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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
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擬人ぎじんを知っているのですか?」

 意外だ。いや、そうでもないのか。


 トラルザードは竜種なので長生きだ。

 魔界でトラルザードより長生きしている者はほとんどいない。


 その長い生で溜め込んだ知識は相当なものになると思う。


「逆に我はお主が知っていることに驚きだぞ。擬人は天界の住人が作りあげた魂を入れる器のことじゃ。人界に下りていくのに使われると聞いたことがある。つまり、今ではもう作られていないはずじゃ」


 いまは作られていない……なぜならば、結界で人界が閉ざされているからだろう。


「そうですね、俺の言った擬人はまさにそれです。それを含めて少し話をしたいと思っていたのですが、先に聞いていいですか? 俺が寝ている間、魔界で起こったことが知りたいのですけど」


 俺の方は、まだ頭の中が整理されていない。魔界、人界、魔界とせわしいのも要因だろう。

 何を話すにもまず、現状を確認したい。


「ふむ。気になることもあるが、我から話すことにしようかの。あれはリーガードとの戦いに向けて、我が軍を率いたときのことじゃった」


 国境までトラルザード自らが軍を派遣する。

 途中で他の町の軍と合流する予定があった。


 ちょうどその町に着く前日だったという。

 トラルザード軍が休憩中、遠くから戦いの音が聞こえてきた。


 魔法弾が大地に直撃し、大爆発をおこしたような音だったため、最初はリーガード軍が攻めてきたのかと思ったらしかった。


 すぐに周囲を警戒させ、様子を見に行かせたところ、なぜか町にいるはずの俺たちが戦っている。

 トラルザードは驚いたものの、敵を見てさらに驚いた。


 なぜならば、俺が戦っている相手がワイルドハントだったからである。

「なぜこんなところにお主が? なぜワイルドハントと? と本気で驚いたわ」


 驚くのも無理はない。

 俺は城に忍び込んで、トラルザードの会話を盗み聞きしたのだ。

 そこで行軍予定を知ることができたからこそ、先回りできた。


 襲撃に一番適した場所を考え、罠を張った。

 そこにネヒョルがまんまと引っかかったわけだ。


 なぜこっそり忍び込んだのか。

 トラルザード軍周辺だって完璧じゃない。


 ワイルドハントの目がどこかにあるとこの計画は失敗する。

 だからトラルザードにも内緒で俺は行動したのだ。


 トラルザードには一切知らせていない。

 だから、急に戦闘が始まって驚いたのだろう。


「お主の敵をよく見れば、種族の構成からすぐにワイルドハントと分かった。そいつらが魔法弾に右往左往しておったわ。あんな神出鬼没な連中をよく罠に嵌めたな。さすがと言えよう」


「ネヒョルの行動は何となく分かりますから」


 奴の考えることは分かる。そこから行動を推測した。

 ネヒョルは思考が論理的であるがゆえに、分かりやすい。


「お主が見事ネヒョルを倒したのも見た。そのせいでお主が死んだのもな……いや、死んでなかったわけだが」


「俺も死んだと思ったんですけどね、こうして生き返ってます」


「うむ……残ったワイルドハントの面々は我の軍が殲滅させた。姿を隠すことができなくなったようで、散り散りに逃げたが、そこは我が領内であるからな。追いかけて最後の一兵まで討ち取ることができたわ」


「それは良かったです。敵の生き残りについては気になっていたんです」

「お主の部下たちもよくがんばっておったよ。あれはまた独特であるな」


 独特……ヒャッハー部隊のことだろうか。

 突撃させると、嬉々として向かっていく血の気の多いやつらだ。


 そしてその時のヒャッハー度が高いほど、よく働く。

 最近はヴァンパイア族なども加わって、なんかもうカオスな状態になってしまった。


「それで俺の部隊はどうなったんですか?」


「お主が死んだことで、残った者が部隊をまとめたらしい。お主の死体はその場で埋葬しようと思ったのだが、ちょうどその時、敵軍の情報が入ってのう」


 あの場所に負傷者を置いて、トラルザードは軍を出発させなければならなくなったらしい。

 この時点でトラルザードは、俺が死んだものと考えたようだ。


 トラルザード軍の休憩所に残ったのは、戦いで怪我をした者と俺の死体。

 その後、怪我がもとで死ぬ者もいたため、トラルザードが休憩した場所に臨時の救護施設を作ったらしい。


 そして支配の石版からもネヒョルの死が確認された。

 これはちょうど、トラルザードがリーガードの先兵を蹴散らしている間に確認が取れたらしい。


 だがその時トラルザードは、別の部分に注目した。俺の名前だ。


 俺の名前が支配の石版にあることを訝しみ、もしかすると俺がまだ死んでいないのではないかと考えたらしい。


「ちょうどお主の死体は、他の者と一緒に埋めるところだったのじゃ。我はそれを止めさせ、町に運んだわけじゃ」


「なるほど。それでリーガードとの決戦に向かったわけですね」


「そうじゃ。やはりというか、リーガード本人が出てきおった。我とリーガードとの一騎打ちじゃな」


 魔王同士の戦いに、他の者は介入できない。

 はっきり言って、近くにいるだけで死んでしまう。


 それは以前、竜形態に戻ったトラルザードを見たときにも思った。

 あれが暴れれば、その巨体の下敷きになっただけで即死だろう。


 トラルザードとリーガードとの戦いは、激戦と呼ぶにふさわしいものとなったらしい。

 双方が引かず、激しい応酬が繰り広げられ、ついにはトラルザードがリーガードを下したという。


 魔王が魔王を倒したのだ。快挙と言える。

「そのせいで、魔界がにわかに騒がしくなってしまってのう……」


 いま大魔王に一番近い魔王が、トラルザードらしい。

 大魔王の座を巡って、残った六人の魔王が大乱戦を繰り広げるべく、行動を開始したのだという。


「魔界は大混乱ですね」

「……うむ」


 魔界はいま、どこもかしこもヒャッハー状態らしい。

 俺の部下たちもヒャッハーだが、その規模が違う。


 もちろんトラルザードもそれに巻き込まれている。

 というか、大きな渦のひとつのようだ。


「我が領の北にある魔王ジャニウスが、その隣の魔王ギドマンと手を組んだようでの」

 トラルザードに戦いを挑んできたらしい。


「魔王と魔王が手を組んだんですか。そりゃ、大変だ」

 なんで俺、こんなときに生き返ったんだ。



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