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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
最終章 魔界はいつでも世紀末(ヒャッハー)編
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320

「のぉおおおおおおおおっ……」


 目覚めたとき、目の前にババア……トラルザードの顔がアップであった。

 今にも口づけしそうなほど近くだ。


 俺は反射的にその横っ面をぶん殴った。


 絶叫は俺のものだったのか、それともトラルザードのものだったのか。

 というか、ここはどこだ? 部屋の隅に吹っ飛んでいったトラルザード。


「どうされました?」

 乱暴に扉が開かれ、強そうな連中がなだれ込んできた。


 そこで俺は違和感に気付いた。

「あれ? 魔素が読める?」


 今までおぼろげにしか分からなかった、相手の魔素量が読めるようになっていた。

 最近は、擬人ぎじんの器に入っていたことで、まったく読めなかったので、かなり違和感がある……って、あれ? そういえば擬人。


「どこだここは?」

 俺の問いかけに、集まった屈強な者たちが、あんぐりと口を開けてこちらを凝視していた。


「ゴーラン、お主、生き返ったのか!!」

「あっ」

 トラルザードの叫びで、俺はすべてを思い出した。




 俺が覚えている最後の記憶は、ヤマトと戦って負けたところだ。

 さすがは小覇王。えげつない技を持っていた。


 まさか、器と魂を切り離す技を持っていたとは……。


 魔界の住人の魂は、支配のオーブの中に入っている。

 ヤマトの技はそれを切り離すものだろう。


 俺の場合、魂を器から切り離されたわけだが。

 同格以上の相手には効果ないと言っていたが、使うのが小覇王であれば、ほとんどすべての相手に効果がある。


 使われれば一撃死。なんとも凶悪な技だ。

 そこまで考えて端と気付く。


「俺……死んだよな」

 ヤマトに殺されたはずだ。というか、そもそも魔界にはいなかった。


「うむ……お主は死んだ……我らはみなそう思っておったのじゃが」

 復活したトラルザードがやってきた。


 なんだろう、老婆のアップを二回も見たら、耐性がついて……こねえ。

 トラルザードの言っている「死んだ」というのは、魔界での死の事だろう。


 魔界でも俺はネヒョルと戦って死んだ……死んで冥界に行って、そして人界で生まれ変わった。

 とするとこの身体は……いや、さっきトラルザードはなんていった?


 ――ゴーランが生き返った


 そう言っていた。

 生き返ったということは、もしかしてこの身体は……。


「もしかして擬人ではなく、もとの身体なんですか?」


「何を訳の分からないことを言っておるのだ。ゴーランはゴーランであろう。というか、本当に生き返るとは。相変わらずお主は分からんことばかりだわ」


 どうやら本当に元の身体らしい。

 でも俺、魔界で死んだよな。なぜだ?


「もしかして、何か蘇生術とかかけました?」

「? 言っている意味がわからんぞ。なんだ、蘇生術というのは」


「いや、違うのならばいいです。……では改めて聞きますけど、なぜ俺は生きているんでしょう?」


「そんなこと言われても、我も分からん。ただ……支配の石版からお主の名前が消えずに残っておったのじゃ」


「へっ? 支配の石版?」

 どういうこと?


 よく分からない俺にトラルザードが語った。

 それはなんとも衝撃的な話だった。


 魔界のあちこちに支配の石版がある。

 二十か、三十か、すべての場所を知っている者はいないと思う。


 魔界の住人はいい加減なので、調査もしないからだ。

 俺もそのくらいあるらしいと言われれば「そんなもんか」と納得するだけだ。


 この支配の石版だが、破壊も移動もできない。

 そして石版に書かれている内容が、自動的に書き換わる。


 小魔王、魔王、大魔王、小覇王、覇王と、下から順に該当する者の名が自動的に書き込まれるのだ。

 もちろんトラルザード領にも支配の石版がある。


 部下がそこに派遣され、いつでも消えた者の名と増えた者の名を記録しているらしい。

 今回、ワイルドハントの首領であるネヒョルの死を確認するため、最近の増減を調査させたところ、なぜか俺の名前があった。


 素盞鳴尊すさのおのみことに進化した後、ちょうど魔素が増えた状態で安定したあたりで書き込まれたのかもしれない。

 それはいい。


 小魔王ゴーラン……もし知っていたら誰か教えてくれたらよかったのにと思うものの、名前があるなしで俺の生き方が変わるわけでもない。

 もう一度言おう、それはいい。


 問題は俺の名前が支配の石版に「あった」ことだ。

 ネヒョルの名前がちゃんと消えているのを確認したわけで、その時点で俺の名前が消えてなければおかしい。


 何しろ俺はネヒョルを殺したあと、戦いで受けた傷と毒で死んだのだから。

 その後の調査で、俺の名前が石版にあるのはおかしい。


 トラルザードも同じ事を思ったらしく、もう一度調べさせたが、間違いなかった。


 ――ということは、死んでないんじゃ?


 トラルザードは、そう思ったという。

 確信したわけではないが、名前があるならば、生きているものとして扱うことにしたと。


 そのときトラルザードは、魔王リーガードとの決戦に向かう途中。

 俺のことを部下に託し、そのまま国境付近で大規模戦闘を開始。


 終わって戻ってきてみれば、首筋に受けた傷が塞がった俺がいた。

 これは本当に生きているかもということで、自分の住む町へ連れ帰ったらしい。


「……いまの話からすると、ここは城ですか?」


「そうじゃ。我はお主が死んでおらず、眠っているものと扱い、ここまで運び込んだ。ただし、寝ているようには見えんかった。まるで死人。じゃから、半信半疑でこうして様子を見に来ておったのじゃ」


 そこで俺がタイミング悪く目を覚ましたと。


 老婆のドアップはもうこりごりだが、俺自身、死んだと思っていたから、こうしてもとの肉体を保存しておいてくれたのは助かった。


 というか、よく保存しておいたなと感心するくらいだ。


「お主が寝ている間、我の方でも話すことが多々ある。じゃが、お主はさきほど変なことを言っておったな。さっきは分からなかったが、思い出した。擬人とは、天界の住人が作りだした人に化ける魂のない人形のことではないか」


 トラルザードの目が鋭くなった。

 歳をとっても耳だけはいいんだなと、俺は埒もないことを考えていた。



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