表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
359/359

359

 あれから時が流れた。

 といっても、それほどじゃない。


 メルヴィスの国は至って平和だ。

 大小の変化は起こりつつも、それなりに機能している。


 一度俺は、トラルザードの国へ足を運んでみた。

「お主、あの戦いじゃが……あれでよかったのか?」


 いまだにどん引きされている。

 どうやらペッチャンコになるまで打ち据えたのが、トラウマになったようだ。


「ああするしかなかったんですよ」

 と答えておいたが、うさん臭い者を見る目で見られた。心外だ。


 メルヴィスの国とトラルザードの国はいま、同盟締結中だ。

 以前は魔王と小魔王の関係だったが、いまは魔王と大魔王。


 それでも両者の関係は変わらない。

 戦時に協力し合おうという戦時同盟を継続している。


 メルヴィスに領土的野心がないことと、その下の将軍(俺たち)も、どこかに攻め込むつもりはない。


 トラルザードも周辺諸国から恐れられているので、攻め込まれる心配はあまりない。

 というわけで、ゆるく同盟関係を維持していこうと確認しあった。


 今後とも、周辺諸国とは仲良くやっていきたい。


 それと、同じ大魔王の国として、東にダールムの国がある。

 こちらとは同盟を結んでいない。


 大魔王どうしが同盟を結ぶと、他の大魔王や魔王が警戒するので、その予定はない。


 一度、ダールムの国へ行き、ブーレイに会った。


 ダールムの国を訪れたのは二回目だが、意外にも結構な数の住人がいた。

 最初に訪れたとき、ほぼ無人状態だったのは、みな避難していたからだった。


 大魔王国だけあって、副官や将軍職にいる者たちはみな強そうだった。

 間違っても喧嘩を売りたいとは思わない。


 同盟は結ばないが、敵対もしない。互いによき隣人であることを願う。


 さて問題のメルヴィスだが、音沙汰がない。

 人界に行ったとは思うが、俺たちでは知る術がないので、放置している。


 きっと向こうでヤマトと楽しくやっていることだろう。

 人間界に喧嘩を売らなきゃいいなと思う。


 天界は大人しい……というか、不気味なほど沈黙している。

 あの後堕天してきた者がいて、ダールムが保護したらしい。


 ブーレイからその話を聞いた。

 天界最強であったエンラ機関が力を失い、他に取って代わられたという。


 エンラ機関は、これまで溜め込んできた聖力で盛り返そうとしているらしく、当分は天界内部で騒がしいだろうとのこと。


 魔界に攻め込むのは当分先になるようだ。

 いっそのこと、メルヴィスの身体を使って結界を張れないかなと思ったが、それはそれで面倒が起きそうなので考えないことにした。


 そうそう、変化がもうひとつあった。


 俺は結婚した。

 魔界にそういう結婚制度があるわけじゃない。


 ヤることやって子が生まれたので、そう呼べる関係になったというだけの話だ。


 相手はダキニ族のベッカ。

 意外だろ? 俺も意外だ。


「ほらゴーラン、みてごらん、ゴーランだよ」

 ベッカの頭がおかしくなったと思うだろう。違うのだ。


 俺とベッカの子だが、名前がゴーランと言う。なんたる偶然。


 魔界の住人の名前は、生まれるときに魂に刻み込まれている。

 勝手に名乗るわけではない。みな名を持って生まれてくる。


 そしてたまたま俺の子が同じ名前だったというわけだ。

 種族はラクシャ族だそうな。


 こいつは、生まれた時から起源オリジン種なのだ。

 まったくどんなチートやら。


 魔界の住人は子鹿バンビほどじゃないが、結構すぐに動けるようになる。

 10日も経てば、そこら辺を駆け回るくらい余裕だ。


 ――ガキィィン


 最近、奴のお気に入りは、拳と拳をぶつけ合わせること。

 俺が教えたら、キャッキャキャッキャと喜んで、そればっかりやるようになった。


 ちなみに生まれたばかりとはいえ、さすがはラクシャ族。

 通常のオーガ族と拳合わせをすると、大人のオーガ族でさえ拳を破壊されてしまう。


 俺とベッカ以外には拳を合わせるなと、言い聞かせてある。


「ねえ、ゴーラン」

「奴なら、いま寝てるぞ」


「新ゴーランの方じゃなくて」

「俺は旧かよ!」


 理不尽な。


「なんかリグがきて、南の国境が騒がしいんだって」

「ついにきたか」


 ここんとこずっと静かだったが、「メルヴィスって、また寝てるんじゃね?」という噂が広がったのだ。


 もしかすると、一戦して確かめようと考える馬鹿が出るかもしれないと思っていたが、予想が当たったようだ。


「よし、出撃の準備だ。攻めてくるような阿呆どもに、目に物みせてやる」

「わあい。新ゴーラン、初陣だよ」


「戦わせるのかよ!」


 あと新というのは止めろよ。




○魔王トラルザードの城 トラルザード


「なんじゃとーぉ!? 見間違いではないのか?」

「いえ、何度も確認したそうです。見間違いではないと、何度も念を押しております」


「ううむ。これはどういうことだろうか……本人に聞くのが一番かのう」


「トラルザード様、いかがされました?」

 先ほどの大声に、副官たちが集まってきた。


「配下の者が支配の石版で更新されたリストを持ってきたのじゃが……ちょっと見てくれ」

「……拝見致します」


 副官たちがリストに目を通す。


「……見間違いかと」

「我もそう思うのじゃが……うーむ。同じ名前ということはあるのか?」


「さあ……ないとは言い切れませんが。聞いたことはないです」

「魂に刻まれる名前がまったく同じとは……双子であっても違うのだぞ。それでは魂が同じで、区別つかんではないか」


「そうですね……ですが、間違いではないのですね」

「そう言っておる」


「不思議ですね」

「不思議じゃのう……」


               ○


「……よおし、間に合った」

 敵はちょうど国境を越えてきたところだ。


 俺たちは町から急行して、ぴったし間に合った。

 しかも高台を取れたのは大きい。


「それじゃ、頑張ろうね~、新ゴーラン」


「おい、本当に戦わせるのか? 止めとけ。それと新ゴーランも止めてくれ」

「ええ~!? 大丈夫だよ。新ゴーランに聞いてみようよ。ほらぁ、どうしたい?」


 ベッカがゴーランを抱え上げて、俺の方へ差し出した。

「どうだお前、戦いたいのか?」


「――オレ、いく」


 意思表示しやがった。

 しかも戦いたいらしい。


「どうお? いいよね~?」


「……仕方ない。ちゃんと面倒みとくんだぞ」

「おっけー」


 相変わらずベッカは、ノリが軽い。

 まあいい、一気に蹴散らせばいいことだ。


「ようしてめえら! 今から作戦を伝えるぞ」

「「「うぇーっす!!」」」


「俺に付いてこい! 以上だ!」

「「「うぇーっす!!」」」


 コイツらは、俺が手塩に掛けて育てた連中だ。


「続けぇー! ヒャッハー」

 俺は一気に坂を駆け下りた。


「ヒャッハー!」


「ヒャッハー!」


「ヒャッハー!」


「ヒャッハー!」


 部下どもが俺に続く。


「ひゃっはー!」


 ちっさなゴーランも一緒に。




 直後、戦場に激しい衝突音が響いた。




               〈FIN〉


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
すっごく面白かったです!
[良い点] ヒャッハー している、作品でした!!面白くて一気読みしました!! 世紀末の某漫画のパロが所々入ってるのも魔界の世紀末感があって良かったです。 最後、オレだったゴーランが息子として転生し…
[良い点] とても良きでした。 [気になる点] 一点だけ。 ヤマトの種族名は神話ではなくヤマトの方がオリジナルだったわけですが、だとするとゴーランの種族名はどうなるんでしょうか? 単なる偶然の一致なの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ