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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
324/359

324

 戦いはどこで行われるか。

 だいたいが、街道近くの平原である。

 そこが一番ぶつかりやすい。


 道が無くても、大軍が移動できる草原や丘があれば、そこでもいい。


 そして戦場は生き物である。

 時が経つにそれは大きく変容し、場所を変えて、ときに膨れあがる。


 つまり、何が言いたいかというと、いくら戦場を避けようにも、街道を通れば戦場にぶつかり、迂回しようとしてもまた、戦場に遭遇することになる。


「……あー、こっちも駄目だったか」

 俺が選択した道はすべて、トラルザード軍が通過した跡があった。


 自国へ通じる道は限られている。

 選択肢はそう多くなく、これもアタリ(・・・)だったらしい。


「野営跡がありますね。しかも埃がつもっていません。まだ新しいです」

「ああ……このまま進めば、トラルザード軍と出会うだろうな。その先には……」


「ジャニウス軍かギドマン軍がいると思います」

「だよなぁ」


 ただでさえトラルザード軍は不利。そもそも二国対一国の戦いだ。

 しかも魔王リーガードを滅ぼしたトラルザードは、南の軍をそのままにしている。


 北に回す兵は少ない。戦線を維持しているだけだ。

 兵を徒に遊ばせるわけがない。


 この道にトラルザード軍が派遣されたということは、敵軍がこっちに来ていることになる。


「いっそのこと、小魔王ルバンガの国に入ってから北上してはどうでしょうか」

 以前、メルヴィスの国にちょっかいをかけてきた小魔王国群を通過してはどうかとリグは言った。


「あの地はもっと混沌としているって聞いたぞ」

「ええ、メルヴィス様が統治しておりませんので、小魔王が死んでぐちゃぐちゃになったと聞いています」


「そんなところを通ったら、おちおち昼寝もできないだろ?」

「魔王軍と遭遇するよりもマシかと思いますが」


「うーん……」

 どっちがマシかと言われれば、迂回した敵の方が統制がとれてない分、マシか?

 ただそういう連中を相手にするのは、精神的にキツい。


 いつ襲われるかも分からないし、どこにいるのかも分からない。

 軍という枷がない分、始末におえない可能性もある。


「よし、いよいよ駄目なら東に進もう。とりあえず道なりに行こうか」

「分かりました」


 トラルザードの城を出てから数日経った。

 いま俺たちは、ずっと北上中だ。

 もう少ししたら東よりに進路を取り、メルヴィスの国を目指すことになる。


 うまくすれば、戦場にぶつからずに抜けられるが、そうそううまくいくものではない。

 侵攻してくる敵側は、たいていの場合、地理に不案内だ。


 そこで活躍するのが飛行能力を備えた種族たちである。


 戦闘種族、非戦闘種族とわず、飛行能力を持つ者はそれなりにいる。

 制空権さえ取っていれば、偵察し放題になる。


 そして今回、数は敵の方が多い。

 ほぼ間違いなく、空からの監視があると考えてよい。


 彼らはいま対峙している軍だけでなく、援軍をも警戒している。

 そして、俺たちの集団が援軍に見えるだろう。


 戦っている横を黙って通過しようと思っても、おそらく無理だろう。


「リグ、警戒しながら進む」

「分かりました。防御陣形を取りつつ進みましょう」


 今まではただ列をなして歩いていただけだ。

 戦場が近くにありそうなので、そろそろ無防備はヤバい。


 非戦闘種族や魔法を撃つ種族を中に入れて、周囲を肉壁……オーガ族で囲った。

 さっきまでは最後尾にサイファとベッカを配置していたが、これを両翼に入れ替えた。


 もし襲撃があるならば、横っ腹をついてくる可能性が高いからだ。

 そしてヴァンパイア族を空に放ち、情報を集めながら進む。


 早く国に帰りたいが、安全が第一。

「ここは我慢だ」と自分に言い聞かせながら進んだが、どうやらその我慢は無駄になったようだ。


「トラルザード軍が破れたか」


 斥候の報告では、先の平原で戦いが行われたらしく、敵軍がそこに陣取っているらしい。

 そして本来いるはずのトラルザード軍の姿が見えない。


 トラルザード軍は戦って負けて、散り散りに逃げたようだ。

「逃げたといっても、こっちには来なかったな」


「ここはどちらかというと、東寄りですから、西へ向かったのだと思います」

「ああ、そういうことか。敵は北東から制圧してきているんだな」


 トラルザード領の北にジャニウス領があるが、それはどちらかというと北東、つまり東寄りにある。

 魔王ジャニウスが後顧の憂いなく侵攻するためには、北東を拠点として攻めた方がいい。


「ゴーラン様。わが国へ至る道は、すべて塞がれていることになりますが」

「当然そうなるな」


 北東を占拠されのたら、間違いなくどの道を通っても、敵軍とぶつかる。


「いかが致します?」


「方法は三つだな。一つはこのまま戻る」

 戦わずにトラルザードの城へ逃げ帰るわけだ。


「さすがにそれはどうかと思いますが」

 リグは苦笑している。


「そうだよな。ということは実質二つだ。このまま突っ切るか、迂回して東の国に入るか」


 このまま東へは移動できない。

 真東には、小魔王ルバンガの国があるが、その間に瘴気地帯が横たわっている。

 一度南に出て、大回りしなければ東の小魔王国群へ入ることはできない。


 城を出てからここまで七日余り。

 配下の連中をみると、みな入れ込んでいる。


 戦場の匂いを肌で感じているのだ。

 つまり、脳筋連中が暴発寸前になっている。


(まったくこれだからオーガ族は……)


 適度にガスを抜いてやらないと、先走ってしまう奴も出るし、仲間内で喧嘩をおっぱじめる者も出る。


「来た道を戻ると暴動に発展しそうだ。とりあえず平原に陣取っている奴を叩くか」

「とりあえずで叩くんですか? 簡単に言いますけど、大丈夫でしょうか」


 リグが懸念を伝えてきた。

 そう思うのも当然だが、敵はトラルザード軍と戦った後だ。


 こういう場合、時を置かずに襲いかかれば、何とかなったりする。

 というか、それが一番得意な連中ばかりがここに集まっている。


「戦ってみて無理なら逃げる。……と言っても、負ける気がしないんだよな」


 ワイルドハントと戦ったときのことを思い出す。

 あいつらは強敵だった。


 一騎当千の連中がゴロゴロいた。

 それと戦って生き延びた連中だ。


 あれ以上の集団など、そうそうお目にかかれるものじゃない。

 それに特殊進化したのは俺だけじゃない。


 サイファもベッカもそうだ。

 こんだけいれば、何とかなるんじゃ無いかと思うわけだ。


「分かりました。そういうことでしたら、お願いします」

「おう。リグたちは後ろで待っていてくれ」


 非戦闘種族を切り分けたら、突撃だ。



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