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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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 ヤマトの側近を二人倒した。

 だが、他にも側近はいる。

 出てきた奴より弱いのか、睨むだけで俺に襲いかかってこようとはしない。


 よく見ると戸惑っているようだ。

 さもありなん。魔素量が多ければ強いと考えている連中だ。


 今の結果が信じられないのだろう。


「次はだれだ? はやく決めてくれ」

 悔しそうに歯ぎしりしているが、やはり襲いかかってはこない。


「私に敵対するのは構わない。魔界の住人はそういうものだと理解している。だが、もう一度聞こう。なぜ結界を壊したがる? 人間を巻き込んだ大規模戦争を望んでいるのかな?」


 唯一ヤマトだけは冷静だ。

 側近が二人も殺られたのに、声に震えも憤りもない。


「逆に聞かせてくれ。なぜ種の本質を曲げてまで共存を選ぶ? あんたが号令をかければ、奴らは喜んで滅びに向かって行進していくぜ」

 不思議なのはそこだ。


 魔界ではいまも大規模戦争が各地で起こっていて、多くの住人が戦い、死んでいく。

 いくら人界に取り残されたといっても、完全に戦いを避ける意味が分からない。


「異界を造ったときに思ったのだよ。世代が変われば、魔界のことを覚えている者はいなくなるとね」


「ああ……たしかにここの連中は、魔界を見たこともない者ばっかりだろうな」

 そういえば、ここに来てから、俺がする以外で魔界の話は出なかったな。

 直接魔界を知っている者はもう残っていないのだろう。ヤマトを除いて。


「異界から人界に降り立ったとき、人間はこう考えるはずだ。『彼らが住む異界がどこかにある』とね。そうすれば、ゼウスの結界のことも、魔界のことも知られずに済む。魔界の存在が明らかにならなければ、そこへ至ろうとする者もいない。結果、人間の興味は異界に集中する」


 ヤマトが寿命を迎える前に異界の住人を一部だけ放出する。

 すると、異界を探そうと人間がやっきになる。


 異界はそのうち、ヤマトの寿命と一緒に消滅するため、ここへ至る研究はどうせ無駄になる。

 魔界のことが知られなければ、いつか消えてなくなる異界など、いくら調べられてもいい。そう考えたようだ。


「それに血を残す実験もしたのだけどね、半分も成功しなかった」

「?」


擬人ぎじんはいくつもの目的をもって作られたと言えば分かるかな」

 天界の住人が作ったこの擬人。


 擬人は、人の持つ気――人気じんきによる信仰を得るため、人間の考えを誘導するために使っていた。


 端的に言うと、宗教上の偉人などがそうだ。

 天界の住人が擬人の身体を使い、奇跡をおこし、信仰を集めた。

 これには人間の観察も含まれる。


 そして二つ目には、天界の住人の特性を持った人間を誕生させること。

 いわゆる生まれながらの聖人を作りたかったようだ。


 ゼウスの結界後、世界中にあったこの擬人を集め、異界に持ち込んだのはヤマトである。

 それを魔界の住人のために使うことにした。


 ヤマトや他の上位種族が擬人の器に入り、人間界へ行く。

 宗教を否定させ、天界の悪口を吹き込むためだ。


 ときには宗教人を堕落させ、ときには人間同士を争わせた。

 やっていることは悪の秘密結社と同じである。


 そして天界の住人と同じく、魔界の特性をもった超人を作ったらしい。

「きみの周囲にもいたかもしれない。もしくは、きみ自身がそうかもしれない」


 人間だった俺にも、何代か前に魔界の住人の血が入っているかもしれないと。

 ヤマトや他の上位種族がどこで何をしたのか、あまりに昔過ぎて、全部覚えていないらしい。


 人間の場合、数代遡ればもう生きている人はいなくなるので、確認取れるはずもない。

 なるほど、俺の身体の中に、ヤマトや他の上位種族の特性が受け継がれている可能性があるらしい。


 道場主や、まだ見ぬ俺の父親もその可能性が高いのではなかろうか。

 みんな少し変わっている連中だし。


 そしてそういう連中は、魔界の住人と親和性が高いため、より好意的に受け入れてくれる可能性があるという。


 ヤマトは昔から色々準備をしていたことが分かる。

 擬人を通して天界の住人の悪口を吹き込むこと。

 これは成功しただろう。


 エンラ機関を閻魔大王になぞらえて、地獄をイメージさせたのだから。


 そして魔界の特性を持った人間を増やした。

 何百年も前から少しずつ、そうやって血を残していったのならば、今ではそれなりの数になっているのではなかろうか。


 彼らは魔界の住人との親和性が高いというのは、ヤマトの計画にもちょうどいいだろう。


 そして戦闘種族の改造。

 魔界を知らない連中が増えたいま、戦わないことが正しいことになっている。

 俺としては願い下げだが、人間界に行ったとき、どちらがより受け入れられるかといえば、改良された彼らの方だろう。


 あとは大人しい種族を少しずつ計画的に人間界へ降らせれば完了。

 そういうことだ。


 これらはすべて、ヤマト亡き後で人間たちと共存するために準備していたものだ。

 なるほど、時間が有り余っている奴は違う。


 ちゃんと段階を踏んで準備しているらしい。

 俺は納得できないが、理に適っている部分もある。


「ひとつ聞きたいんだが、もしかして最近、魔界に来なかったか?」

「ん? どうしてそれを?」


「似ているんだよ。俺が会った『ヤマト』と名乗る男に」


 雰囲気と話し方が似ている。

 俺が小さいころだから十数年前のはずだ。


 本当につい最近の話。

 魔界で俺が死にかけていたときに出会った人物。


 あれがヤマト本人だったのか。

 もしヤマト本人ならば、あの時なぜ、『魔界』にいたのか。



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