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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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「そろそろ会議を始めてもらえませんかね」

 視線が集中していたたまれないので、そう発言した。


 はやく会議が始まってくれ。視線が痛い。


「……ってゴーランが言っているし、始めようか。まずは、集まってくれてありがとう、今回もこのメンバーでこの丘を守り抜くよ。みんな慣れているから大丈夫だよね」


 反応がない。

 というより、まだ俺の方を見ている。いいのか? 会議を聞かなくて。


「進軍経路に見張りを放っていたので、今回は敵の部隊が分かっています。よかったね。本陣にハヌマーン族の姿が見えたから、たぶんそれは大将だね。軍団長かな」


 ヤバい名前が出た。あま駆ける大猿ハヌマーンか。

 魔界の住人は、俺たちオーガ族のように一族として存在している。


 それとは別にユニーク個体というのがいる。

 種族を持たないで、突然魔界にただ一体だけ現れるのだ。


 通常は、かなり強力な個体ができあがる。

 ハヌマーンもそう。


 武器を片手に戦場を渡り歩き、まるで雲の上を歩くがごとく、身軽に動いたらしい。

 ついた渾名が天駆ける大猿。


 ハヌマーンは唯一ユニークの個体だったが、他の大猿種との間に子を設け、それが一族として定着してしまった。

 新しい一族の誕生である。そうなるとハヌマーン族と呼ばれるようになる。


 初代ハヌマーンは小魔王にまで上り詰めたらしいので、この一族がどれだけ上位か分かるというものである。


 初っぱなからとんでもない話を聞かされて、俺の思考は半ば飛んでいた。


「というわけで、ゴーランには部隊長のギガントケンタウロス族を任せるからね。きっちり倒してね」

「な、なんだって-!?」

 今の俺の声だよな。


 ギガントケンタウロス族。ケンタウロス族の最上位種だ。


 頭に付いている言葉は、通常の種族が進化を遂げたときにつく。


 夜魔種ならば進化するとエルダーが付き、大蛇種ならばラージが付く。

 鬼種はハイ、小鬼種はビックとなる。ほかにもグレートなどがある。


 ケンタウロス族はオーガ族と同じくらいか、向こうがやや上。

 それの上位種となると、かなり厳しい相手でラージケンタウロス族となる。


 グーデン元部隊長がハイオーガ族だったが、ラージケンタウロス族だとそれと同じか少し強いくらい。

 ギガントケンタウロス族は、ラージケンタウロス族の上位種。


 もしグーデンが研鑽を積んで更なる上位種に進化した場合、ハイエストオーガ族となる。文字通り最高のオーガ族の誕生だ。

 ギガントケンタウロス族はそれに相当する。どれだけヤバイ相手か分かるというものだ。


「俺がそれを相手する必要があるんですか」

 同程度の種族が二段階進化した相手だと、足止めすらできるかどうか。

 抗議の声を挙げてみると、ネヒョル軍団長は満面の笑みで言った。


「ロボスの相手には、天狼族をお願いしたんだ。大丈夫だよね、ロボス」

「はい。ネヒョル様が仰るならば、全力を尽くします」


 賢狼族と天狼族では、かなりの開きがある。二ランクくらい天狼族の方が上だ。

 これは同じ魔獣族だからその差は決定的となる。


 ロボスはロボスで、厳しい戦いを強いられる。

 まだ俺の方がマシかな。……マシじゃねー、あやうく騙されるところだった。

 ロボス云々は関係なく、オーガ族の俺にはギガントケンタウロス族は手に余る。


「さあて、敵の陣容は分かったとして、もっと全体的な話をしようね。侵攻ルートから敵の戦略が見えてきたんだ。前回と同じなんだけど、なぜだと思う?」


 そんなこと言われても、俺には分からない。つか、ギガントケンタウロス族の件はあれでお終い? 会議が終わったら抗議しとくか。


 それと前回の戦略ってなんだ? 途中から部隊長になった俺は知らない。


「敵の戦略は丘の奪取ですが、それは目標であり目的ではございませんな。この丘を奪取し、拠点化することによって、我らが領内へ侵攻が容易になるからでしょう」

 ロボスがしたり顔で述べた。


「そうだね。近くに瘴気地帯があるから丘を取られると再奪取は難しいかな。行軍できる場所が限られているもんね。そしてここから侵攻すると、城への近道になる。どこも城に手を伸ばしやすい場所が狙われているね」


 敵の狙いは城らしい。

 つまり小魔王メルヴィスが眠っている棺がある城を落として、この国を手に入れたいわけか。


「他の軍団長が守っている箇所を見てみようか」


 地図があるなら、先に出して欲しかった。

 といっても普段地図なんて自分の村の周辺しかみたことがないので、どこがどうなっているのか、よく分からない。旅行先で見るテレビの天気予報図のようだ。


「ボクが真ん中でルヴェンがこっち。反対側にサネイファかな」


 ルヴェンとサネイファというのは、ファルネーゼ将軍麾下の軍団長だ。

 将軍には、これにネヒョルを入れた三人の軍団長がいる。


「ファルネーゼ将軍の軍だけで防衛するのですか?」

 気になったので、質問してみた。


「そうだよ。ゴロゴダーン将軍もダルダロス将軍も仲が悪いからね。一緒にすると喧嘩しちゃうでしょ」

 仲が悪いのか。つか、喧嘩すんなよ。俺が言うことじゃないけど。


 巨人族のゴロゴダーン将軍と飛天族のダルダロス将軍。

 これにヴァンパイア族のファルネーゼ将軍を合わせた三将軍がこの国の全てだ。

 それだけは知っている。


 ファルネーゼ将軍の部下は、ネヒョル軍団長以外にも名前が挙がったヴァンパイア族のルヴェン軍団長と魔天族のサネイファ軍団長がいる。


 ちなみに俺は名前しか知らない。ネヒョル軍団長ですら、前回初めて会ったのだ。


「ゴロゴダーン将軍が王の住む町を守っていて、ダルダロス将軍はいま、反対側に詰めているね。挟撃されたら困るでしょ」


 二国から攻められたら困るどころの話じゃなくて、たぶん滅亡する。

 ただでさえこの国は小さいので、人が少ないのだ。


 人が少ないということは、支配のオーブから吸い上げられる量も少ない。

 底上げができない分、戦ったら不利なのだ。


「それは分かりましたが、俺たちの陣が中央を守るんですか?」


 他の軍団長の組織は知らないが、ここはゴブゴブ兄弟に飛鷲ひじゅう族、それに賢狼族とオーガ族だ。

 とても精鋭が揃っているとは言いがたい。


 そもそもゴブリン族も飛鷲族も戦闘に不向きな種族と言われているのにだ。


「そっ。名誉ある中央守備隊だね。といっても他のふたつは守る範囲が広いから、ボクらはここに来るしかなかったんだよね」

 と言って、見晴らしの丘を指す。


「どこも抜けられたら終わりでありますな」

「そうだね。ロボスの言うとおり。だから、気合いを入れて守らないとね」


 全然気合いの入りそうにない口調で、ネヒョル軍団長は締めくくった。




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