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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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 おれ(・・)はうっすらと目を開いた。

「……ほう、こいつは強そうだぜ」


 思わず笑みがこぼれる。

 ケンタウロス族の最上位種なんざ、上等なエモノだ。


「ここ最近、少しは時間が増えた(・・・)んだが、喰らい尽くすには時間が足んねえか」

 俺の方がお膳立てしてくれたこの舞台は最高だ。


 タイマンになるよう、うまくできてやがる。

 ここまでやってくれたんだ。時間が足りねえなんて言ってられねえか。


 おれの後ろにいた連中が槍を手渡してきた。

 持つとズシリと重たい。


「これが対ヴァンパイア族用の槍か」

 前回ネヒョルと戦ったとき、相手は本気でなかった。


 魔法を撃つこともなく、空を飛ぶこともしなかった。

 魔法はあれだが、部屋の中じゃ空は飛べねえか。


 今回の招集で再び戦うこともあるかもしれねえ。

 そのつもりで俺の方が用意したのがこの石槍だ。


 特殊技能〈岩投げ〉は、石や岩などを投げるときに威力増大、命中補正がかかる。

 岩でありさえすれば、形はなんでもいいのかと尖らせてみたら、問題なかったらしい。


 本当に俺の方はおもしろいことを考えつく。


「投げるにゃ、いい距離だ」

 おれの力と〈岩投げ〉があれば、目の前の敵だって射貫くことができらぁ。


 一投、二投と、おれが投げるたびに、後ろから石槍が補充される。

 ネヒョルとの再戦を考えて、とにかく沢山作らせたというこの石槍は、面白いように敵に吸い込まれていく。


 おれの魔素量が急に膨れあがって戸惑ったところに、絶え間ない槍の投擲。

 さぞかしやりにくいことだろうぜ。おっ、後ろ足に刺さったか。


 これで腕と肩、脇腹に一本ずつ、後ろ足に二本刺さったが、さあてどう出てくる?

 おお、重心を下げたか。突進が来る気か? いいぜ、受けて立ってやる。


 やはり突進だ。てぇことは〈体当たり〉か……と思ったら、直前で大きく跳躍しやがった。

 おい、どこへ行く? って、逃げたか。


 おれが追いかける前に、ギガントケンタウロス族は戦場を大きく迂回して敵陣の中へ戻っていった。


「あーあ……見えなくなっちまった」


 直後、敵が引いていった。撤退らしい。




「……逃げられちゃったんだよね?」

 その日の夜に行われた会議で、俺はネヒョル軍団長から「ねえ、今の気持ち、どう?」をやられている。


「まことに、申し訳なく」


 まさか陣を放り出して逃げるとは思わなかった。ボスであるギガントケンタウロス族が撤退を選んだのだ。

 敵陣は慌てふためきつつ引いていった。


 敵は一キロメートルほど下がった場所で、再び集結していた。


 こちらの被害は軽微だが、ボスを逃がしたのは痛い。

 もうあの手は使えないのだから。


「でもすごいね。あの投擲。いっぱい刺さってたでしょ」

「見たんですか?」


「見たよ。ビーヤンの部下がね」


 ビーヤンは飛鷲ひじゅう族だから、その一族はみな飛べる。

 ビーヤンの部隊が本陣預かりになっているのは、戦場を偵察するためもあるのかもしれない。


「でも凄いねえ。あれ、ボク対策でしょ? 前に戦ったとき、ボクが飛べるって話したら、何か考え込んでいたし」


 見抜かれている。

 ロボスが口を開けてこちらを凝視した。


「まあ……そうですね」

 嘘をついてもしょうがないので、そう答えておく。


「ギガントケンタウロス族相手に次々と刺さるんじゃ、ボクなんかだと、突き抜けちゃうね。ちょっと脅威かな。あれって、村に戻ってから考えたの?」


「そう、です」

 なにこのイジメ。


「あっちは軍を下げちゃったし、対抗策がなければもう出てこないかもね」

 あのギガントケンタウロス族は部隊長だろうか。それとも軍団長。


 軍の規模からすると部隊長だろう。

 戦場で部隊長が倒れると軍が崩壊するので、次はよほど自信がなければ、前に出てこない気がする。


 敵も馬鹿じゃない。前回大牙族のボスがオーガ族に負けたのは知っているはず。

 ゆえにそれより強い者を据えてきたわけだ。


 だがこちらの力の上限値は未知数。ギガントケンタウロス族はこう言われたんじゃなかろうか。

 ――少しでも危ないと感じたら引けと。


 戦線崩壊すれば、計画が狂うはずである。

 あの撤退にはそういう理由がありそうだ。


 とっておきの策だったのだが、電撃作戦は失敗した。

 次はどうしよう。馬鹿正直に突っ込むと被害が大きくなるし。悩むな。


「今日はロボスが負けたし、痛み分けだね。明日も今日と同じで、来たら迎え撃とうか」


 作戦変更なしで、今夜の会議は終わった。

 俺のところと敵の陣は距離にして三キロメートルほど離れている。


 動き出せばすぐの距離だが、互いの見張りがいて思い切った行動がとれない。

 それでも見晴らしのよい丘に陣取っているこちらが有利なのは変わらない。


 ギガントケンタウロス族は出て来るかな? 出て来そうにないな。

 明日から持久戦になりそうだ。


 翌日は俺の想像通り、敵に動く気配がない。

「両軍の距離が三キロメートルってのが微妙なんだよな」


 中央でロボスの部隊が苦戦しているようだが、ここから助けにいこうとすると、戦闘が始まったころに挟撃されそうな気がする。


 これが五キロとか十キロも離れていると自由に動けるのだが、敵もそこまで馬鹿じゃない。


「様子見かねえ」

 丘の上から目を凝らしても、ギガントケンタウロス族の姿は確認できなかった。




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