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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
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 空が陰ったと思ったら、俺の周囲が闇に閉ざされた。

 というか、周辺一帯が闇に包まれたのだと思う。


「見えないし、周りの音が聞こえない……いや、俺の声は聞こえるのか」


 周囲の音だけがなくなった。闇に音が吸収されたのかもしれない。


 自分の声は聞こえるし、足を踏みしめれば、かすかだが音も拾える。

 超強力な防音といった感じだろうか。


「しかし、困ったな。俺だけ逃げ遅れた」


 ブーレイたちはもうこの辺にはいないだろう。

 こんなことになるなら、俺も逃げればよかったかもしれない。


 この闇を作り出したのはメルヴィスに間違いない。

 闇を作るなんて、天界の住人の仕業とも思えない。


 何の効果があるのか分からないが、先ほどからチクチクと闇が肌に刺さってくる。

 腕を動かすと、闇が腕にまとわり付いてくる感触がある。


 絹のヒレを何枚も垂らして、腕を振っているみたいな感じだ。

 身体強化しているが、纏わり付く感触は変わらない。不気味だ。


 嫌な感じなので、メルヴィスから遠ざかりたい。

 だが、それも難しい。真っ暗闇なので、方角を見失ってしまった。


 慌てて振り向いたのだ。

 いま俺がどっちを向いているのか、分からなくなっている。


「仕方ない。全速力で走れば、どこかに抜けるか」

 魔法弾が直撃すれば死ぬようなところにいるのは自殺行為だ。


 音が聞こえないので、どこで戦闘が行われているか分からなかったりする。

 それが分かれば遠ざかれたのだが。


 メルヴィスが天界の住人を見逃すはずがないので、きっとどこかで戦っている。

 それが分からないのが悔しい。


 とにかく「こっちかな?」と思う方角へ、俺は走り出した。

 闇が纏わり付いてしょうがないが、それは無視する。


 メルヴィスから遠ざかっていることを祈りながら、俺は走り続けた。


「……って、コレ、浸食しているじゃねーか」

 今気付いた。

 俺の魔素が減っている。というか、身体から魔素が失われている。


 この闇は、聖気結界を浸食したアレに近いものらしい。


 纏わり付くそばから俺の魔素を浸食し、闇と俺の魔素が対消滅しているっぽい。

 そこに新しい闇が纏わり付く感じだ。つまり、延々と俺は魔素を浸食され続ける。


 この闇の中にいるとヤバいことが分かった。

 といって、闇雲に走ってここを抜けられるのだろうか。不安になってきた。


 立ち止まって闇を少し眺めてみる。なぜ俺の身体に纏わり付くのか。

 原因が分かれば対処できるかもしれないからだ。


「……なるほど、闇に魔素が含まれているのか」


 魔法の原理と同じだ。

 これは魔素によって具現化された闇らしい。


 攻撃魔法ならぬ、浸食魔法だ。


 すごいな、こんな魔法の使い方もあるのか。

 だが、これが魔法……つまり、魔素によって引き起こされたのならば、方法がある。


 ――魔素吸収


 相手から直接吸収するよりも効率は落ちるが、俺の特殊技能『魔素吸収』ならば、魔法だって吸収できる。


 以前トラルザードに魔法を撃たれたときは、その技を会得していなかった。あの時は死にかけた。

 だが、いまならば問題ない。


 精神を集中させて、周囲の魔素の吸収を試みる。


 少しすると、スッと身体が軽くなるのが分かった。

 纏わり付く感覚が消えた。


 同時に、浸食されて減っていた魔素が満たされていくのが分かる。


 全身を覆うように魔素吸収を発動させて、しばらく様子を見る。

「……よし、問題なさそうだな」


 魔素吸収はうまく働いているし、俺の身体も問題ない。

 時間的な余裕ができた。


 これでゆっくりと出口を探し歩ける。

 そう思っていたのだが、違った。


「……マジか!?」

 何かが近づいてくるのが分かった。


 近づいてくる膨大な気配。

 これは間違いなく、メルヴィスだ。


「俺を敵認定して追ってきた!?」

 そうすると、ちょっと逃げられないかもしれない。


 膨大な気配は、俺のすぐ近くまでやってきて、こう言った。


「……ヤマト様」

「ちげーよ!」




 周囲の闇が払われた。

 そして目の前にはメルヴィス。


 どんな状況だよ、これ。


 メルヴィスはじっと俺を見て、不思議そうに尋ねた。

「儂の部下のようだが、なぜここにいる? それよりもなぜヤマト様の技を使えるのだ」


 やっぱり、魔素吸収に気付いたのか。


 ということは、あの闇はメルヴィスと繋がっていて、闇の中で何がおきたのか、分かるようになっていたってことだ。


 目の前に立たれても分からないくらいの闇だし、様子を窺う方法がなければ魔法を放った側も困るだろう。

 考えてみれば、当然のことか。


「俺の名前はゴーランです。ファルネーゼ将軍の部下の……」

「ゴーラン? 聞いたことがある名だな。そういえば見たことがある」


 思い出してくれたようだ。

 戦場でヤマトと同じ技が使われたので見に来てみれば、まったくの別人がいた。


 メルヴィスとしても、困惑しているのかもしれない。

 何しろ、これまで天界の住人を殲滅していたのに、それらをおっぽり出して俺の所に来たくらいだ。


「そう言えば、天界の住人!」

「すでに息絶えておる」


 あっさりと断言された。

 この闇の中の出来事はすべて把握できていると強いな。


 ちなみに、ここで「正気に戻ったのですね」と言うと、殺されかねない。

 メルヴィスの地雷がどこにあるのか分からないので、迂闊なことも言えない。


「それでゴーランよ、なぜここにおる?」

「メルヴィス様に会いにきました。それと国に帰るため、迎えに……でしょうか」


「儂に会いに来た? そういえば、鎖についての調査を申し渡しておったな」


 そう、俺はメルヴィスから直接命令されている。

 勅命だ。


 メルヴィスが俺の夢の中……というか、魂のオーブの中にやってきて一度会った。

 そのとき俺は、メルヴィスの胸から生えている鎖に興味を持ってしまった。


 他の者には、その鎖が見えないらしい。


 俺が昏睡状態という眠りから覚めたあと、ファルネーゼ将軍に呼ばれて、メルヴィスに謁見することになったのだ。


 現実世界でも鎖が見えるか試すため。


 ということで夢で一度、実際に一度、俺はメルヴィスに会っている。

 個人的には、「遭っている」という言葉を使いたいくらいだ。


 それはいい。

 いま重要なのは、メルヴィスは俺の話を聞いてくれる体勢になったということだ。


「はい、俺は鎖について……そしてヤマト様についてお話をしようと思いまして、ここまでやってきました」


「鎖はいいとして、ヤマト様についてだと……?」

「そうです。俺はヤマト様に会いました」


「なんだと!?」


 天が崩壊したかと思うほど、この場の魔素が荒れ狂った。

 身体強化した俺の身体が、荒れ狂う魔素の余波だけで引き裂かれるかと思ったくらいだ。


「詳しく話してみよ」

「はい。すべてお話し致します」


 俺は語り出した……のだけど、魔素で威圧するのは止めてもらえませんかね。



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