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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
332/359

332

 その日、玉座で考え事をしていたメルヴィスは、ひとつの結論に至った。


 ――ヤマト様は人界にいる


 ヘラとヤマトの決戦後、一番に駆けつけたメルヴィスは、戦場で時空の歪みを発見した。

 そして戦場にヤマトの姿はない。


 メルヴィスは、あの歪みの中にヤマトが消えたのだと直感的に理解した。

 そして今日まで、その行方を捜し続けているのである。


「人界にいるって」

「人界にいるのかな」


 メルヴィスの呟きにジッケとマニーが反応した。


「でもどうやって行ったの?」

「そうだね、どうやって行ったの?」


「ねえ、どうやって?」

「どうやって?」


 ジッケとマニーの言葉にメルヴィスは首を横に振り「さてな」と呟いた。


 人界への行き方が分かっているならば、自分が真っ先に向かっている。

 そう言いたいようだ。


 ではなぜメルヴィスが、そう結論づけたのか。

 ヤマトの所在は、いまだ誰も確かめたことがない。


「ねえ、誰か来たよ」

「誰か来たね」


「殺す?」

「殺そう」


「やめなさい」

 メルヴィスは、物騒なことを呟く二人を制す。


 すでに何人も、メルヴィスに目通りできる者がこの二人によって殺されている。


 やってきたのは、伝令だった。

 他国からの書状を持っている。


「大魔王ダールム様より、書簡が届きました」

 伝令は震える声で伝える。


 怖いのだ。姿の見えない側近が何をするか。

 怖くて仕方ないのだ。


 伝令が差し出した手に書簡が握られている。

 メルヴィスが指を上に向けると、書簡は伝令の手を離れ、中空を漂ってメルヴィスの手に収まった。


 書簡に魔力を通すと外側が燃え上がり、中から一通の手紙が出てきた。


 ダールムは、メルヴィスの国の東にある国の大魔王だ。

 巨大な国を有し、大陸最強の名をほしいままにする存在である。


「……ふむ」

 手紙に目を通し、メルヴィスはしばらく悩むそぶりを見せる。

 伝令はおっかなびっくり退出している。


「何が書いてあるの?」

「何が書いてあるんだろうね」


 かなり長い間、メルヴィスは考え込んでいた。

 そしておもむろに立ち上がる。


「どうしたの?」

「どうしたのかな」


「ダールムの所へ行ってくる。留守を頼んだ」

 これにはジッケとマニーも驚いた。


 メルヴィスが玉座を離れるのは珍しい。

 最近はずっと考え事をしていた。


 メルヴィスは玉座の間を出て行く。決めたからには躊躇はない。そんな感じだ。

 止める間もなく、大きく開け放たれた窓から飛翔していった。


 直接ダールムの住む城まで向かうのだろう。

 行けばしばらくは戻ってこない。


「行っちゃったね」

「行っちゃった」


「大丈夫かな」

「大丈夫だね」


「問題ないか」

「問題ないよ」


 空の玉座の周囲で、そんな声が聞こえた。


          ○


 大魔王ダールムから来た手紙には、二つのことが書かれていた。


 ひとつは天界についての情報。

 もうひとつは魔界の動乱についてであった。


 書簡には簡単な報告が書かれていたが、詳しい内容を知りたければ会ったとき話すとあった。

 メルヴィスはしばし悩んだすえに、ダールムの元へ向かったのである。




 メルヴィスは空の高みを飛翔し続け、一度も休憩を取ることなくダールムの住む城に着いた。


「正面から入ろうと思わないのですか」

「無用なことをするつもりはない」


 ダールムはやれやれと首を振った。

 今日は玉座ではなく、もっと奥の執務室にいた。


 どうやらメルヴィスは、魔素からダールムの居場所を把握して、そこへ直接きたらしい。

 ある意味優秀過ぎるサーチ能力だが、こんなところで使わないで欲しいと思うダールムであった。


「やれやれ……待っていて欲しいと言っても聞かないでしょうし」

 ダールムは執務を途中で切り上げた。


「待つくらい出来るぞ」

「難しい問題ですね。それについての議論は避けましょう」

 隣でじっと待たれても、困るのだ。


 大魔王らしくない物言いだが、メルヴィスもダールムともに気にしない。

 二人は伴って執務室を出る。


「ひっ!?」

「えっ?」


 玉座の間に向かう途中で、出会った者がみな驚きの声をあげる。

 いつからいた? 顔がそう物語っている。


「さて……ヤマト様についてですよね」

 玉座の間に到着し、人払いを済ませたあとで、ダールムはおもむろに切り出した。


「新しい情報があったようだが」

「天界が騒がしいようです」


 ダールムは好んで堕天だてんした者を配下に加えている。

 それゆえダールムのもとには、多くの――しかも最新の情報が集まる。


 天界の情報を得るには、ダールムに聞けばよいと考えるほどに事情通なのだ。


「天界の住人は、周囲に関心を払わないのではないか?」

 研究のこと以外は二の次、三の次になる。メルヴィスはそう言いたいようだ。


「研究に影響が出ることには敏感なようですよ。……たとえば聖気の枯渇とか」

「ふむ」


「そして、『天界の使い』たちに影響が出始めているようです」

 天界には、「天界の使い」と呼ばれる者たちがいる。


 天界の住人よりも小柄で、多くの聖気を体内に取り込めないため、戦闘力もない。

 魔界でいうところの、非戦闘種族に近い。


 普段は天界の住人の研究助手や身の回りの世話をしている。


 周囲について関心がないのは一緒だが、天界の住人に比べて弱い個体が多いので、天界の変化に無関心ではいられないところもある。


 自力で魔界へ来ることは適わないため、堕天することはほとんどない。

 だがまれに天界の住人と一緒にやってくることもある。


 そのときは、通常よりも多くの情報が入ったりする。

 どうやら、ダールムは天界の使いから情報を得たらしい。



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