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敵の本陣を見つけてしまった。
というか、俺たちの進む先に堂々と布陣している。
こそこそ逃げてもどうせ気付かれる。
ここは先手を取って、いっきに行った方がいいだろう。
幸い、敵の目は西に向いている。
そしてここが重要だ。本陣にいる敵の数も多くは無い。
「逃げた兵を追っているのか?」
可能性はある。
戦闘が終わったのも半日前かそこいらだろう。
もしそうならば、俺たちにとってかなり都合がいい。
まず、敵の目が西に向いている。そして本陣の防御壁は壊されて役に立っていない。
敵は疲弊しており、怪我した者もかなり見える。
傷の手当が終わってないのもいい。
戦闘はかなり大規模に行われていた。
死体が放置されていることから、戦闘終了後間もないことも分かる。
敵は勝ったとはいえ、被害は甚大。
おそらくだが、負けたトラルザード軍は、大将が殺られたのだろう。
それで味方は戦意喪失。撤退したように思う。
この戦乱跡から察するに、軍団長か将軍クラスがまとめていた規模だと思う。
小魔王クラスが率いていたことになる。
それでも負けて、撤退に追い込まれた。つまり、敵陣には強敵がいる。
「……でも、負ける気がしないんだよなあ」
なぜだろう。
「へへっ、準備してきたぜ」
「楽しみだね~」
馬鹿兄妹がやってきた。
この二人には、非戦闘種族を後方に切り離すよう伝えたが、それが終わったようだ。
「よし、こっちに来い。作戦を伝える。気付かれるまでそっと近づき、気付かれた時点で全速力だ。俺が先陣を切るから、サイファは部隊を誘導してくれ」
今回の作戦は、オーガ族の大好きな突撃だ。
一番効力を発揮できる戦法ともいう。
「突撃だな、任せろ!」
「ベッカは、魔法部隊を守ってほしい。魔法弾は俺たちが気付かれた時点で、本陣に打ち込んでくれればいい。右と左に半分ずつだ。あとは分かるな?」
「やってきた敵を全員骨抜きにしちゃえばいいんだよね~」
「その通りだ」
折った骨を引っこ抜くくらい、ベッカならば朝飯前だ。
これで簡単な作戦はできあがった。今回は時間勝負だから、これでいい。
「いくぞ! 全員俺についてこい!」
無言で俺たちは進んだ。
敵本陣まで二キロメートルないくらい。
障害物がいくつかあり、いまだ気付かれていない。
残り半分に縮まったとき、空中で旋回していた敵が気付いた。
ギャーギャー騒ぎはじめたので、何事かと本陣が慌ただしくなる。
「よし、ここからは全速力だ」
言い終わるよりも早く、俺は駆け出した。
素盞鳴尊に進化してからというもの、魔素を巡らせる身体強化はかなりのものになった。
ヤマトと戦って得た知識――部分身体強化で、その技量はもっと高まった。
残りの距離を一気に詰めて、腰に佩いた深海竜の太刀を一閃させた。
俺に気付いて槍を掲げた敵を一刀のもとに斬り伏せ、その場で数人を血祭りにあげる。
「……あっけない」
突破口ができたので、サイファならばここから余裕で突入するだろう。
俺は太刀を振り回しながら、本陣奥深くへ斬り込んで行く。
太刀を振るごとに敵の首が飛ぶ。面白いように飛ぶ。
この辺りはまだ本陣の外周であり、強い者は出てきていない。
――ひゅ~~~ん
すぐに着弾音が聞こえてきた。
魔法弾の援護が始まったということは、全面的な戦いに突入したことを意味する。
俺たちが本陣の中央に斬り込み、左右は魔法で足止めした感じだ。
敵が迎撃態勢を整える前に、ボス格を一体でも多く倒しておきたい。
「ボスはどこだ?」
陣の中は木のついたてが多くあり、視界が塞がれる。
見えた敵は全員斬ったが、強敵と呼べる者には出会えてなかった。
やみくもに突入し過ぎたかと、やや後悔していると、後方からいつもの声が聞こえてきた。
「ヒャッハー、皆殺しだ!」
「ヒャッハー、生きて帰すな!」
「ヒャッハー、全滅させるまで俺たちは止まらねえぜ!」
頼もしい連中だ。
俺は足を止めて、戦場の音を拾った。
破砕音と打撃音とヒャッハーが交互に聞こえてくる。
「あいつらも、成長したからな」
実はここまでの移動中に知ったのだが、オーガ族のヒャッハー集団の半数以上が、ハイオーガ族に進化していた。
ハイオーガ族になると、魔素量が爆発的に増え、力も数倍になる。
もうオーガ族の集団なんだか、ハイオーガ族の集団なんだか分からなくなってきている。
どうやら、ワイルドハントと戦ったことで成り上がったらしい。
これまで訓練や戦闘経験、倒した敵から得た魔素などから条件をクリアしつつあったのだろう。
オーガ族の進化条件はすでに分かっている。
上位者を倒すことだ。
自分より上位の者を繰り返し倒せば進化に至れる。
ワイルドハント戦は格好の餌場だっただろう。
あのとき、全員がオーガ族より上位の存在だった。
そんな連中とガチでやりあったのが、ウチのヒャッハー集団なのだ。
あんな戦いをすれば、普通は死ぬ。
部隊まるごと全滅する。
そうならずに生き抜いたからこそ、奴らは集団で進化した。
奴らが進化したあと、どうなったか。
「あの集団でかかられたら、俺もヤバいぜ」とはサイファの弁。
サイファのように特殊進化してすら脅威に感じるのがハイオーガ族の集団だ。
それが襲いかかっているのだ。破壊力は推して知るべしだろう。
後ろはサイファが率いているので安心できる。
俺は俺でボスを探せばいい。
目に付く敵を斬り捨てながら徘徊することしばし。
ようやく手応えのある連中を見つけた。
その方角に向かって行ったら、上位種族が集まっていた。
魔素を詳しく見極められる今ならば分かる。
固まっている連中は、魔素量でいえばファルネーゼ将軍クラスだ。
「んじゃ、行きますかね」
これまで部分的にしか身体強化していなかった。
それで十分だったからだ。
つまり、本番は今から。
俺は全身に魔素を巡らせて、奴らの前に躍り出た。
「ようやく歯ごたえがありそうな連中を見つけたんだ。楽しませてくれよ」
歯をむき出して笑う俺を、敵は憎々しげに睨みつけてきた。




