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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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035

 軍を率いて見晴らしの丘に到着した。


「今回も副官を仰せつかりましたリグです。よろしくお願いします」

 リグはもとから俺の副官だったはずだ。


 しばし考えて理解した。本来、出陣のたびに副官は任命されるようだ。


 いまリグは俺の村に住んでいるし、俺が用を頼むことも多い。

 そのため同じ副官がいいだろうと今回も任命されたらしかった。


「おう、よろしくな」


 と平静に答えたが、「やべー、あやうく別の副官が来るところだった」と思ったのは内緒だ。

 村に住まわせていてよかった。

 リグがいた方が、俺が部下に施した訓練内容を理解している分、やりやすいのだ。


 天幕の設置や陣を構築するのに必要な物資の手配、作業する人員への指示。

 毎日の食事や片付けや洗濯など、コボルド族がいなければ、戦争は成り立たない。


 リグはこれらのことをテキパキと進めていく。

 部隊長として俺は全体のことを考えているようで、そういった裏方に関する部分はほとんど理解できていない。

 すべてリグ任せになる。反省だ。次回のために俺も手順くらいは勉強しておこう。


 もっとも俺以外のオーガ族は、なぜ毎日飯が出てくるのかすら疑問に思うこともないだろう。

 誰かがどこかで用意しているんだろうという認識だ。


「へえ、ここが戦場ね」

「楽しみね、お兄ちゃん」


「……お前ら、緊張とかしないのか?」

 今回はサイフォとベッカの駄兄妹も一緒に付いてきている。

 そう、勝手に「付いてきた」のだ。


「緊張? なんだそれは」

「楽しみ過ぎて、大変なことになっちゃいそうって感じ?」

「……いや、いい」


 昔、戦争の怖さを知らない者は戦場で死ぬと誰かが言ったような気がするが、二人に言っても無駄だろう。

 他のオーガ族を無双できるくらいには強いわけだし。


 俺が毎日相手をしていたから、ある程度の技術も使える。

 魔素量は元々多いし、兄妹が並んで戦うと息の合ったコンビネーションを発揮する。


 余程のことがない限り、この二人が遅れを取ることはないだろう。


「はしゃぎすぎて一人で突っ込んだりするなよ。それから俺の命令はちゃんと聞け」

「分かってるって。オレたちを導いてくれるんだろ? 期待しているぜ」

「そうね。どんな強敵が出て来るのかしら。楽しみ〜」


「敵は強くて数が多い。泣き言さえ言わなきゃいくらでも戦わせてやる」

 実際、駄兄妹がいると戦略の幅が広がる。


 俺の部隊で、要所を安心して任せられる人材は少ないのだ。

 上位種族である死神族もいるが、いまだ未知数。

 働き次第では、今後重要な箇所を任せることになるだろうが、今回はまだ様子見の段階だ。


「ペイニー、ルマが預けてくれた二十名はどんな感じで選抜したか知っているか?」

「希望者の中から、戦場経験のある者とない者を半数ずつと聞いています」


「なるほど、分かっているな」


 新兵を半分入れたのは、熟練兵の動きを見て真似させるためだろう。

 次があれば、彼らが経験者となって新兵を導くことができる。

 よく考えられた選別だ。




「ゴーラン様、本日より会議が行われるそうです」

 リグが呼びに来た。到着した日から会議か。


「俺の部隊がもしかして最後か?」

「そのようです。オーガ族の村は戦場から一番離れていますので、仕方のないことかと」


「そういうものか。会議はいますぐか? それとも前のように夜にするのか?」

「夜と聞いております」


「だったら、ちょっと寄るところがある。夕方までには帰る」

「分かりました。戻りましたらお声がけください」


 リグに見送られて陣を抜け出した。


 いまコボルド族たちが天幕を張っている。俺たちの寝床だ。

 そのうちオーガ族にも、自分のことは自分でやらせよう。


 まだ丘に到着したばかりなので、今回の編成はまったく分からない。今回もロボスやゴブゴブたちだろうけど。

「敵の陣容も分かってないんだよな」


 細かい内容は会議までお預けだろう。

 できるだけ死ににくい場所で、弱い敵と当たればいいなと考えながら、前回訪れた町へ足を運んだ。


「……よう、じいさん。やっぱり逃げなかったのか」

 樹妖精種の中でも長命な一族、チェリーエント族の人たちが広場にいた。


「おう、部隊長だったな。しばらくぶりか」


 老木の名はエルヴァン。

 前回、五人のチェリーエント族とともに避難を断っていた。


「また敵が来たみたいなんだ。じいさんたちは逃げなくていいのか?」

「当たり前よ。こんな老いぼれが地上を歩いたら、たちまち枯れ木になっちまう」


「そうそう。エルダー種になるまでワシらは死ねんよ。ここで根を張って静かに生きるのみじゃ」

「まあ、お主らの部隊がしっかり守ってくれれば逃げる必要もあるまい?」


 彼らは飄々としている。

 飽きるほど生きた弊害が、危機感がまるでない。


「そりゃ守るさ。守るが、万一ってこともある。俺だって俺の部隊だって万能じゃねえ。取りこぼす事もあれば、抜けられる事もある。万一近くに敵が来ても、決して攻撃なんかするんじゃねえぞ」


「分かっておるよ。それにな、町の南側は瘴気地帯じゃて。何人なんびとも出入りはできん。ということは、お主らが守る東側さえ無事なら、わしらはここで日の光を浴びてのんびりできるというものよ」


 町の北側にはネヒョル軍団長のいる本陣がある。

 さすがにそこから敵がくるとは思えない。ということはやはり、俺たちが布陣している東側の防衛にかかっているわけだ。


「分かった。だれ一人通さないから安心しててくれ」


「期待しておるよ」

「わしらを守ってくれよ」

「一緒にひなたぼっこするかい?」

「しねえよ!」


 俺は町中を一回りして安全を確かめたあと、もう一度じいさんたちを見舞ってから陣に戻った。


 時刻はすでに夕方。もう少ししたら会議が始まる。

「リグ、敵軍はどんな感じだ?」


「まだ影も形も見えませんね。こちらに到着していないのではないでしょうか」


「敵が来たから俺たちは招集されたんだよな。それで敵はまだ到着してないのか?」

「前回の進軍経路は分かっていますので、見張りを残しておりました。それが敵軍の侵入を察知して知らせたのだと思います」


「なるほど。一回目があれば、警戒するか。それで敵は同じ道を使ってやってきたと。相変わらず魔界の住人は力押しが好きだね」


 リグと歩いて本陣の天幕へ行く。


「じゃ、行ってくるぜ」

「くれぐれも……いえ、なんでもないです」


「? 変なやつだな」

 リグに見送られて俺は中に入った。


 すでに部隊長全員が揃っていた。

 ゴブゴブ兄弟に、飛鷲族のビーヤン。そして賢狼族のロボスだ。


 ネヒョル軍団長はまだいない。

 全員揃ったら、副官が呼びに行くのだろう。


「やあみんな久しぶり。元気してたー?」

 うぜえ。


 陽気な声で軍団長が入ってきた。

「あれ? ゴーラン。ずいぶんと魔素量があがったね。見違えちゃったよ」

「そりゃどうも」


「ボクと戦ったときよりかなり強くなったんじゃない?」


 ――ガタガタッ!


 ゴブゴブ兄弟とロボスが立ち上がった。ビーヤンは羽をバサバサやってる。ホコリが舞うからやめてほしい。

 そして全員が俺の方を凝視している。


「この席でその話は止めてもらいたいですけど」

 やんわりと注意すると、軍団長は無邪気に微笑んだ。


「ええーっ。でもゴーランに斬られた腕、ちゃんとくっついたよ。ほらっ、動くでしょ」

 軍団長が口を開くたび、俺への視線がキツくなる。


「ネ、ネヒョル様……ま、まさか本当に戦われたのでしょうか」

 ロボスの声が震えている。


「そうだよー。軍を解散させてすぐだったかな。ボクの所にゴーランが尋ねてきてね。ボクは右腕と左手首を切り落とされちゃった」

「「…………」」


 みなの視線が痛い。




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― 新着の感想 ―
[一言] おう、部隊長だったな。しばらくぶりか」  老木の名はエルヴァン。  前回、五人のチェリーエント族とともに避難を断っていた。 細かい事だけど、時間の感覚が桁違いという設定なら、しばらくでは…
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