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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
353/359

353

 俺はなぜ、メルヴィスの使い走りをしているのだろう。

 直属の部下がいるだろうに、なぜ俺が?


「ゴーラン。長かったな」

 城の回廊を走っていると、ファルネーゼ将軍がやってきた。


「そうですね、冥界に行ってましたので」

「はっ?」


「何言ってんだ、コイツ」みたいな顔をされた。

 また死んだのかと思われたのだろうか。


 でもそう言うしかないよな。「冥界に行っていた」って。


「メルヴィス様の特殊技能らしいので、俺も詳しいことは分かりません」


「そ、そうか……」

 それで黙ってくれた。


 そういえばメルヴィスの特殊技能って、とにかく『死』を連想させるものが多い。

 魂を揺さぶるというか、攻撃で肉体を損傷させるとかでなく、直接的な死を連想するものが多い。


 いかに強力な魔界の住人であっても、魂を攻撃されたら嫌だろう。

 みながメルヴィスを恐れるのも分かる気がする。


「メルヴィス様からの命令で、将軍をすべて集めよと」

「はっ?」


 また「何言ってんだ、コイツ」って顔をされた。

 魔界が大混乱しているのに、一カ所に集めよって、また無茶な命令だよな。


「これについては、ヤマト様に関する重大な案件ということで……俺が言っていいかどうか判断つきません」


「そうか……呼び寄せるのはできるが、国境を……だが、命令とあれば……」


「どうせなら、軍を撤退させたらどうでしょう。ヤマト様の案件です。国境で何かあってもメルヴィス様が解決して下さいます」


 ヤマトに関わることなのだ。

 邪魔が入ったと「告げ口」すれば、憤怒して排除しにいくと思う。


「そういう考えもできるか」

 ファルネーゼ将軍も納得してしまった。


 一、二回は攻め込まれるだろうが、そうなったらメルヴィスは必ず出てくる。

 そのとき、自軍がいない方が「被害が少ない」。


 メルヴィスの魔法は敵味方巻き込むし。というか、俺が巻き込まれたし。

 あと大魔王ダールムの国と、魔王トラルザードの国から攻めてくることはない。


 攻めてくるのはメルヴィスの恐ろしさを知らない若手ばかりだ。

 そういう連中は、軍が一瞬で壊滅すれば考えを変えるだろう。


「よし、とりあえず将軍をすぐに呼び寄せよう。配下の中でもとびきりのを使者に立てればいいな」

 とびきりって、この前俺の手足を掴んで運んだ連中だろうか。


 あいつら、一発くらい殴っていいよな。駄目かな。


 決断してからのファルネーゼ将軍は早かった。

 まず将軍だけをすぐに呼び寄せる使者を出した。


 その後、軍師のフェリシアを呼んで、軍の撤退を試算させた。


 フェリシアは急な撤退に驚いていたが、「メルヴィス様が出て行ったときを考えてみろ」とファルネーゼ将軍に言われて、すぐに仕事に取りかかっていた。


「メルヴィス」って、ある意味強力な呪文ワードだと思う。

 世界崩壊の呪文「メルヴィス」……だれか広めないかな。



 などと空想しているうちに日は流れ、城に将軍たちが集まってきた。

 その間俺は、ジッケとマニーを追い回していた。


 奴らの姿が見えないアドバンテージは、すでにない。

 見ることは相変わらずできないが、気配さえ覚えてしまえば、ある程度察知できる。


 城の者から話を聞いたところ、あの二人はかなり悪戯好きで、しかも洒落にならないレベルでの悪戯を仕掛けてくるらしいので、懲らしめてやろうと思ったのだ。


 というわけで俺は、連日ジッケとマニーを追い回している。


 なぜ俺がメルヴィスの鎖が見えたり、ジッケとマニーの気配を察知できたりするのかというと、俺が「魂」に深く関わったからではないかと思っている。


 臨死体験した人物がその後、不思議な力を得るように、魂について造詣が深くなったゆえか、俺がそういったものに敏感になったらしいのだ。


「まっ、前世でいう『霊感が宿った』ようなものか」

 魂が見える、霊魂が見える、幽霊が見える……それに近い能力に目覚めてしまったのだと思う。


 ファルネーゼ将軍がやってきた。


「ゴーラン、メルヴィス様が呼んでいる」

「へっ? 俺ですか? 今から会議では?」


 ようやく三将軍が集まったので、これから会議を開くと聞いていた。


「そこへゴーランも呼ぶようにというお達しだ。一緒に来い」


「分かりましたけど、コレどうしましょう」

「ん? どれだ?」


「手に持っているのは……ジッケの方ですね」

 捕まえたのでボコボコにしておいた。


「…………」

 数日ぶりに見た。ファルネーゼ将軍の「何やってんだ、コイツ」っていう目。


「放っておきましょう」

 ジッケを放り投げて、手を払う。パンパンと小気味よい音が響く。


「……行くか」

「はい」


 ちなみに、どこかの馬鹿どもが攻め込んで来たという話はきかない。

 そのかわり、行商人たちからとある噂を聞いた。


 ――メルヴィス様が大魔王に復帰したことで、魔界が大人しくなった


 そんな噂だ。

 これを運んできたのは、空を飛んで行商している非戦闘種族たち。

 町から町まで最短距離を飛んでくるため、情報が早いのだ。


 地上をやってくる連中はまだ道なりに進んでいるため、あと数日は遅れるだろう。

 噂が事実ならば、他国から攻められるという事態は避けられそうだ。


 誰もが小覇王ヤマト麾下で、三強のひとりとされる『不死のメルヴィス』の名を思い出した頃だろう。


 魔王トラルザードなどは、名前を聞いただけでガクブルするほどだ。

 昔のメルヴィスはいったいどれだけヤンチャだったのか。


「まあ、今でもヤンチャか」

 俺も殺されかけたし。


「どうした、ゴーラン。会議に遅れるぞ」

「あっ、ハイ、すみません。いま行きます」


 メルヴィスと三将軍の会議に参加するため、俺は歩を速めた。



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