表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
328/359

328

 俺の踏み込みで、大地が抉れた。

 一歩踏み出すたびに、放射線上のヒビが走る。


 最大に身体強化をかけると、魔界の硬い大地ですら、おから(・・・)のように崩れてしまう。


 敵大将の右腕は、肩から先がない。

 引きちぎられたようにギザギザの断面を晒している。


「弱点を攻めるのは、プロレスの鉄則だぜ!」

 言ったところで、意味は分からないだろうが、俺はそう言い放った。

 別にプロレスをやりたいわけじゃない。どこを攻めるか、自分で確認したかっただけだ。


 敵もまさか新たな一団が本陣を襲撃してくるとは思わなかったのだろう。

 好都合なことに、敵大将の他にはだれもいない。


 普段ならば、十重二十重に守られた中にいるのだが、今は違う。

 存分にやり合えるわけだ。


 ちなみに相手が連戦だとか、手負いだとかは関係ない。

 フェアプレイ精神は持ち合わせてないし、スポーツマンシップはクソ喰らえだ。


 俺は相手の右手側に回り込み、対応が遅れたところへ、六角棍を打ち込んだ。


 武器に魔素を乗せまくったからか、俺が連撃するたび、相手が押されていく。

「前の戦いが接戦だったようだな」


 ダメージ回復が間に合っていない。

「マサカ、新手ガ来ルトハ」


 敵大将が、口から血の泡を吐きながら喋っている。新手とは俺たちのことだろう。

 しかし、喋るだけで口から泡を飛ばすとは、この分なら内臓にもダメージがいってそうだ。


「だったら、俺の帰り道を塞ぐんじゃねえ!」

 国に帰らせろ!


 ちょうどいいので、俺は肩口と腹部を重点的に攻める。

 怪我した場所を庇っているので、攻勢に出られないでいるようだ。


 それに俺の一撃を受けて、十メートル以上吹っ飛んでいる。

 もう、天幕も衝立も何もかもが原形を留めていない。

 生えていた大木すら、中折れしている。


「――うおっと!」


 ただ、向こうもやられてばかりではない。

 思ったとおり、瞬発力を生かしてこっちを撹乱してきた。


 見失うと、横や後ろから襲い掛かってくるのだ。

 動きが速すぎて、視線を切るともうヤバい。

 だから戦闘中は気が抜けない。


 戦うたびに戦場が移動し、その都度、周囲の敵が吹っ飛んでいく。

 邪魔だし、避ける暇がないのだ。


 ヤワな連中など、俺たちの攻撃が擦っただけで破裂する。

 それだけ互いに魔素を乗せ合い、確実にダメージを与える威力の攻撃を放っていることになる。


「……しつこいな」


 万全な状態で戦いを挑んだものの、所持した魔素を半分ほどに減らされた。

 敵の攻撃力は、ヤマトに比べれば大したことはない。


 といっても、少しは耐えられるという意味であり、ヤマトと違って、直撃しても一発で昇天しないというだけの話だ。


 敵は速度特化型であり、攻撃力は俺より少し上。

 決して楽観できる強さではない。


 それにこっちがいくら攻撃しても、素早い動きで致命傷を避けてくる。

 厄介な足を持っている。そのため戦いが長引いているのだ。


「このままじゃ、埒があかないな」

 相手の特殊能力はいくつか分かった。


 怖いのは、すれ違いざまに放ってくるゼロディレイの攻撃だ。

 最初喰らったとき、何をされたのか分からなかった。


 一切の予備動作を排除し、途中すら省く勢いで、攻撃を俺に届かせる。

 言うなれば、一瞬の攻撃だ。


 特殊能力を発動中は、すれ違ったときに自動で攻撃している感じだろうか。

 厄介この上ない。さっきから一度も防げずにいる。


(だからそれを利用させてもらうぜ)


 わざと六角棍を大きく振り回し、隙を作る。

 敵がそれを受け、ダッシュで俺の横をすり抜けようとしたとき……。


「どうだ、魔素を抜かれた気分は?」

 反対に、俺の特殊能力『魔素吸収』で奪ってやった。


 反応速度の化け物みたいな奴なので、同じ技を二度は食らわないだろう。

 だが一度見せれば十分。警戒して、ゼロディレイの攻撃を仕掛けてこなくなる。


「……んじゃ、次の技だな」

「……?」


 敵がいぶかしげに俺を見た。

 どう考えても、さっきまで俺は劣勢だった。


 技を温存するなら、なぜもっと早く使わないのかと思ったのだろう。

 なんかもう感覚が麻痺しているが、これくらいのピンチは俺にとってピンチでもなんでもなかったりする。


 いつものこと過ぎるのだ。


 というわけで俺は、六角棍に気を溜め込み始めた。

 魔素ではなく気だ。俺の魂が持つ俺だけが使える技――気の攻撃。


 人の魂が、魔界の住人の器に入っているのだからおもしろい。

 それによって、魔界版の発勁が使えるのである。


 六角棍に人気じんきが集まりだす。

 と言っても、純粋な人気ではない。


 しっかりと魔素も練り込んである。

 効果は発勁、威力は魔素依存。それが俺の使う気の攻撃だ。


「うおりゃ!」

 敵も本能で危険を察したのだろう。


 渾身の一撃を左腕で払った。


 ――パーン


 払った左腕が破裂した。


「…………」

「…………」


 両腕を失った敵は、「どうすればいいの?」とでもいうような、困惑した表情を浮かべた。


「すまんな、すぐに終わらせる」


 ここからの逆転は不可能だろう。

 いかに素早い足があっても意味は無い。


 あとはどう戦いを終わらせるかだ。

 俺は手を抜かず、慎重にことを運んで、敵に止めを刺した。


「……終わったな」


 俺と敵の大将が戦った跡は、酷いありさまだ。

 途中からだれも近寄ってこなかった。


 それまで不運な敵が何体も吹っ飛んでいたので、そのせいもあっただろう。

 俺たちが暴れたことで、周囲にあったものはすべて破壊された。


 それによって敵も味方も注目し、戦いはとても目立っていた。

 どういうことかというと……。


「ゴーラン、敵が逃げ出しているよ~」

 ベッカの方も終わったらしい。無事ということは勝ったようだ。


「大将がやられて逃げたな。残って戦う意味はないだろうし、順当だ」

 どうせここは戦場の端だ。

 しかも大将は俺が撃破し、側近はベッカが……一応聞いておこう。


「なあ、ベッカ。そっちの戦いだけど、勝ったよな」

「たぶん勝ったよ~」


「たぶん?」

 なぜ他人事なんだ?


「いっぱい骨を折ったら、立てなくなっちゃったから、そのまま折り続けただけだし~」

「それ、何本折ったんだ?」


「ん~、数えられないくらい?」

「…………」


 全身の骨を折ったな。それではもう、生きていまい。

 生きていても、苦しいだけだと思うし、死んだことにしよう。


 なんかこうサイファだけなく、ベッカも大概に育ったな。


「よし、じゃあ部下をまとめて逃げるぞ」

「どうして~?」


「追撃部隊が帰ってくるだろ。また戦ってられるか!」

 俺は平和主義者なんだ。必要以上の戦いはしたくない。


 敵が逃げたので、戦場に残っているのは俺たちだけだ。

 すぐさまリグたちと合流して、俺たちもとっとと戦場を後にした。


 あとのことは、もう知らん。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ