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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
330/359

330

 俺たちは勝手に参戦した。

 そのため、戦っている両軍が驚いたようだ。


 しかも俺たちがやってきた方角は魔王トラルザードの領地側。

 そこはいま、トラルザードへ進攻しているジャニウスとギドマンの両魔王軍が占拠している。


「なぜ味方から攻撃を受ける!?」

 そんな思いがあったのかもしれない。


 迎撃に出ていたヴァンパイア族の軍もまた驚いたようだ。

 何しろ、どこからともなく味方が現れたのだから。


 まさかトラルザード領まで入って大回りするような部隊があるとは考えてなかっただろうし、敵が現れるならばまだしも、なぜ味方が現れたのか、理解できなかったようだ。


 それでも同国の者は支配のオーブで仲間かどうかの見分けがつく。

 すぐに状況を理解し、総攻撃に出た。


「ヒャッハー!」

 俺もゴキゲンだ。

 右へ左へと存分に六角棍を振るい、気がつけば屍の山の中に立っていた。


 側面からの挟撃は成功。

 あとは敵のボスを倒すだけだ。


 俺はこの軍の大将を探して、戦場を徘徊した。

「見つけたぜ。てめえか!」


 強者がいる一角にそれはいた。

 ただの上位種族ならば、泣いて逃げ出すくらいの威圧感があった。


 向こうも俺を強敵と感じ取ったのか、周囲の者を押しのけて出てきた。


 そいつの足は八本。蜘蛛型だが、上に人が乗っている。

 アルケニー族のように見えるが、進化種。しかも特殊進化しているようだ。


 全身に斑点があり、強力な毒を持っていそうな外見をしている。

 背は俺の倍くらい。蜘蛛の部分で、背丈が加算されている感じだ。


 足が八本あるにもかかわらず、手が四本もある。

 ありすぎだろ。


 二本の腕で盾を持ち、残りの二本で槍を構えている。

 攻防とも自信がありそうだ。


 さて蜘蛛足なんか普通は弱点に思えるが、鎧のように固くなっている。

 普通に打ったら、弾かれそうだ。


「さすがに簡単に倒せそうには見えないな」

 アルケニー族ならば、糸で拘束してくるかもしれない。


 慎重に戦うのもいいが、糸や毒を吐くならば、距離を取るだけ不利になる。

「いくぜ!」

 俺は躍りかかった。




 結論から言うと、俺は勝った。

 魔素を身体に巡らせたあと、六角棍でガンガンと押す。


 近づいたら『魔素吸収』で少しずつ相手を弱体化させていく。

 その繰り返しで勝ちを拾った。


 二時間くらい戦っていたので疲れた。だが、他に怪我はない。

「……あれだな、魔素吸収がチートなんだな」


 戦っている間に相手の魔素を取りこむことで自身を回復させる。

 相手が強大であればあるほど一度に多くの魔素を吸収できるし、それを繰り返せば魔素量差だってひっくり返せる。


 ヤマトが小覇王になったのも頷ける技だ。


 今回は相手の魔素がかなり多かったため時間がかかったが、この戦いに慣れてきた俺に死角はない……気がする。

 特殊技能が凄いだけで、俺が凄いわけではないので慢心しないが。


「相手が初見で戸惑ったのも大きいんだろうな……サイファ、そっちはどうだ?」

「見ての通りだぜ」


 俺が敵の大将と戦っているとき、サイファが戦場にやってきた。

 副官を相手に戦ってくれたが、どうやらサイファの相手は、原形を留めてないらしい。


 サイファは膂力に任せた無茶な戦いをする。

 いや、無茶な戦いは俺も一緒か。


 とすると俺とサイファは似たもの同士? いや、さすがに馬鹿兄妹と一緒になりたくはない。


「ねえ、ゴーラン。向こうから飛んできたよ~」

 ベッカの声に空を見上げると、ヴァンパイア族が何体かこちらにやってくるところだった。


 大将戦は激しい戦闘だったので、俺の部下はもとより、もともと戦っていたヴァンパイア族も避難していたのだ。




 やってきたヴァンパイア族には見覚えがあった。

 ファルネーゼ将軍の副官を勤めているアタラスシアだ。


 たしかそんな名前だった気がする。

「あれ?ファルネーゼ将軍は来ないのか」

 飛んでくる中にいない。


 そういえば軍の中にもいなかった。

 アタラスシアとは以前、キョウカを討つときにともに作戦行動したことがある。


 俺が囮になったときだ。うん、懐かしい。

 やってきたヴァンパイア族は三体。その中にファルネーゼ将軍はいなかった。


 アタラスシアとは互いに見知った間柄なので、簡単な挨拶だけで済んだ。

 といっても、俺の魔素量が増えたことを酷く驚いていた。


「魔素量でファルネーゼ将軍を超えたのでは?」と言われたので、「そうかもしれません」と答えておいた。


 いま俺はファルネーゼ将軍の部下だが、魔素が越えていれば下克上が発生するかもしれない。

 アタラスシアはそれを危惧しているようだ。


 俺としては、別にだれの部下だろうが、上司になろうが関係ないのだが、ほとんどの魔界の住人はその辺を気にする。


「ファルネーゼ将軍はどうしたんです?」


「将軍は城にいる。メルヴィス様が東へ出かけてしまったため、城を守る者が不足しているのだ」


 俺たちは長い間トラルザード領にいたため、最近の情勢についてはよく分からない。


 どうやらメルヴィスは、ヤマトの手がかりを探しに、大魔王と組んで何かをやっているらしい。

 そのため、東へ行ったっきりだとか。


 そしていま攻めてきた軍だが、魔王ギドマンの配下らしい。


「魔王ギドマン? ずいぶんと領地が離れているようですけど」

「そうだが、魔王ギドマンの軍で間違いないだろう。勢力拡大を狙っているようだ」


「?」

 魔王クラスが勢力拡大って、何の冗談かと思ったら、トラルザード戦を想定しているらしい。


簡単にいうと、トラルザードが魔王リーガードを倒した情報はかなりの速さで伝わったという。


 魔王トラルザードは、最も大魔王に近い者。

 すでにそう思われているようだ。


「古参のリーガードを倒したのだから、そう思われても仕方ないでしょうね」


「魔王ギドマンと魔王ジャニウスは手を組んだが、それだけでは心許ないと思ったのだろう。魔王ギドマンの軍がわが国に攻めてきた」


 ファルネーゼ将軍は城におり、一番近いエルスタビアの町を守っていたアタラスシアが軍を率いて迎撃に出たのだという。


 城に連絡を出したので、そのうち将軍が軍を率いてやってくるらしい。

 あいかわらずこの国は人材が少ない。行ったり来たりだ。


 メルヴィスがその辺、まったく気にしないからだろうけど、上が少ないのだ。

「なかなか大変そうですね」

 ファルネーゼ将軍がだけど。


「いやもう、他人事ではないと思うがな」

 そういえばそうかもしれない。



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