表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
33/359

033

 村に帰ってきた。

 家に入ったが、出迎える家族はいない。


 みな外で働いているようだ。

 俺は部屋に隠してあった酒瓶を掴んで、そのまま口をつけた。


「一仕事終えたあとの酒は美味いな。五臓六腑に染み渡るわ」


 祭りのときは飲めなかったし、その後は死神族のあれやこれやで機会を失っていたが、ここでようやく呑むことができた。


 オーガ族のこの身体は人間と違って、アルコールの分解が早い。

 酔いが回る前にすぐに分解されてしまうので、同族の連中は、無茶苦茶蒸留したものを好んでいる。


 そんなものはただのアルコールと同じで、味なんてあったものじゃない。

 見ているそばからアルコールが揮発していくじゃないかと思うほど酒精が濃い。

 あれはオーガ族のような脳筋専用の酒なのだと思う。


 俺はどちらかというと味を楽しむ方なので、普通に出回っているものを呑んでいる。


「ゴーラン、いるか?」

 これからというときに、うるさいのが来た。


「いるぞ」

 答えて立ち上がる。

 玄関口まで出迎えると、駄兄が立っていた。


「いま戻ってきたとこなんだが、どうした?」

「死神族の……なんだっけ? ルナ? ルリ?」


「ルマな。また来たのか?」

「ああ、結果を知りたいって、オレんとこにやってきた」


 俺が村に帰ってきたのはついさっきだ。

 タイミングが良すぎるから、どこかで見張っていたな。


「……分かったすぐに用意する」

 酒瓶を振ると、半分くらい入っている水音がする。

 帰るまでお預けらしい。




 前回と同じ場所に同じ人物。死神族のルマだ。


「これはゴーラン様、お早いお帰りでございました」

「ああ、行って帰ってきただけだが、少々疲れたよ」


「それはそれは……それでいかがだったでしょうか」

 声が硬い。ということは軍団長と話した内容を知らないのだろう。


 俺の後を付いていたわけではなさそうだ。

 村の入口でも張っていた感じか。死神族もレイス族と同じく、半透明になると視認しづらいからな。


「問題はあったが、受け入れは認めてもらえた」

「おお、それはよかったです。我が一族を代表しまして、お礼を申し上げます」


「ただし、小魔王ファーラとこの先敵対することになる。この意味は分かるよな」

「はい」


「このままではファーラは魔王になる……可能性が高い。死神族を受け入れる交換条件として、それを阻止するか、この国が併呑されない何らかの策を示すように言われた」


「戦えというのでしたら一族をあげて戦いましょう。ですが……」

「そうだな。死神族がいたところで趨勢すうせいは変わらねえ。それができるなら、元の国だって滅ばなかっただろうし」


「その通りでございます」

「いまこの国は、小魔王レニノスの国と争っている。レニノスではファーラに対抗しきれないというのが俺の上司、ネヒョル軍団長の見立てだ。だからこそ打開策が必要だと言っていた」


「難しい話だと思います」

「それでもやらねばならない。そのことだけは覚えておいてくれ。何をするにでも、協力を頼むことになりそうだ」


「分かりました。我が一族の誇りにかけてお手伝いいたします」


「……難しい話はここまでにして、契約をしておこう。一族はどこにいるんだ?」

「山間部に分散して住んでおります。明朝には全員に連絡がつくかと思います」


「分かった。それで五百人といったよな。どこに住むつもりだ? 新しく村を造ることになりそうだが」


「我らはあまり日の当たらない場所を好みますので、ここよりしばらく進んだ先にあります大地の裂け目。その下に居を構えようと考えております」


 ここからしばらく行った崖の下だな。谷になっているところだ。


「危険なところだが、大丈夫か?」

「問題ありません」

 問題ないらしい。さすが死神族だ。深く聞くのは止めておこう。


 翌日になると、本当に死神族全員がこの村にやってきた。


 みな色白……を通り越して死人みたいな顔色をしている。

 共通のローブを纏っているが、背の高さはみなバラバラだ。


 全員がほっそりしていて顔の区別が付きにくい。男女比はほぼ半々といったところか。

 敵意はないようだが、用心して村の外で会うことにした。


 なのに、どこでどうばれたのか、村の者たちが大勢やってきた。

 俺が仲間になる連中だと説明すると納得して去って行った。


「よし、邪魔者はいなくなったな。契約を交わすぞ」

「はい」


 支配のオーブによる契約は、相互の同意があってはじめて成立するが、まだ何も契約していない状態の場合、上の者が一時的に仮契約することも可能となっている。


 死神族が力を差し出す。

 俺が受け取る側なので待っていると、次々とほんわりとした魔素の塊が飛んできた。

 それをすべて取り込む。


 合計で五百二十一名分。

 各人からほんの少しずつ力を分けて貰っただけなのだが、増加した魔素量はかなりのものだった。


「そういえば、死神族はオーガ族に比べてかなり高位だったよな」

 今更だが、いいのかこの契約で?


 そう思って聞いたら、全員が「満足です」と答えたので、いいことにした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ