表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
341/359

341

 敵が追ってくる。

 俺は逃げている。


 これではただの追いかけっこだ。

 だが、時折飛んでくる魔法弾を避けながらなので、なかなかヒヤヒヤな追いかけっこだったりする。


 コツは、見失わせないこと。

 俺の姿を見失うと、報告に戻られてしまう可能性がある。


「よし、ここでいいか……さあ、来い!」


 建物から離れた。

 もう激しく戦っても他の敵に気付かれることはないだろう。


 あとは殲滅するだけだ。

 一人でも逃すと厄介なことになる。そこだけ注意すればいい。


「能力半減した連中なんて、怖くねえぞ、ゴルァ!」


 逃げていた俺が向かっていったものだから、観念したと思ったのだろう。

 天界の住人たちは、無策で俺に突っ込んできた。


 戦いは激しいものになったが、ここは魔界だ。

 天界の住人はどう頑張ろうとも、不利は否めない。


 なるべく一対一になるようにして叩けば、そうそう後れを取ることもない。


 後半、逃走を始めた連中が出たが、もちろん追いかけて全員倒した。

 俺の完勝だ。そして他に敵影はなし。


 他の敵に気付かれないように倒せたが、あの建物にはまだまだ敵がいる。

 迂回して進むことにする。


 俺をあの場に置いて戻っていった連中がうらめしくなる。

 もう少し面倒を見てくれても良かったのでは無かろうか。




「……っと、見つかったか」


 といっても天界の住人ではない。

 魔界の偵察兵だから、おそらく大魔王ダールムの部下だろう。


 俺の姿を見て去って行ったようだし、どこかにダールム軍がいると思われる。

「さて、どうしようか……」


 悩みどころである。

 できれば会いたくないが、見つかった後で逃げるのもちょっと拙い。


 いまはうまく逃げ切れても、次に見つかったとき、自動的に敵認定されそうだ。

 いろいろ考えた結果、逃げないことに決めた。


 情報も欲しいし、この国がメルヴィスの国をどう思っているのか知りたいところでもある。


 しばらく待っていると、屈強な集団がやってきた。

 種族と装備が統一されているから、正規兵っぽい。


 少なくとも、そこらの村から出した兵ではなさそうだ。


「何者だ?」

 距離を取った状態で話しかけてきた。

 いきなり攻撃してこないのもいい。よく分かっている。


「俺はメルヴィスの国から来たゴーランだ。なぜ来たのか分かると思うが」

 俺は声を張り上げた。


 見たところ、相手は深淵しんえん族だと思う。

 深淵族は、精強な身体と鋭い目が特徴だ。


 彼らは腕一本で戦場を渡り歩くことが多く、あまり群れたりしない。

 それが一軍を形成しているのだから、なかなかどうして、大魔王ダールムは慕われているようだ。


「メルヴィス様を迎えにきたのか?」

「そうだ。その前にメルヴィス様が落ちついたのか知りたい」


 よかった。話が通じた。

 ファルネーゼ将軍曰く、メルヴィスは敵を殲滅するまで戦うのを止めないという。


 今回の場合、敵とは目に見える範囲にいる敵ではなく、天界からやってきた連中全般だろう。


 それを殲滅するまで戦いを止めないとすると、なかなか厳しい条件だ。

 現状、この国はどうなっているのか。


「分かった……ついてこい」


 俺を軍に案内してくれるようだ。少しは信用してくれたのか。

 ここでダールム兵との戦いを避けられたのは純粋に嬉しい。


 深淵族についていくと、大きな野営地についた。


 移動途中に聞いたところ、ダールム軍の目的も俺と同じだった。

 天界の住人を排除して、メルヴィスにお帰り願おうというもの。


 はやく厄介払いしたいらしい。

 さもありなん。


 俺の相手をしてくれたのは軍団長のひとり、ブーレイ。

 キツネっぽい外見の深淵族だ。


 俺とブーレイは、陣幕の中で情報交換をする。


「俺はファルネーゼ将軍からの命令で来ました。メルヴィス様が相手だと、数を揃えて迎えに行っても死ぬだけだからと……」

 そこから先は言わないが、「ひとりで大丈夫だよな」とばかりに四肢を掴まれて置いてけぼりにされた。


「なるほど。ファルネーゼ将軍か。名前は私も知っている。ヴァンパイア族だったな」

「そうです。他の将軍は、他国からの侵攻に備えて国境に張り付いています」


「大変だな」

 魔界全土に戦いが広がってしまったことはブーレイも承知しているため、説明は問題なかった。


 反対に、俺がブーレイの話を聞いて驚いた。

「天界の連中は、魔界の中心部に拠点を作り、そこから捜索範囲を広げていくつもりだったようだ」


 魔界の中心からはじめて、最終的には魔界全土へ手を広げるつもりだったらしい。

 驚きだ。予想以上の侵攻規模だった。


「えっと捜索範囲ですか? 占領の間違いでは?」

「いや、合っている。明らかに連中は捜し物をしている」


「そうなんですか」

 わざわざ捜し物のために、大挙して来たのか。御苦労なことだ。


「ダールム陛下が言うには、『唯一の成功例』を探しているのだとか」

「何ですか、その成功例とは?」


「私は教えてもらっていない。いや、陛下自身知らないのかもしれない」

「……?」


「探しているのは天界の連中だ。奴らが成功例というなら、ひとつしかないだろう。アイツらは年がら年中、実験を繰り返している」


「ということは、実験の成功例を探している?」


「そう考えるのが普通だ。もっとも堕天が多くいるこの国でも、それくらいしか予想できないくらい天界のことは何も分からない」

 だからそれが何であるのかすら、見当がつかないとブーレイは言った。


 天界の目的は『唯一の成功例』を探すことらしい。

 詳細は不明。


 巨大な聖気結界を魔界の中央に展開し、そこを拠点に捜索を始めたのが数日前。


 ただしこれは、運良く(天界にとっては運悪く)メルヴィスが結界内にいる状態で聖気結界発動してしまい、しばらくしてからメルヴィスによって破壊されている。


 中にいた天界の連中は全滅したらしい。

 確認しようにも、空と大地が酷いことになっているので、確認が取れないらしい。


 そして肝心のメルヴィスだが、いまは天界の拠点を潰して回っているらしい。

 周囲の地形ごと破壊し尽くしているのだとか。


 どうやらメルヴィスは本気モードらしく、近づくと敵も味方も塵にされる。

 事態を重く見たダールムは、国民を退避させる指示を出したという。


 ひと目でもメルヴィスの戦いを見た者は、この地に残ることはしないだろうと。

 どうりで、だれもいないと思った。


 ブーレイたちの軍だけでなく、周辺にいくつもの軍が展開していて、天界の住人を見つけ次第狩っているらしい。


 一体でも多く狩れば、それだけ早くメルヴィスがいなくなる。

 それを信じて。


 なんとも涙ぐましい努力ではなかろうか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ