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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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 会議室のテーブルはものの見事に破壊され、三体の賢狼族が折り重なるようにして倒れている。


 ロボスの息子たちらしいが、ロボスに子供がいたのは驚きだ。

 結構な歳だし、いてもおかしくないのだけど、なんとなく孤高なタイプかと思っていた。


「ロボスの息子かぁ。前に何度か会ったことあるけど、どうして今日は連れてきたの?」


「はい。こやつらの魔素量はわしに匹敵しておりまして、次代を任せるに足ると自負しております。ですが、いまだ後継を決めかねておりましたので、いい機会かと」


 舌を出して気絶している賢狼族だが、魔素量はロボスに匹敵するのか。だとしたら俺より多いじゃないか。


 サイファはそれを軽くあしらった訳だが、さすが駄兄だけい、頭が悪いが力だけはあるな。


「なるほどねえ。後継者絞りの一環だったわけね。……で、そこのオーガ族はだれかな?」

「オレか? オレはサイファだ。ゴーランと同じ村の出身だぜ」


 キリッという感じで自己紹介しているが、コイツは本当に空気が読めていない。

 ヘタをすると、会議をぶち壊したかどで誅殺されるぞ。


「ふうん。ゴーランと同い年くらいで、それなりの魔素量だね。ゴーランのライバルってところかな」


「オレがゴーランのライバル? 冗談よしてくれ。これまで何百戦もしたが、一度も勝てちゃいねえよ。な、ゴーラン」

「お前は黙ってろ!」


 まったく駄兄は空気が読めない。


「それでゴーラン。この状況は何なんだ? 今にも喧嘩をおっ始めそうな雰囲気だけど」

「ちょっとした意見の相違だな。ネヒョル軍団長とあったんだよ」


「ほう……じゃ、今度は軍団長を殺るわけだ」

 突然物騒なことを言い始めた。今度はって何だ、今度はって!


「こ奴、黙って聞いておれば、ネヒョル様を殺るなどと不敬なことをいいよって。事と次第によっては許さんぞ!」

「駄犬も黙ってろ!」


 何で話をややこしくするんだ、コイツらは。


「おいおいゴーラン。お前は軍団長と戦うんだろ? だったら、残りはオレが貰ってもいいよな」

「残りって……他の部隊長か?」


 ここに部隊長は四体もいるんだぞ。いや、俺に出来たんだから、コイツでも可能か。

「任せてくれ。綺麗さっぱりノシてやるぜ」


「えっと、サイファ? ボクがそれを許すと思うのかな?」

「そっちはゴーランが相手をするんだ。オレにかまけているヒマはねえよ」


「まあな。サイファが片付ける時間くらい、持たせられるぜ」

 ネヒョルに勝てと言われたら難しいが、そのくらいなら可能だろう。


 ネヒョルは三体の賢狼族を見てから俺を見る。

 そしてサイファに目を移して、最後にロボスたちを眺めた。


「……分かったよ、ゴーラン。キミの意見を認める。ここで部隊長全員を失ったら、どのみち将軍の作戦は崩壊するしね」


「? やけにあっさりと認めたな」


「そりゃそうだよ。明日も侵略してくる敵と戦わなきゃいけないのに、ここで争っていたら、意味ないでしょ。それにゴーランの強さの底はまだよく分かってないし。最悪、部隊長が全員死んで、ボクが怪我をして戦線離脱ってこともありえるからね。なんで敵陣に突っ込むのを許可する、しないでそんなリスクを負わなきゃならないのさ。やだよ、そんなの」


 どうやら本気で嫌がっているようだ。

 ということは、俺の行動を認めてくれたと考えていいんだよな?


「その代わり条件があるから。ビーヤンの隊のだれかを物見に付けて、戦況を報告させてね。ゴーランが死んで部隊が壊滅、敵が本陣に迫ってきたら大変だし」


 たしかにその可能性はある。

 今まではこっちが陣地に籠もって敵を叩いていたが、今度は攻守が逆転する。


 俺たちが敵の陣地を越えて行かねばならないため、今まで以上の被害が予想される。


「分かった。その条件を呑もう」

 別に後ろ暗いことをやっているわけではない。見られて困るものもないのだから、堂々としていればいいのだ。


「じゃ会議の続きを……と思ったけど、これじゃ出来ないね。今日は解散でいいかな」


 テーブルが壊れたのはどうでもいいが、目の前に気絶した賢狼族がいるまま会議を続けたくない。

 俺たち全員、ネヒョル軍団長の意見に賛成した。


 帰りの道中、サイファを叱りながら、もしあの場で賢狼族が降ってこなかったらどうなっていたか考えてみた。

 俺とネヒョルの戦いは避けられなかっただろう。俺は……おそらく負けただろうな。


 死ぬかどうかは分からないが、作戦継続は不可能になっていたに違いない。

 引くべきでは無い場面だったが、早まったことをしただろうか。


 つまり、今回俺はサイファに救われたことになる。

 サイファが部隊長全員を相手すると言い出したことで、ネヒョルが損得勘定を働かせて事なきを得たわけだ。


「どうした? ゴーラン」

「お前も役に立つことがあるんだなと思ってな」


「なんだそりゃ?」

 サイファはまったく分かってないようだ。




 翌朝早く、ビーヤンの部下が数名、本陣から派遣されてきた。

 勝手に戦場を俯瞰し、その状況を報告しに戻るらしい。


 また、何度も報告に戻るため、入れ替わりも激しいので、自分たちのことは気にしなくていいとのとこ。


「分かった。……ところで、戦いをはじめるまえに、ひとつ頼まれてくれないか?」

 丁度いいので、ひとつお願いをすることにした。



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