表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
357/359

357

 ツーラート将軍が大股で距離を詰めてきた。

 さすがサイクロプス族。身体がデカいだけに、ゆっくり動いているように見えて、その実速い。


 巨大な戦斧を軽々と振り上げた。

「うおっ!?」


 そして豪快に振り下ろす。

 あの距離から届くのかと思ったら、腕が伸びた。


 いや錯覚か。

 モーションが大きいので、そう見誤ったかもしれない。


 俺は戦う前から、ツーラート将軍の一撃目を受けてみようと思っていた。

 どのくらい力があるのか、実際に確かめてみたかったのだ。


 ――ッガギィイイ


 六角棍と戦斧がぶつかり合い、激しく火花を散らす。

 俺はというと、踏ん張った足のまま、十メートル以上後方へ飛ばされた。


「……あり得ないほどの膂力だな」

 身体強化して堪えたんだが、それでも足らなかったらしい。


 ツーラート将軍は勝機とみたか、連打を放ってきた。

 戦斧が風を切り裂き、うなりをあげて襲いかかる。


 なるほど、一手一手が重い。絶大な破壊力を持っている。

 本人の力だけでなく、武器の性能もあるのだろう。


「だが、ちょっと足らねえな」

 これまで規格外を相手にしてきた俺としては、力特化だけの奴に負けるわけにはいかない。


「せいっ!」

 打ち下ろされる戦斧を払い、六角棍の表面を滑らせる。

 地面が震えるほどの衝撃が足にきた。かわりに土中深く、戦斧の刃がめり込む。


 その頃にはもう、俺は武器を捨ててツーラート将軍の横に回り込んでいる。

「図体がでかいと、死角が多いんだよな」


 脇の下まで素早く移動する。

 ツーラート将軍の肘を両手で持って、力いっぱい引っ張り下ろす。


 当然バランスが崩れ、身体が泳ぐ。

 俺にとってはそれで十分。なにしろ、将軍は鎧で胸部や頭部を覆っているのだ。


 タイミングよく足を引っかければ、ちゃんと転んでくれる。

 ツーラート将軍を背中から転がす。


 そんな状態になっても武器を手放さないのは見上げたものだが、ここでは悪手。

 武器を捻ると、手首までついてくる。


 鎧の下からくぐもった声が聞こえるが、当然無視。

 うつ伏せに寝かせ、腕を捻り上げる。


「あとは……」

 身体強化全開で腕を折りに掛かる。


 俯せの体勢からでは堪えることができない……はずだが、しっかりと耐えている。

 俺の全力と将軍の関節。どちらが強いか勝負だ。


 ――ボキッ


 いや、折れるよな、普通。


 関節技や寝技から脱出する方法を鍛錬していないのだから、腕を決められたあとで足掻いても折れるまでの時間稼ぎにしかならない。


 今は肘を壊したが、それだけで将軍の戦闘力が落ちるほどヤワじゃないだろう。

「続いてこっちだ」


 起き上がろうとした所を羽交い締めにし、もう一本の腕を取りつつ、将軍の首に足をかけた。

 首の骨を折られまいと踏ん張る様子は滑稽であるが、ツーラート将軍としては本気なのだろう。


「残念、今度はこっちでした」

 ゆっくりと腕をねじり、回しきった先で力を加えると……。


 ――ゴキ


 肩の関節が外れるわけだ。


「外れた関節のはめ方なんか知らねえだろ。だからあとは俺のターンだぜ」

 放り出してあった六角棍を拾い上げ、俺は歯をむき出して笑った。


 このひと月、俺に挑戦してきた者どもを相手にしてきたとき、敢えてすべての技を使わなかった。


 俺のすべては見せていない。

 戦い方など、他にあると思わないだろうと思ったが、その通りだったな。


 関節技は初のお披露目だ。さぞ驚いたことだろう。


 ちなみに三将軍との戦い方は、何パターンも考えてある。


「ここからは、ずっとずっとずっと俺のターンだぜえ!」


 ここからほぼ一方的な戦いとなった。

 戦いと言えたかどうだか。


 将軍の重い鎧を魔素で強化した六角棍で殴りつけた。

 それこそ何度も何度も。


 鎧が原形を留めなくなるほどひしゃげたし、どこかに飛んでいった部位もあった。

 それでも俺は止めない。


「ヒャッハー!」


 相手から魔素を吸収しつつ、殴り続ける。

 魔素さえ回復させてあれば、千発でも二千発でも殴り続けられる。


 簡単な永久機関だ。


 最後は鉄くず鎧とボロ雑巾になったツーラート将軍を、俺が執拗に叩き続けるだけの世界になった。


 集中し過ぎて、周囲の音が入らなかった……と思ったら、会場は水を打ったように静まりかえっていた。

 観衆はどん引きしていた。


「ヒャッハー!!」

 俺は気炎をあげ、さらに殴り続ける。


 ツーラート将軍の身体が地面に半分ほどめり込んだ時点で、俺の勝利となった。

 六角棍を高々と掲げ、勝利のポーズを取ったものの、だれも拍手してくれなかった。




「……やり過ぎではないか?」

 ファルネーゼ将軍から、本気で引いた目を向けられた。


「勝負は時の運。今頃あそこに転がっていたのは、俺だったかもしれません」

「そうか……」


 うまいこと言えたと思ったのだが、ファルネーゼ将軍にはあまり感銘を与えられなかったようだ。


「次は将軍の番ですね。がんばってください」

「ああ……あそこまで徹底的にやれるか分からないがな。じゃ、行ってくる」


 ファルネーゼ将軍はトンッと地面を蹴り、軽やかに舞い上がった。


 対するダルダロス将軍は……すでに闘技場上空で待っていた。

 空中戦法を使う者どうしだ。先に位置取ったことからして、こういう戦いに慣れていると思える。


 前試合の興奮? が会場を支配する中、二将軍によるガチの戦いが始まった。


 結果から言うと、ファルネーゼ将軍が負けた。

 ダルダロス将軍が終始試合の流れを制御していた感じだ。


 手加減する余裕すらあった。

「なんだよ、圧倒的じゃねーか。ダルダロス将軍、これまで三味線弾いてやがったのか?」


 能力もさることながら、試合運びが圧倒的に上手い。

 魔法もただ前に撃つだけじゃなく、タイミングをずらしたり、見えない一撃を交ぜてきたり、死角に入った一瞬の隙に撃ち出したりと、小技が冴え渡っていた。


「こんな巧者がこの国にいたのかよ」

 試合巧者というのは分かったが、ファルネーゼ将軍が相手の実力を引き出す前に、決着がついてしまった。残念だ。


「……負けたよ」

 試合が終わってファルネーゼ将軍が戻ってきた。


「惜しかったですね」とか「もうちょっとでしたね」とは言えない。

 終始圧倒されて、弄ばれた。


 何もできないうちに倒されたような感じだ。

 同じ将軍職なのに、それだけの差があった。


「不甲斐ない戦いですまないな」

「いえ、これで気を引き締めて行かねばならないことが分かりました」


 メルヴィスを隠れ蓑にしていたのか、とんだ実力者もいたものだ。


「なんか待っているようなので、行ってきます」

 戦いが終わっても、ダルダロス将軍だけは闘技場から去らなかった。


 闘技場に浮いて、俺を待っている。

 だったら応えてやろうじゃねえか。


「……っと、こっちの方がいいかな」

 今回はより速度の出る深海竜の太刀の方がいい。


 俺は太刀を握りしめ、闘技場へ降りていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ