表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
329/359

329

 戦いには勝ったが、ここに居座るつもりはない。

 というか、とっとと逃げ出すことにする。


「敵の追撃部隊が戻ってくる前に、ここを脱出するぞ」

 リグたちと合流して、この国ともオサラバだ。


 そもそも俺は、ただ自分の国に帰りたいだけなのだ。


 だが、小魔王メルヴィス、魔王ジャニウス、魔王トラルザードの三国は、互いに領土を接している。

 地理的条件によって、ジャニウス軍が攻め込むとき、どうしても俺の帰り道を塞いでしまう。


「そこにいるんだもの、倒したっていいじゃない」

 そんな事を言った人がいたとかいないとか……たぶん、いない。


 奴らが帰り道を塞ぐから、蹴散らしたのだ。俺は悪くない。

 だが、ここで考えてほしい。


 俺たちはメルヴィスの国の部隊だ。

 魔界がこんな状況になったとして、勝手に戦争をはじめていいわけがない。いいのかな? よさそうな気もするが、まあ、それはいい。


 大っぴらに言うことではない。

 だからバレないうちに逃げ出したというわけだ。


 追撃していった部隊が戻ってきたとしよう。

 大将がやられたのを見れば、こう考えるはずだ。


「おのれ、トラルザード軍め。奴らは秘かに別働隊を動かしていたのか!」

 そう思ってもらいたい。俺たちは関係ないのだ。


「急げ! 見つからないうちに国境を越えるぞ」

 と言うわけで俺たちはいま、国境に向かって撤退中である。


 メルヴィスの国は小さい。ジャニウスの国の十数分の一くらいか?

 国に帰るルートが限られている手前、他の軍と遭遇したくない。


 日が沈んだので、林の中に入って野営をする。


「ゴーラン様、明日の夜には国境を越えられそうです」

「そうか、なら明日は朝一で進む」


 少しでも早く国境を越えたい。

 とにかく俺たちがいまいる場所は危険だ。


 ジャニウスからの増援や、本国へ戻る伝令もこの道を通るかもしれない。

 一応、進攻ラインから外れているとは思うが、軍の動きはセオリー通りとはいかないもの。


 相手に作戦を読まれないため、わざと遠回りとなる進軍ルートを使うことも考えられる。


「早く寝ろ、明日は早いぞ」

 見張りだけ残して、俺たちは就寝した。

 明日は国境を越える。それだけを夢見て。




「なあ、リグ。あれは何なんだと思う?」

「戦っていますね。それ以上はちょっと分かりません」


 翌日の夜、俺たちは無事国境を越えた。

 道中、一度も敵軍と遭遇することもなかった。


 国境を越えてからは歩を緩めて、疲れを取りながら進んだ。

 気分はずっと楽になった。


 トラルザード領で戦った時に怪我をした者も出たし、ここでまとまった休憩をとってもいいと思ったくらいだ。


 斥候も最小限にして、野営の時だけ周囲を探索する程度に留めておいた。

 日中の斥候は特に出していない。


 もう自国領内に入ったので、過度に警戒する必要がなくなった。

 そう思ったのだが……なぜか戦いの場に遭遇してしまった。


 もしかして、俺たちの国も攻められている?


 山を越えて、さあ下りるぞと思ったところ、麓の方から声が聞こえた。

 そっと進んで先を覗いてみると、戦いが始まっていた感じだ。


 ここは自国領内なので、片方は自軍だろう。

 もう片方はどこの国だろうか。


「どこの部隊が戦っているか分かるか?」

「遠いので、まったく判別できません。飛鷲ひじゅう族を斥候に出しますか?」


「いや、飛び上がると、敵味方に察知されるから止そう。片方が敵だろうし、いっそのこと横合いから参戦するか?」

 どの国の軍か分からないが、俺たちの国に攻撃を仕掛けて来たのだから敵確定だ。


「そうですね。こちら側からの進軍は想定していないでしょうし、奇襲にはなると思います」

「だったら、敵がどこかは、蹴散らしてから考えよう。リグ、戦闘の準備をさせてくれ」


「分かりました。では私どもはこの場に留まります」

 リグが去って行った。


 しかし意外だ。

 メルヴィスが目を覚ましたいま、この国にちょっかいをかける国があるとは思わなかった。

 完全に安心していたわ。


「さすが魔界。メルヴィス相手に攻め込むか。舐めてたわ、魔界」


 トラルザードがぷるぷる震える相手だぞ。

 そんな国によく攻め込むな。


 ビックリしていても始まらない。

 戦術は前回と同じだ。気付かれるまで静かに進み、そこから一気になだれ込む。


 オーガ族の群れに細かい戦略は無意味。

 突っ込ませれば、それで仕事をはじめる奴らだ。

 俺はその環境を整えてさえやればいい。


「ようし、準備はできたか!」

「「うぇーっす!」」


「今回は林の間を進むぞ。とにかく俺に続け」

「「うぇーっす!」」


 いい返事? が返ってきた。

 分かっているんだか、分かっていないんだか不安だが、返事だけはいい。


 この辺はいつもの事なので、深く考えないことにする。

 リグたち非戦闘種族と別れた。


 そして俺を先頭に、林の中をそろそろと進む。


 木々の隙間から戦っている連中の姿が見えた。


「……なるほど、ヴァンパイア族が中心の部隊か。何人か見覚えあるぞ」

 片方の軍には、見覚えがあった。


 ファルネーゼ将軍のところにいた者たちだ。

 ということは、それと戦っている連中が敵だ。


「ここから近づいて一気に敵の横陣に食らいつく。中に入ったら、周り全部が敵と思え! すべて蹴散らせ」

「「うぇーっす!!」」


「行くぞ!」

 俺は駆け出した。


 俺の後ろからオーガ族とハイオーガ族の集団がついてくる。

 魔法にはからきし弱い奴らだが、こうやって奇襲で襲いかかる分には最適な奴らだ。


 なにしろ、足が止まらない。

 強靱な肉体を持つので、そんじょそこらの柵なんてものともしない。


 そして得意の乱戦になったらもう魔法は撃てない。

 誤射しないほど近くまで寄れば撃てるだろうが、そんなことをする魔法職はいない。


 つまり、おのずとオーガ族の独壇場になるわけだ。

「蹴散らせ! 蹴散らせ! 食い破れ!」


 俺は乱戦向きの武器――六角棍を振り回しながら、単騎で敵陣に飛び込んだ。


「ヒャッハー!」

 つい、声が漏れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もう完全に染まったなw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ