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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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 電柱のような矢を射るなんて芸当ができるのは、たった一体しか思いつかない。


「ギガントケンタウロス族か」


 ケンタウロス族が二段階進化した一族。

 ただのオーガ族など、いい的だろう。


 破壊された擁壁の隙間から、武装したケンタウロス族がやってきた。

 弓を構えていたさっきの連中と違って、明らかに近接に特化した重装鎧だ。

 全員が盾と片手槍を手にしている。


「出てきた奴らを打ち倒せ!」

 そう叫んだ俺は、戦うケンタウロス族の姿を見て、日本で聞いた昔話を思い出した。


 かつて、人類がまだ統一の暦を使っていなかった大昔。

 遡ることができないほど古い伝承に、山羊の半人で「パン」という牧神が出てくる。


 開墾や豊穣、遊牧など、人々の暮らしを豊かにするその牧神とは別に、半人半馬のケンタウロスの伝承がある。

 狩猟を司る彼らは、いわゆる外からやってきた蛮族であり、弓を持ち、攻撃的な性格をしていたという。


 魔界に転生し、オーガ族として生まれた俺は、日本の昔話をすぐに思い出した。

 赤鬼や青鬼だ。


 だったら、他にも伝承や昔話に登場する種族がいるかもしれない。

 そう考えて、様々な種族の情報を集めた。同時に、出来る限り、生前見聞きした伝承を思い出すことにした。


 なぜ彼らは、地球――日本で知られている姿そのままで存在しているのか。

 その問いの答えはまだ出ていない。


 ただし、俺にはひとつの仮説がある。

 何百年も生きている魔界の住人に聞いても、人界から人間がやってきたという話は聞かない。

 いま魔界で人間を見た者は皆無だろう。


 だけど、この世界には魔界だけでなく天界と人界があり、天界からの侵攻は現実的な脅威として語られている。

 つい最近だって大きな侵攻があったばかりだ。天界の存在を疑うわけにはいかない。


 では人間のいる人界はどうだろうか。

 魔界と人界との行き来はまったくなく、ただ、人界には人間がいる……という話が伝わっているに過ぎない。


「もしかすると、人界って……地球?」


 そう考えることがある。

 はるかな過去、人間が魔界に来たか、魔界から人界に渡りまた戻ってきた魔界の住人がいるかもしれない。


 そして地球でも、魔界の住人の姿を見て、遥か昔の伝承として残ったのではないか。

 そう思えてくる。


 日本の場合、魑魅魍魎ちみもうりょうが日常として語られていたのは、平安時代。千年前だ。

 他国でも怪物の伝承が残っているのは千年、二千年も前の話。


 その頃までは魔界の住民が、地球に来ることがあったのかもしれない。

 なんて思ったりする。


「いま行き来が出来たら大変だよな。双方が戦うと被害が甚大になる」


 地球では人口が増えに増えている。

 都会でオーガ族が暴れただけで、何百人もの死者が出る。


 逆に、どれほど個体が強かろうとも、科学力の前に魔界の住人は敗北してしまうだろう。

 それを考えると、行き来がない方が幸せになれる。


「というのは俺の穿った考えかね。ただの妄想だよな」


 俺が日本で死んで、輪廻転生の輪から少しだけ外れて、人界で生まれ変わるはずが、魔界に紛れ込んでしまったなんてこと……ないよな。


 まあいい。いまは目の前の敵をなんとかするだけだ。

 槍を持ち、鎧を纏ったケンタウロス族の姿は、一見攻めどころがないように見える。

 だが俺には知識がある。武装したケンタウロス族を簡単に倒せる知識が。


「足を狙え!」


 ガチガチに身を固めているが、四つ足の部分には何も付けていない。

 軍馬の武装を考えれば分かりやすい。足にまで鎧を付けると歩きにくいのだ。


「あれだけハッキリと弱点を晒していても、脳筋は狙わないんだよな」


 槍のリーチは長いが、投石に比べたらどうということもない。

 オーガ族はケンタウロス族の足を狙って次々と投石する。


 プロ野球の一流投手並のスピードで岩が足に当たる。


 肉食動物の場合、足を怪我すると得物を捕らえられなくなる。

 あんなにも脆いのに、足の怪我は生死に関わるのだ。


 四つ足の一本だけでも折ってしまえば、武装したケンタウロス族は脅威でなくなる。

「どんどん岩を投げろ。傷つけるだけでいい」


 攻撃のための槍を大地に突き刺し、辛うじて立っている。

 怪我をしたケンタウロス族は、その場から動けなくなった。


 鎧の重さもあるだろう。オーガ族の腕力に対抗して重装備で来たのがあだとなっている。


「ここは任せたぞ。俺に半分ついてこい」

「うぇーい」


 順調だ。

 いつも思うが、敵だって作戦を立ててくる。

 だが、それを躱されると脆い。


 将棋でいえば、棒銀で攻め上がっている時に角の頭を攻撃されて右往左往するのに似ている。


 自分の方が攻められることもあると理解していないのだ。


「次は……ガーゴイル族か。石像種だったな、たしか」

 先日、ゴーレム族が瘴気地帯の中をやってきたが、このガーゴイル族はいなかった。


 空を飛ぶため、一見平気そうに見えるが、実際のところ長距離飛行ができるわけではないらしい。


 建物から建物とか、上空から地上へとか、そういった短い間ならば十分飛ぶことができるが、数キロメートルの飛行ができるかといえば否である。


 そもそも石像種は動きが遅い。

 オーガ族のいい的である。


 防御特化だから一発、二発は耐えるが、五発も喰らわせれば絶対に沈む。


「お前らはあれを殲滅しろ!」

「うぃーっす」


 連れてきたオーガ族に指示を出し、俺はボスを探した。


 ギガントケンタウロス族は、一度俺たちに包囲されて逃げ出している。

 あの時は戦う準備ができていなかったのと、戦端を開いた途端に死んでしまえば、隊の全体に迷惑がかかる。


 逃げた理由は、そんなところだろう。

 ゆえにいまは、準備を終えて待ち構えているのだろう。


 ――ガシュ


 ――ズドン!


 電柱ほどの太さのある矢がどこかから打ち出され、俺の横を通過した。

「……出てきたな」


 白銀に輝く鎧を纏った、ギガントケンタウロス族。

 前回、俺が取り逃がしたボスだ。


「……っと!」


 唸りをあげて巨大な矢が俺目がけて飛んできた。

 狙いは正確で、避けなければ腹に風穴が空くところだった。


「まだ遠いな」


 二百メートルくらいは離れているだろうか。

 このくらい離れていると、走っている間に何発か喰らいそうだ。


「かといって、盾で受けた所でなぁ……」

 身体ごとふっとばされるのがおちだ。


 ギガントケンタウロス族は弓に矢を番えたまま、俺の方を凝視している。

 どうやら、最初に排除する敵に俺は認定されたようだ。


 光栄なことだが、この距離はちょっと拙い。




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