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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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 もしヤマトがヘラと戦い、人界に来なかったら……もしくは、人界に来ても異界を造らなかったら、人類の歴史はどう変わっただろうか。


「魔界の住人の存在が明らかになり……まあ、全滅しただろうな」

 貴重な研究材料として生かされるかもしれないが、そっちの方が悲惨だろう。


 闇に紛れて、人の歴史の裏で生きる……生きられるほど、奴らは賢くない。

 見つかって、戦って、そして死んでいっただろう。


 神話や伝説上の生き物が見つかれば、「他にもいるかも」と大捜索大会が始まるに決まっている。

 非戦闘種族が運良く逃げたとしても、「現代」の科学技術があれば、やはり見つかってしまう。


 ――百二十年ぶりに、神話時代の生き物を発見!


 そんな見出しが新聞の一面を飾るかも知れない。


 ヤマトが世界中を巡って同胞を集め……ついでに天界の住人を皆殺しにしたのは正しい。

 とすると、やはり問題はヤマトの死後のことだ。


 メルヴィスだって不死じゃない。

 強大な魔素を内に抱えていても、いつ寿命がきてもおかしくない。


 もっとも、あと何百年も生きるかもしれないが。

 それでも寿命はある。


 ヤマトの場合、外見だけみれば年齢を感じさせない。

 だが、外見が変化せずに老いて死ぬ種族もいる。


 日本武尊はユニーク種だ。

 どんな最期を迎えるか、先例がないはずだ。


 自分の死後を考えて、人間と敵対しない魔界の住人をつくりあげ、少しずつ人界に根ざさせようという考え。


 人間社会が成熟すれば、そういった存在を受け入れる土壌が生まれると考えたのだろう。

 だがそんな養殖みたいな生。満足か?


「何か不満があるようだね」

 ヤマトの言葉に俺は笑った。端的に表現すれば、「嗤った」の方がしっくりくるか。


「不満か。不満はあるな……どうやら、俺は魔界流の考え方に染まっているらしい」

 うん、決めた。もうヤマトを敬うのは止めよう。


 大人しくするなんてクソ喰らえだ。

 やりたいようにやる。それが魔界流だろ?


 魔界は弱肉強食じゃねえ。あそこは、もっとこう……ヒャッハーな世界だ。

 喰うために戦う? 強さを見せつける? 知るかボケ!


 俺たちは、ただヒャッハーしたいから戦うんだよ!!


「何やら不穏な顔をしているけど」

「ああ……決めたぜ」


「なにを決めたのかな」

「この異界、壊させてもらう」


 直後、ヤマトの雰囲気も変わった。

 擬人の器に入ってすら分かる、ピリピリとした殺気が放たれた。


「させないよ」

「するさ……ついでにゼウスの結界も破壊する」


「そんなことしたら、人界が大混乱に陥るよ。人も大勢死ぬ。魔界も天界の住人も多くが死ぬね。それでも壊すというの? 魔界が消滅するかもしれない。いまの人界には、それだけの力がある」


「ああ、勿論知っているぜ」


 ヤマトは……ヤマトだけは時々擬人の器に入って、人界に下りているんだろう。

 人界のことは詳しそうだ。だけど、それがどうした。


 ヤマトをぶっ潰して、異界をぶっ壊して、ゼウスの結界も何もかも破壊してやる。

 戦いを忘れた魔界の住人連中を俺がヒャッハーさせてやんぜ。


 俺は立ち上がった。

 ヤマトの後ろにずっといた側近たちが、視線で殺さんばかりに睨んでくる。


「擬人の器に入ったままで勝てるとでも? 魔界にある身体は死んでしまっているならば、器の死は本人の死でもあるのだけど」


「だったらどうだってんだ」

 常夏の海岸で叛乱勢力と戦ったが、結局俺が叛乱してしまった。


 だが仕方ない。あんな話を聞かされたんだから。


「始祖様、ここは我らが」

 側近が二人前に出てきた。

 名前は聞いてない。側近Aと側近Bだ。


「雑魚は引っ込んでな」

 俺の挑発に、側近AとBの殺気が増した。


「彼らは魔界にいれば、魔王級だよ」

「……ふん」




 ここ、水晶宮殿の一室で戦いが始まった。


 なるほど、敵は強い。

 魔素を正しく把握できなくなった俺だから良かったものの、他の者では、魔素にあてられ、反抗する気力を根こそぎ奪われていたところだ。


 何しろ、奴らが腕を一振りしただけで宮殿の柱が、床に落としたガラス細工のようにコナゴナになったのだから。


「魔素量の差は歴然ってか?」

 俺の嗤いは続く。


 一つ一つの破壊力は凄まじい。

 魔王級と言うだけのことはある。


 攻撃を受ければ、魔素強化した俺の身体でもペシャンコになりそうだ。


 さすがはヤマトの副官。だが、メルヴィスほど圧倒的な差はない。

 そして戦いはというと……。


「なぜだ!?」

「どうして!?」

 副官AとBが驚きの声を上げている。


 分からないだろう。分かるはずもない。

 いくら強くても、戦いを忘れた種族が勝てるわけがない。


 これならばまだ、サイファやベッカの方が脅威だ。

 およそ生まれてから一度も戦ったことのない奴らは、赤子と同じだ。


 高い身体能力をいくら持っていようと、それが俺に通じるとでも思ったのか?

 対人の駆け引きすらしたことのない奴が、初めての戦闘でプロ相手に圧倒できると思ったのか?


 だから俺は言ってやった。

「おとといきやがれ!」


 殺気渦巻く相手に、俺はビシィっと中指を突き立てた。



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