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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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「……ヒマだ」


 デジャブか? この台詞せりふ、前にも言った気がする。


 防衛戦は今日も続いているが、俺の戦場は静かなものだ。

 互いに出方を窺っている状態である。膠着しているともいえる。


「待っているのも退屈だ。なんかもう、村に帰りたくなってきたな」

 そう。争いなんかない方がいいのだ。みんな平和にいこうぜ。


「お互いなかったことにして、戻ったらどうだろうか。そう思わないか? ペイニー」


「なかったことというのは、全滅させる……ことですか?」

 なんでそんなに過激なんだ。


「ちょっと違う。どちらかがいなくなるのではなく、はじめから争いなんてなかったと思うことにするんだ。そうすれば戦いもなかったことになるし、これまでの遺恨もなくなる」


「それは難しいのではないでしょうか。強い者が弱い者を支配する、魔界でこの形が崩れることはないと考えます」

「そうか……そうだよな」


 ――強い者が弱い者を支配する


 死神族のペイニーの言い分はもっともだし、魔界の各地で同じような局地戦が起きているのもそれに起因するわけだ。

 それを敢えて話し合いで解決するとか、一旦リセットしてすべて忘れるとかできないものだろうか。


 ……無理だろうな。


 ペイニーたち死神族が俺の部下になっているのは強い者の支配下に入って生き残るため。

 もちろん俺ではない。国に来た流れから俺の部下になっているが、実際には小魔王メルヴィスの配下になっている。


 強い者が弱い者を支配するルールだからこそ、死神族は俺たちの国に保護を求めてきた。

 このルールは変わらない。


 ちなみに俺より上位の種族であるペイニーが、いつか下克上を仕掛けてくるのではと思っている。まだその兆候はないが。


「リグはどう思う?」


「このような丘ですら、戦いが終息するまでに四十日、五十日かかるのが普通です。はじまってまだ十日も経っていませんので、退屈と申されても……」


 そっちか。

 まあ、言いたいことも分かる。部隊長が事あるごとに「ヒマだ」「退屈だ」と言っていれば士気にかかわる。


「やることがないと、ダラけてしまいそうだ」


「ゴーラン様でしたら、そう思うのも致し方ないかもしれません。ですがくれぐれもご自重を……お願いしたいと思います」


 リグの歯切れが悪い。ヒマだからと俺が無謀な突撃を考えていると思ったのか。

 そんなことは無いのに。その反対で、俺は早く村に帰りたいんだ。


 いや、だからとっとと終わらせようと、突撃を命令するんじゃないかと思っているのかな。


「作戦会議で釘を刺されたし、それは守るつもりだ」

 するとリグは頭を下げた。それは俺の言動を信用しているからだよな?


「それでいつ突撃するんだ?」

 サイファが腕を頭の後ろに組んで言った。


「突撃しねーよ! 話を聞いていたのか?」

「ええーっ!? ゴーランが突撃しないのぉ?」


「この駄妹! なに突撃するのが当然みたいなこと言ってんだよ!」

 失礼な。


「だって、やらずに逃げるくらいなら、やって早めに終わらせた方が何倍もいいって、いつも言ってんじゃん」


「それは喧嘩の話な。オーガ族はしつこいから、逃げたってこっちの都合を考えずにやってくるんだろうが」


「ゴーランに叩きのめされるのって、一種の通過儀礼みたいになっているからね」

「何でだよ。俺の静かな生活を脅かしていたのは、そんな理由だったのか?」


「そうだぜ。村内で叩きのめされてないのがいたら、みんなで薦めてたくらいだし」

「……だから列ができていたのか」


 おかしいと思ったんだ。やっと順番が回ってきたとか言ってる奴もいたし。


「で、いつ突撃するんだ?」

「しねーよ!」


 なにこの駄兄妹、やだ。




 夜の作戦会議は毎日行われている。


 今日決まった内容は、拠点防衛に関することのみ。討って出るな、防御に徹せよと言われた。

 どうやら他の軍団長が戦っている戦場では激しい攻防が行わているらしい。

 戦死者が数多く出ているとか。


 ファルネーゼ将軍の本陣から増援を出して抑えてたが、兵力が結構ギリギリらしいのだ。

 そのため徒に戦線を拡大させないよう、将軍からの伝令として、各軍団長のもとに届いたのだという。


「いいかい、将軍の命令は絶対だよ。というわけでゴーラン、よく覚えておいてね」

 と名指しで言われてしまった。理不尽な。


 俺だって、言われた内容の意味くらい分かる。

 この見晴らしの丘で戦線が拡大したら、全体のコントロールを失うおそれがある。

 もちろん兵も多数失う。


 兵の補充は難しいらしいので、その選択は取れないわけだ。


「あー、会議も面倒だな。毎回俺が名指しされるし」


 帰り道、おもわずリグに愚痴ってしまった。

 リグは追従することもなく、無言でついてきてくれている。いい副官だ。


 最近は理由をつけて、作戦会議をサボりたくなってくる。

 でもそうすると、前部隊長のグーデンと同じだと思われるので、自重してる。

 だが、そろそろ限界だ。


「なあ、リグ。俺らの部隊が勢いに任せて攻め入ったらどうなる?」

「途中でかなりの数が迎撃されると思います」


「そうだよな。だけど、敵の陣にはとりつけるだろ?」

「はい。問題は、敵陣の中が見えないことですね。二重の防壁を作っているかもしれません」


 前回の戦いでは、敵はこっちを舐めていたから、そんな面倒なことをしなかった。

 まあ、俺たちは脳筋集団だったので、舐められるだけのことはあったのだが。


 敵陣の準備ができていないうちに突っ込んだときと違って、いまは強固な陣ができている。

 敵が部隊を後退させたあとは、陣作りに精を出していたから当然だ。


 そうなってくるともう、手は出せない。そもそもこっちは数が少ない。

 どう考えても討って出るのは難しそうだ。


「兵の消耗を抑えろねえ……こちらから出ることは難しいな」

「はい。今まで通り睨み合いを続け、やってきたら叩くというのが最善かと思います」


「この陣もそれなりに強固にしたものな。それしかないか」


 敵に面した部分には、三重の防護陣を作成してある。

 土塁と馬防柵を大外おおそとに配置した。


 それを越えてきた敵に対しては、溝を掘って進軍を阻むようにしてある。

 といっても意図的に通路を作ってあるので、そこを通らざるを得ない。

 少数の敵を集中攻撃できるよう作ってある。


 このへんは昔、テレビで見た第二次大戦中の築陣の様子を見よう見まねで再現したものだ。

 今度、有刺鉄線でも作らせてみようか。


 最後は内側の防護壁。

 板と丸太だけの簡易なものだが、それゆえ単純な力押しでは突破しにくい。


 つまり敵に来てもらったほうが、被害が少なく撃退できるのである。


「それにしても、いつ敵が来るのだろうか」

 そんなことを考えながら防衛していたら、一日が終わった。


 また作戦会議だ。




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