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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
352/359

352

 ほとんど浄化しかかったヘラの魂。

 メルヴィスの魂と繋がっている理由は不明……いや一応、理由らしきものは想像できる。


 ヘラの目的は昔から「人界へ行くこと」。それのみ。

 ならば、メルヴィスと魂を繋げたのも、その目的を達成させる手段のひとつと考えれば納得できる。


 人界には、ゼウスが命をかけて張った結界がある。

 これを破るには、ゼウスと同等の力を持った支配のオーブが必要だった。


 ゼウスと同等……その相手として選ばれたのが、当時小覇王だったヤマト。

 ヘラは魔界に侵攻して、ヤマトを付け狙った。


 おそらく、これは俺の想像になるが、ヘラは保険をかけていたのではなかろうか。

 ヤマトは強い。自分では勝てないかもしれない。


 ならば、もうひとつの手段。

 自分と同等の力を持つ者と魂を繋げようと。


 その相手として選ばれたのが当時大魔王だったメルヴィス。

 ヘラの相手としては正しい。


 ヘラがそれで何を成そうとしていたのかは定かではない。

 もはや魂は浄化されてしまっているのだから、その時の記憶は残っていないだろう。


 浄化した魂を使って転生への道に至るなど、考えていたのではないかと思う。

 ヘラは死んだのだし、それはもはやどうでもいいことだ。


「この魂、使えるな」

「そうですね」

 俺はそう言うしかない。


 というわけで宿敵の魂を有効活用するらしい。

 さすがメルヴィス……なのか? よく分からん。


「よし、戻るぞ」

「は、はいっ」


 戻るとは……肉体に戻ることだろう。

 メルヴィスは冥界の海の上までいくと、魂の繋がりに引かれるように戻っていった。


「えーっと……」

 俺も自分の肉体を意識すると、魂が戻りたがっているのが分かる。


 仮死状態である「今の状態」が不安定なのだろう。

 だから流れに逆らわずにいれば、自然と魂が肉体に戻ろうとする。


 俺はゆっくりと……意識を手放して……魂が肉体に戻るがままに……まかせた。




 意識がゆっくりと覚醒していく。

 ああ、肉体に戻ったな……そう思って目を開いた。


「うわっ!?」

 ビビった。マジでビビった。


 メルヴィスの雰囲気が変わっていた。

 なんというか、凄みが増した感じだ。


「な、なんですか?」

 スーパー○イヤ人に覚醒したのか?


「ふむ……どうやら、戻ったようだな」

「?」


「昔の感覚が戻っておる」

「昔……」


 昔ってあれか? 大魔王だった頃の?

 それ、ヤバいんちゃいますか。


 たしかに雰囲気は変わった。

 前も凄かったが、いまは大魔王と言われても、「大魔王? もっと凄いんじゃね?」と思うほどに変わった。


「あっ、鎖が消えています」

 メルヴィスの胸から伸びていた不可視(と言っても、俺とメルヴィスには見えていた)鎖が消えていた。


 凄みが増したのはそのせいか?

 ということは、ヘラの魂を持ち帰った(どうやってか俺は知らない)のがきっかけか。


 どういうことか、考えてみよう。

 ヘラの魂を持ち帰ったことで鎖が消えて、凄みが増した。

 つまり、これまでメルヴィスは、ヘラによって弱体化させられていたことになる。


 いや、ヘラの魂と繋がったことで弱体化していた?

 メルヴィスの力を使って、何か呪いをかけたのかもしれない。


 ある意味一石二鳥の方法だろう。

 人界へいくために布石作りができて、相手を弱体化させられるのだから。


 ヘラの魂を持ち帰ったことで、鎖が消えた。

 つまり、界を越えてまで魂を繋げる必要がなくなった。


 そのせいで、これまで使われていたメルヴィスの力が必要なくなったのか、呪いが解けたのかした。

 そんな感じか。


「儂はこの魂を使って人界へ行く。将軍どもを呼び寄せよ」


「はいっ!」

 俺はすぐさま部屋を出ていった。




○トラルザードの城 魔王トラルザード


「ぬわんだと!?」

 城内にトラルザードの大声が響く。


「も、もう一度、言ってくれ……な、何が、どうしたと?」


「はっ。支配の石版を写し取っている者からの報告で、本日、大魔王の欄にメルヴィス様のお名前が復活したとのことです」


「なんでじゃー!? 何がおこったのじゃ?」


「私どもも詳しく把握できておりません。大魔王ダールム領にて天界からの侵攻が確認され、メルヴィス様が巻き込まれたというのは聞き及んでおりますが、それ以降はなにも情報がありません」


 報告に来た者は額に汗をかいている。

 ここまで取り乱す主を見るのは初めてであった。


 現在魔界は、大混乱の様相を呈している。

 どこが敵か味方か分からない状況だ。


 一緒に戦っていた友軍が翌日には攻め込んできたなんて話も聞いている。

 そんな中、魔界に轟いたのが、天界からの大規模侵攻。


 魔界中が震撼した。

 侵攻先が大魔王ダールム領だったため、一時はホッとした雰囲気が流れた。


 だが、天界の住人が張った聖気結界の中に小魔王メルヴィスが閉じ込められてしまったという話は、メルヴィスを間接的にでも知る者たちにとって、心胆凍り付くような出来事であった。


 絶対にキレる。キレたら何をするか分からない。

 自分とこは大丈夫か? と戦々恐々としたのだ。


 そしていま、支配の石版に、突如メルヴィスの名が大魔王の欄に書き込まれたという。

 何かが起こった。それは理解した。


 それで「これから何が起こる?」と全員が震え上がったのである。


 かつて小覇王ヤマトは、魔界の半分以上を手中に収めたことがある。

 とくに領土的野心があったわけではないらしい。


 だが小覇王ともなると、その傘下に入り、庇護を求める者が後を絶たない。

 自然と大きな勢力になってしまうのである。


 そのとき、メルヴィスの存在も大きかったと伝承にはある。

 あれと敵対したくない。


 それだけのためにヤマトの配下に加わった強者が、列をなしたとか。


 ぷるぷるぷる。

 トラルザードは震える手を放置し、目に大粒の涙を溜めて呟いた。


「だれかこの状況を説明してくれんか」



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