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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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048

 朝靄あさもやが戦場に漂う中、飛鷲ひじゅう族が次々と敵陣に向かって飛び立っていく。


 ネヒョル軍団長の本陣から派遣されてきた、戦況の確認要員だ。

 最初、ゾロゾロとやってきたので何かと思ったら、広い戦場すべてをカバーするのと、万一落とされた場合、一体だけだと連絡が途絶えてしまうかららしい。


「それと交代要員も入っているわけか」


 さてこの偵察や運搬に便利な飛鷲族だが、欠点がいくつかある。

 まず戦闘能力はそれほど高くないため、敵陣に突っ込ませることはできない。

 あくまでも偵察に使ったほうが利便性が高い。


 他にも視力は良いとは言えず、他の種族と変わらないくらいだ。

 細部を偵察しようとすると、対象に近づかなければならない。

 もしくは遠くから偵察した場合、それほど詳しい事までは把握できなかったりする。


 そして極めつけ。

 実はこの飛鷲族、高く飛ぶことができないのだ。


 大体通常の鳥が飛ぶ高さより少しだけ低い位置までしか上がれない。

 よってあまり近づき過ぎると目立つ。


 見つかれば打ち落とされる危険が出てくる。

 つまり、何が言いたいのかというと、飛鷲族の偵察は万能ではないのだ。


 だが、使い方によっては非常に有効なこともある。

 飛び立った飛鷲族の一体が戻ってきた。


「確認してきました。敵は二重の陣を構築していて……このような配置になっています」


 上空から敵陣を眺めて、図面に起こしてもらった。

 こちら側が高台になっていることと、陣地の作りのような大ざっぱな偵察ならば、飛鷲族の偵察で事が足りる。


「なるほど……この穴はトンネルか」


 ここからだと遠くに敵陣が見える。

 石と土で固めた擁壁ようへきが二メートルほど確認でき、その上に丸太で柵ができている。


 越えようとするだけで一苦労しそうだ。

 俺はずっと敵が陣地を作るのを見ていた。あれ以降、突撃命令が出なかったからだ。


 敵陣は木の柵を作ってその上に石を乗せ、さらに土で固めていた。

 あれを破壊するのはかなり大変そうだとずっと見ていた。


「しかし、二重の陣で、その行き来がトンネルね」


 よく考えられている。

 トンネルでつなげてあるということは、味方はそこを行き来できるが、俺たちの場合、トンネルから頭を出したときに狙われる。


 敵に出口を押さえられたトンネルなんか、迂闊に使えない。


「まっ、何とかなるか」


 ギガントケンタウロスを倒すことに比べたら、攻略は簡単な部類だろう。


「よし、手はず通りいくぞ。お前ら、準備はいいか?」

「うぇーい」


「……準備はいいみたいだな」

 激しく不安だが、こいつらはこれで平常運転なのだ。

 きっとやってくれる。


「出発だぁ!」

「うーっす!」


 この作戦の肝は、敵よりはやく動くことだ。

 今までの戦いを考えると、敵が俺たちの陣地に攻め込んできても、ボスのギガントケンタウロスの姿はそこになかった。つまり、陣地から出てきていない。


 敵ボスは戦いを避けている……と取ることも出来るが、俺は作戦だと思っている。

 物量で勝っている敵陣営は、少しずつ俺たちの戦力を削りにかかっているのだ。


「このまま進めぇ!」


 敵が攻めてくるのを待っていても埒があかない。

 ゆえに敵が動く前に攻めたかったのだ。


 もうすぐ敵陣だ。

 ここまで魔法は飛んできていない。想定外だったのだろう。準備ができていなかったようだ。


 遠距離攻撃の魔法が飛んでこないのは都合がいい。

 これも敵が俺たちの陣地に攻め入ってきたからこそだ。


 俺たちオーガ族は魔法攻撃にとことん弱い。

 そのため、速い段階で〈岩投げ〉を使って、魔法を使う奴らの数を減らしていた。


 敵の魔法に対してこちらは投石。

 この遠距離からの打ち合いで数が減ったか、不利を悟って最近はあまり出張ってきていなかった。


 もしかして別の部隊に転属していったのか?

 どちらにせよ、魔法が飛んでこないということは、地道な努力が実ったのだ。


 そしていま、坂道を駆け下りている俺たちは全員、長い棒を持っている。

 これをどう使うのかというと……。


「俺につづけ!」


 棒の先端を地面に突き刺し、棒をしならせて身体を浮かせた。

 そう、これは棒高跳びだ。


 敵が擁壁を作り始めたときから、部下たちにも練習させておいた。

 脳筋は頭を使うことはてんで駄目だが、身体を使うのだけは覚えが早い。


 石と土と丸太でできた擁壁を、俺の身体は軽々と越えていった。

 連中もきっとやってくれるだろう。


 ――ズザザザァ


 思いの外、勢いが付きすぎた。

 大地を削るように着地した俺は、驚いて固まっている敵目がけて咆哮を放った。


 ――ガァアアアアアアア


 次々と他のオーガ族がやってくる。

 作戦は成功だ。さすが筋肉馬鹿ばかり。


 走る勢いのまま、棒高跳びで見事陣地を飛び越えてきた。


 ここにいるのはケンタウロス族だけらしい。

 みな弓と矢を握っている。俺たちがやってくるのを見て、慌てて準備したのだろう。


「近接用の装備はしてねえな」


 弓で牽制して時間を稼いで、後続が槍でも持ってくるつもりだったのか。

 俺は背中に縛っておいた金棒を取り出す。これは出発前に全員に指示しておいた。


武器ドーグを出したら、蹴散らせ!」

「うぇーっす!!」


 オーガ族の蹂躙が始まった。


 弓を構えたケンタウロス族に俺たちは襲いかかる。

 ほとんどが一撃で昏倒する。


 近接で直接殴りかかればこんなものだ。

 ほぼ一方的な蹂躙劇がはじまり、それほど時間もかからずに、周囲一帯の掃討が完了した。


「さあて、問題はこの第二擁壁だよな」


 高さは最初のよりも低い。

 丸太で隙間なく組んであるため、中が窺いしれない。

 そして、不気味に沈黙しているのが問題だ。迎撃に出たケンタウロス族は捨て石として、中の防備を固めたのかもしれない。


 ゴーレム族を瘴気地帯に突っ込ませるくらいだ。そのくらい。必要な犠牲と考えるだろう。


「トンネルの出口は塞がれてねえが、使いたくねえな」

 奥を覗いたら光が漏れていた。


 第二擁壁には所々、地下を通る穴が空いている。

 ここを行き来することで、迎撃部隊を配置したのだろうが、俺たちが通った途端、狙い撃ちされそうだ。


「とすると……これを壊すか」

 丸太ならば、オーガ族の破壊力でなんとかなる。


「だが、待ち構えているだろうな」

 俺が先陣をきるか……と思っていたところ、血気盛んなオーガ族のひとりが丸太の擁壁を蹴り壊した。


「お、おいっ!」


 向こうがどうなっているか分からないんだ、気をつけろ……そう言う前に飛んできた電柱ほどの「何か」がオーガ族の一体にぶち当たり、そのまま第一擁壁まで飛んで、串刺しとなった。


「あれは……矢?」


 電柱かと思うほどの太さだが、矢羽根がついていたから「矢」なのだろう。


「いったい、誰が射ったんだよ」


 いや、明らかか。




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