化された魔素で身体が頑強になっているに違いない。


「あのやろう……隠してやがったな」

 オレと戦うときには、わざと低い魔素量で戦っていたわけか。


 オレ相手ではそれで十分ってわけだな。腹が立つ。

 村に帰ったら、またひと勝負挑んでやろうじゃないか。


 おっ、ゴーランはさっき金棒で打ち据えた前足にとりついた。

 顔を真っ赤にして力を入れている。何をする気だ?


 おおっ、あのやろう、力だけでギガントケンタウロス族の前足を一本、折りやがった。できるのか、そんなこと。

 敵もさすがに驚いたようだ。慌てて立ち上がったが、足が一本、ブランブランしている。これで奴はもう走れねえ。


 つまり、逃げることはできないってわけだ。

 ゴーランとギガントケンタウロス族。どちらが先に力尽きるか、デスマッチの始まりだぜ。


 オレはそれを特等席で見ることにした。


 ……と思ったら、ベッカのやつもちゃっかりオレのとなりにいやがった。


「面白いのがはじまりそうだね、兄ちゃん」

「ああ……どうなるかな」


 ゴーランは脇腹、ギガントケンタウロス族は前足を折られている。

 ここからが本番だ。




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