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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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 樹妖精種の中でもチェリーエント族は攻撃力に乏しく、戦闘ができる種族ではない。

 防御に関連した特殊技能を持っているが、敵を倒すことができないのだから、いつかは負けてしまう。


 彼らはなぜそんな分の悪い戦いを選んだのか。


「俺が声をかけたからか?」


「ゴーラン? 本当に道が分かっているの? なんだか、ぐるぐる同じ所を回っている気がしているんだけど」


「それが〈桜吹雪〉だ。感覚を狂わせるんだよ。安心しろ、ちゃんとまっすぐ歩いている」

 これは視覚や聴覚に頼ると道を外れる。


 いま俺の視界いっぱいに上下左右、桜の花びらが舞っている。

 耳元ではゴォーっという音がたえず響いている。だが……。


 懐から出した方位磁石を見ながら俺は進んでいる。


 なんのことはない。この世界にも東西南北があり、磁極が北を向いているのが分かったから、俺が自作したものだ。


 針の上に薄い磁石の板を乗せた簡単なものだが、存外役に立っている。


「本当に? あたしの感覚だと引き返しているように思えるんだけど」

「お前がそう思っているなら、正解なんだよ」


「なにそれ、酷い!」


「特殊技能の〈桜吹雪〉の場合、自分の感覚ほどアテにならないものはない。しかもこれ、五体のチェリーエントが協力してかけているはずだ。だとしたら、かなり強力で広範囲になっているぞ」


 敵に逆らうなんて、じいさんひとりだけで行えるはずがない。

 あの場にいた五体全員の同意がなければ実行しなかっただろう。


 方位磁石を頼りに一歩一歩進むと、ようやく町の入口が見えてきた。


「ほれ、着いたぞ」


「ええっ!? 本当だ? どうして?」

 いまだ自分の感覚に頼り切っているベッカが驚愕の声をあげた。


 やはり脳筋オーガ族は、精神魔法に弱かったか。

 俺も気をつけないとな。


「それより中に入るぞ」

「おっけー」


 ――ゴチ


「ん?」

「痛ったーい」


 町中に入ろうとした俺たちは、不可視の障壁に阻まれてしまった。


「ゴーラン、痛いよ。なにここ、壁がある。でも見えないよね」

「ああ……これは、〈春嵐しゅんらん〉だ。厚い空気の壁を発生させてあるんだが……まさか」


「まさか?」

「これは、エルダーチェリーエント族の特殊技能だ」


 チェリーエント族では習得できない特殊技能だったはず。

 上位種のエルダー種になってはじめて、物理防御が可能になる。


「これは……俺でも易々とは破れねえぞ」

 物理防御とはいえ、壁を作っているのは流動する風の流れ。


 石や木の壁のように破壊できるものではない。

 大穴を開けたところで、一瞬のうちに修復されてしまう。


「どういうこと? 入れないの?」

「ああ……だとすると安心か?」


 ゴーレム族は〈桜吹雪〉でいまも町の周辺でウロウロと迷っていることだろう。

 たとえたどり着いても、この〈春嵐〉があれば侵入することができない。


「……ったく、じいさん。いつエルダー種に進化したんだか」

 まったく人騒がせな。


 これがあったから、抵抗を決めたのか。

 それでも倒せるわけじゃないから、俺頼みになるわけだが。


「ねえ、ゴーラン。この後はどうするの?」


「ゴーレム族をぶっ倒したいところだが、〈桜吹雪〉の中に戻ると、俺たちでも迷うからな。さてどうしようか」


 一番いいのは〈桜吹雪〉が収まるまで待つことだが、それがいつになるか分からない。

 などと考えていると、〈桜吹雪〉が消えた。


「おっ、俺たちが到着したのが分かったのか?」


 あれは中を把握するタイプではなかったはずだが。

 だとすると偶然か。なんにせよ、これでゴーレム族を殲滅できる。


「ねえ、ゴーラン。壁も消えたよ」

「なんだと!?」


 それはおかしい。壁まで消えてしまえば、今まで侵入を阻んできた意味がなくなる。

「これは……町で何かあったか?」

 嫌な予感がする。


「どうするの?」

「町中に行くぞ。付いてこい!」

「ええっ!? 急にどうしたの?」


「チェリーエント族が町の一番高い所にいる。そこまで走るぞ」

「わ、分かった」


〈桜吹雪〉も〈春嵐〉も消えている。町は静かなものだ。

 この状態は明らかにおかしい。


「ねえ、あれ!」

 ゴーレム族がいた。すでに町中に入っていた?


「どういうことだ?」

〈春嵐〉で風の物理防御を張る前にすでに町中にいたのか? だとすると、前提が崩れてくる。


「こっちに気づいたみたい」

「倒すぞ」

「おっけーい」


 いたのはストーンゴーレム族だ。

 オーガ族の拳は石さえ砕く。油断さえしなければ勝てる相手だ。


 ベッカが駆け寄り、ストーンゴーレム族の腕を取って……へし砕いた。


「なははは……これ、脆いよ。ゴーラン」

「お前が馬鹿力なだけだ」


「いやー、それほどでも」

「あまり褒めてはないんだけどな。それより追加が来た。早くそいつを始末しろ」

「ほいさー」


 ベッカがストーンゴーレム族を砕く、砕く、砕く。

 その間に俺は別の敵に襲いかかる。


 ベッカほど膂力がない俺は、関節を逆に取って体重をかける。

 それでようやく関節にヒビが入った。あいつとはえらい違いだ。


 しかし、これだけ多くのゴーレム族がいるというのがおかしい。

 町はどうなっているんだ。


「ベッカ。ここは任せていいか」

「もちろんだよ」


「よし、俺は先に行く。全て蹴散らしてから追いついてこい」

「あいあいさー」


 ベッカは、俺が教えた軍式の返礼をして、次のゴーレム族の破壊に取りかかる。

 ここは本当に任せて大丈夫だろう。


 俺は駆けだした。

 チェリーエント族のじいさんたちがいたのは、一番小高い場所にある公園だ。


 坂を駆け上がって俺が到着したとき、公園にあったチェリーエント族の最後の一本がゴーレム族たちによって、へし折られる所だった。


「じいさん!!」


 俺の叫びと同時に、巨木がどうと地面に倒れた。




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