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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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 会議を終えて陣に戻った。

 いろいろ酷い。


「敵の意図が分かっただけでも良しとするか」


 たとえば、敵はなぜ見晴らしの丘を攻略するのか。

 丘に登らずに進めば首都まで一本道だ。

 ただし、首都にいるゴロゴダーン将軍の軍勢とどこかでぶつかる。


 丘にいる俺たちは、敵が戦っている間に背後から討てる。

 よしんば敵の背後を付くほど兵力がないとしても、敵がゴロゴダーン将軍の軍勢に敗北し、撤退したとしよう。


 その撤退先に俺たちの丘がある。

 結局敵軍は、安全のためにこの丘を落とし、橋頭堡きょうとうほとすることで安心して前に進める。


 俺たちはそれが分かっているから丘を死守する。

 ここさえ守り抜けば、敵が先に進むことはない。


「……話し合いで解決できないのかね」


 こんな世紀末ヒャッハーな世界じゃ、それは無理か。

 ならばやれることをやろう。


「おめえら、敵が拠点を作り始めたら襲うぞ。今のうちに食って寝ておけ」

「うぇーっす」


 わざわざ拠点を作らせて、こちらに侵攻してくるのを待つ必要はない。

 先制して蹴散らしてしまおう。


「いや……蹴散らされるのは俺か?」

 ギガントケンタウロスの攻略法はまだ思いついてない。


 翌朝、連携や命令の再確認をしていたら、遠くの方で砂埃が舞うのが見えた。

 どうやら来たらしい。


 セオリー通りならば、丘にいる俺たちの部隊を無視できない。

 一団を分けて相対させるはずである。


「……予想通り別れたか」

 案の定、すぐに一団の中で動きがあった。


 丘から二キロメートルほど離れた場所で、敵の進軍は止まった。

 あそこに拠点を築くらしい。


 いまはまだこちらを警戒しているが、そのうち拠点作りに必要な岩を探したり、木を切り出したりするはずである。


 軍どうしの戦いを見ていると、日数をかけて少しずつ人数を減らしていく戦法を採ることが多い。


 互いにタフなので、一度で決着がつかないのが理由だろう。

 今回はそれを逆手にとって、電撃戦を仕掛ける。


 じっと敵陣を見ていたが、敵に動きはない。こちらを警戒しているのは相変わらず。


 敵の動きを見ていると、土嚢を積み上げている。

 敵は一日中、簡易陣を組む作業をしていた。


「こっちの準備はできているんだがな……敵に動きがねえ」


 夜も監視を継続させているが、静かなものだ。

 会議に参加したら、どの陣も同じらしい。


「手を出したら全力で反撃するつもりだろうね」


 前回の負けを意識してか、ピリピリしている雰囲気が伝わっているという。

 そんな感じで会議は終わった。



 翌日、敵陣に動きがあった。陣の後方が慌ただしい。

「敵陣に動きがありました。随行してきたコボルド族とオーク族が陣を離れたようです」

 リグが報告してきた。


「どっちに向かった?」

「森の方です。馬防柵を設置する目的だと思われます」


 さすがにリグは優秀だ。俺が知りたいことがちゃんと分かっている。


「とすると、岩も必要か」

「はい。材料を揃えて、明日あたりから制作にかかるものと思われます」

「その前に叩きたいところだが……」


 陣を作らないと、危なっかしくて攻めて来られないのだろう。

 丘に駆け上がって俺たちと戦う。不利になっても自陣に逃げ込めると分かっていれば安心できる。


 これで陣がないと大変である。麓まで撤退しようと思っても安全地帯がないのである。

 そのまま潰走することだってありえる。


 逆にこちらから攻めた場合、自軍にしっかりした陣がないと防衛は厳しい。


「敵はそれなりの陣を作ってから戦いたいのだろう。だがそこまで待つのは下策だな。そこの駄兄妹、用意しとけよ」

 陣が完成する前に叩く。


「おっ、戦うのか?」

「楽しみだねえ。初めての戦場」


「お前たちは俺と一緒な」

 サイフォとベッカは戦力になる。

 ただし初陣だし、何があるか分からないから、近くにいた方がいいだろう。


 いろいろ想定した策はあるが、通用するかどうかは敵しだい。

 失敗したら実力でカタを付けなくてはいけないが、俺の傍にいれば大丈夫だろう。


「敵は待ち構えていると思いますが?」

 リグが心配そうに尋ねてきた。


「警戒はしているだろうよ。そこは仕方ねえ。それでも陣が完成してねえうちが攻めるにいい。それに今なら、戦力が分散されている」


 馬防柵というのは何も馬だけを押しとどめるわけではない。俺たちだって阻まれる。

 あれがあるとないのでは、攻略しやすさが随分と違う。


 どんなに一気呵成に攻め立てても、陣を越えるのに時間を有すればそこで渋滞していまう。

 この世界には魔法があり、足を止めた瞬間に狙い撃ちされる。


(俺なら、少数のオーガ族を突っ込ませて柵を破壊するけどな)

 それを後方から魔法で援護すれば、成功率も上がる。


 だが陣がない方が、攻めるにも引くにもやりやすい。


「こっちの準備はいいか?」

「うぇーい」


 相変わらず俺の部隊はやる気があるんだか、ないんだか分からない返事が返ってくる。

 これで突っ込ませると、嬉々として従うのだから、オーガ族は本当によく分からない。


「ペイニーもいいか?」

「はい。私は大丈夫です。死神族二十名、死ぬ気で突撃します」


「別に死ぬ気じゃなくていいから、しっかりと動いてくれ」

「この命に代えましても!」


「…………」

 いやだから、普通でいいんだけど。話を聞いているのだろうか。


 気を取り直して、オーガ族を見た……と思ったら、期待した目で見返された。

 俺の号令待ちのようだ。


 だったらもう行くしかない。うまくすればこの一戦でカタが付く。


「お前らっ……突撃だぁ!」

「ぅおおおおおおおおおお!!」


 俺たちは雄叫びをあげて、われ先にと飛び出した。




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