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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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◎賢狼族ロボス


 わしがネヒョル様配下の部隊長に就任して、早三十年になる。

 ネヒョル様は気まぐれなお方だが、その実部下のことをよく見ている。


 わしにもよく目をかけてくださり、いくら感謝してもしきれないほどである。

 つい最近までわしは二番目の古株としてネヒョル様に仕えていたが、いまは最古参になってしまった。


 というのも、オーガ族のゴーランなる者が、部隊長のひとりを下克上でくだしたからである。

 前任のグーデンは五十年の長きにわたり、ネヒョル様に仕えていた古強者である。


 ハイオーガ族の頑強さはわしもよく知るが、戦えば一筋縄ではいかない相手である。

 唯一、魔法への耐性が低く、それが弱点であるともいえる。


 現れた新任の部隊長は、それはもう傲慢だった。


「そこを退け、駄犬」


 あろうことか、誇り高い賢狼族に向かって駄犬呼ばわりとは。

 しかも、体内の魔素量はわしの半分ほど。


 よくもそんな弱々しい身体で喧嘩を売れるものよと呆れたほどである。

「駄目だよ、ロボス。キミには主攻を任せているんだから、怪我したくないでしょ」


 ネヒョル様がそう仰ったから押さえたが、こんな奴、片手間でも潰せる自信があった。

 だが、ネヒョル様は続けていった。


「ゴーランはグーデンを今日下克上でくだしたんだよ。怪我したようにはみえないけど、ロボスは勝てる?」


 そう言われてしまえば、答えに窮してしまう。

 たしかにおかしい。


 あの魔素量でグーデンの阿呆をどうにかできるとは思えない。

 かといって、彼奴が認めねば、このゴーランなる者が部隊長になることもないのが道理。


 これは一体どういうことであろうか。

 いきなり会議に来たと思ったら、全方位に喧嘩を売ったゴーランは、会議終了後に次々と手合わせを行った。


 たしかに強い。

 わしを除く三人の部隊長を簡単にあしらってしまった。


 あれを見る限り、わしも苦戦するかもしれん。

 なぜか戦い方がわしが知っているオーガ族とまったく違うのだ。


 彼奴はなにか、恐ろしいものを隠し持っているのかもしれない。ネヒョル様はそれに気づいているのであろう。


 そんなことを思っていたら、次の日に大牙族の部隊長を倒してしまった。

 魔獣の中で上位に位置する大牙族を? わしは自分の大きな耳を疑ったほどだった。


 結局それが決め手となり、敵は撤退していった。




 ここは、何百年も攻め込まれたことのない、小魔王メルヴィス様に守られた国だ。


 他の国々が戦乱で盛衰を繰り返そうとも、この国だけは変わらずここにあった。

 そこへの侵攻である。今回は様子見だったのかもしれない。


 案の定、数ヶ月後には更なる軍備増強を経て、敵の侵攻が開始された。

 今回もファルネーゼ将軍のもと、わしらも出陣となった。


「ゴーランはボクの腕を落としたんだよね」

 なんと、わしが知らない間に、ゴーランの奴は、あろうことかネヒョル様に喧嘩を売ったというのだ。


 しかもその時に、腕と手首を斬り落としただと!?

 なにをどうやったらあんな魔素量で、ネヒョル様と戦えるというのだ。


 不思議でしょうがない。

 ネヒョル様は互いに本気でなかったから、またあるかもしれないと思ったらしい。


 本気を出さずに引き分けたとか……もうわしの想像の埒外だ。

 彼奴は本当にわしより強いのかもしれん。さすがにそう思うようになった。


 そして防衛戦が始まった。

 わしの相手は天狼てんろう族。


 これはキツい。非常にキツい。

 力も素早さも向こうが断然上だ。しかも、魔素量はわしをかなり上回っていた。


 戦ってみたが、まるで相手にならなかった。

 自陣でなおかつ、防衛側だったために、陣の中に入ってくる敵が少なかった。

 それだからよかったものの、遭遇戦だったら逃げ切れずに全滅していたかもしれん。


 明日以降の戦いが思いやられる。


「報告を聞いたけど、ロボスじゃ無理かな」

「なにを仰います。次こそは必ず倒してご覧にいれます。期待して待っていてくださいませ」


 ネヒョル様に問われて、そう答えてしまった。

 配下となって三十年。初めての戦争でいいところを見せられず交代などしたら、何のためにここにいるか分からなくなる。


 ここはなんとしても、敵を倒さねばならない。

 だが、敵は強大。


 小魔王レニノスの国はすでに二つの国を飲み込んでいる。

 今回出張ってきた部隊長も、軍団長クラスの力を持っていた。


 果たしてわしで勝てるのだろうか。

 不安を抱えて会議に臨んだ。


「惜しかったねえ、ゴーラン。敵を逃がして、いまどんな気持ち?」

「………………」


 ゴーランの相手はギガントケンタウロスだったはずだ。

 それと戦って圧勝? 敵が逃げ出した? なんだそれは?


 オーガ族とケンタウロス族を比較するのならば分かる。

 それなのになぜ進化の最上位種を撤退させられる?


 一方的に攻撃を加えたら、敵が逃げ出したらしい。

 前回の大牙族といい、この男はどれだけの力を隠しているのか。


「もう出てこないかもね」


 陣を一キロメートル下げたことを受けて、ネヒョル様がそう評した。

 ゴーランは止めをさせなかったからか、渋い顔をしている。


 拙い。このままでは本当に拙い。

 わしの存在意義がなくなってしまう。


 明日は、明日こそは倒さねば。

 おそらく、あの天狼族はまだ若者。


 身体能力のみで戦いの駆け引きを知らない。

 わしの力を見せてやるわ。ゴーランなんかに負けはせんわ。




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