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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
31/359

031

 負けた。

 フェイントを仕掛け、腕を切り落としたところまでは良かった。


 ただ、わずかな時間で手首を再生させるなんて思わなかったし、最後のアレはなんだ。

 まったく動きが見えなかった。


 つまりずっと全力ではなく、最後だけ少し本気を出した。その程度だったのだろう。

 仕方が無い。首を絞められた状態ではもう、逆転の目がない。潔く認めよう。


「……負けました」

 その言葉で俺の首は解放された。


「ゴーランも凄かったね。本当に驚きだよ。嘘偽りなくだよ。ボクをここまで追い詰めた人なんてここ何百年もいなかったしね」


「その割には全力を出していなかったようですが」

「あれ? 言葉遣いが戻っちゃった?」


「負けましたし」

「ふうん。まあいいか。でもゴーランだって全力じゃなかったでしょ」


「どうしてそう思われます?」

 結構全力だったんだけど。


「大牙族の死体を見たって言ったでしょ。額に刺さっていた鉄棒」

「?」


「大牙族は爪と牙で敵を切り裂くんだけど、防御についてもなかなか凄いんだよ。とくに額の頑丈さには定評があるわけ。ボクでも鉄棒を額に刺すのは無理だと思うよ」


「…………」


 魔法に長けているものの、ヴァンパイア族は力だってすごい。

 それでも鉄棒で額を貫けない? 不思議に思ったが、初速や単位面積あたりにかかる圧力か。

 入射角度も関係してくるな。


 おれは俺のやり方を真似することができる。

 ただの力任せだけでは難しいということか。


 俺が黙ったので、軍団長は「だからおあいこだね」と陽気に言った。

 別段俺は手の内を隠したかったわけではなく、おれを表に出して脳筋全開で闘っても勝てないと思ったからだ。


「一応ボクが勝ったけど、結果を見ると引き分けかな。ダメージはボクの方が大きいし」

 床に落ちているのは、軍団長の片腕と手首。


「けれど負けたのは事実です」

「そうだね。だから、こうしよう。交換条件」

「はい?」


「ボクは死神族の受け入れを許可する。将軍にもちゃんと伝えておくよ。かわりにゴーランは、打開策を考えること。このままだと小魔王ファーラがこの国を飲み込んでしまうのは分かるよね」


 俺は頷いた。


「死神族に限った話じゃなくて、この国は余所の支配を受け入れない。つまりファーラには退場してもらう。その方法をゴーランが考えてほしいんだ」


「……なぜ俺なんです?」

「考え方が違うから。ボクが考えていたのは、この国が周辺諸国を飲み込んでファーラと対決する方法だね。でもこれは王の考えに反するんだよね。だから別の方法を考えて」


 いいね、これは交換条件だから絶対だよと、軍団長は念を押してきた。

 俺はただ頷くしかできなかった。なにしろ、戦いに負けたのだから。


「さて、部屋の片付けを呼ぼう。ミルヒ、いるかい?」


 軍団長が呼ぶと、同じバンパイア族の若者が入ってきた。

 副官だろう。


「この部屋を片付けちゃってね」

「かしこまりまっ……!?」


 部屋に落ちている片腕と手首を見て、ミルヒは固まった。


「斬られちゃった。腕を持ってきてくれる? 先にくっつけちゃおう。魔素もだいぶ減ったので、戻さないとね」


 ミルヒが俺の方を凝視してきたので、「不可抗力だ」と言ったら、軍団長に笑われた。


「それじゃゴーラン。話は以上ね。それと今度は本気を出してね。その方がボクは楽しいな」

「……考えとく」


 本気もなにも、次は手も足も出ずに負けるわ。


 落ちた刀を拾い上げ、鞘に戻す。

 部屋を出るときに、軍団長を見た。

 ちょうどミルヒに腕を持ってもらい、くっつけている最中だった。


「あれでくっつくのか。対策を考えねえとな」

 今回の件で、ネヒョル軍団長に目をつけられた気がする。


 言いがかりをつけられて、なし崩し的に喧嘩を吹っかけられそうだ。

 なるべく顔を合わせないようにしたいが、死神族のこともある。


 次に殺り合ったときに使える隠し技をいくつか考えておかないと命にかかわる。


「……はぁ」

 なんかどっと疲れた。


 忘れないうちに、ネヒョル軍団長の動きを脳内に焼き付けておく。

 こちらを舐めていたこともあって、互角に打ち合えたが、次は最初から潰しにかかってくるだろう。


「……やはり最後の動きは分かんねえな」

 いつ手首を再生させた?


 気がついたら首を絞められていたが、軍団長は手首を一瞬で復活させられないと言っていた。

 あれはブラフじゃないはずだ。


「ということは、奥の手のひとつか?」

 高速再生、いや瞬間再生か。いつでも使える技じゃないのかもしれない。


「……ああっ、そういえば」

 魔素をたくさん使ったと言っていたな。

 一瞬で身体の一部を再生させるのに通常よりも多くの魔素を使うのかもしれない。


 数倍……もしくは十倍とか。

 少なくとも切羽詰ったときにしかやらない技なのだろう。


「腕と手首を切り落とされたことで焦ったのかもしれないな」

 瞬間移動もそうだ。ということは、今回の戦いで軍団長の奥の手を二つ出させたことになるのか。


「ただ、それが分かったところで、どうしようもないけどな」

 魔素量の差は歴然。最後の技は結局見えなかったわけだし、まともにやったら勝てないことを再確認できたくらいか。


「まったくバケモノだぜ」


 考えながらだったので、帰りの足取りは重い。

 行きの倍近くも時間をかけて、俺は村に戻った。


「そういや、どうやって報告すればいいんだ?」

 ルマと名乗った死神族の老人。


 こちらからコンタクトを取る手段がないことに、あらためて気づいた。



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