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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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 俺が通された部屋はかなり立派なものだった。

 すでに五人の人物が先にいた。


 逆を言えば、他にだれもいない。


 中央にいる美丈夫がおそらくヤマト。

 髪を後ろになびかせた風流な風体の優男だ。


 その左右にいかにもな古強者が二人ずつ控えている。


 俺を先導した者は一礼して去っていった。

 つまりここには、俺を含めて六人しかいない。


「私は始祖ヤマトと呼ばれている。好きに呼んでもらってもいいのだけど、部下がうるさくてね。そう呼んでくれるかな」


「分かりました。始祖ヤマト様と呼ぶことにします。申し遅れました、俺の名前はゴーランと言います」


 できるだけ穏便に話すようつとめてみた。

 本当は顔を見た瞬間に殴りかかろうとしたが、周囲の圧力からそれを自重した。


 というか、いきなり攻撃をしかけてきそうな側近が脇を固めている。

 殴りかかる前に消されそうだ。


 どうやら、この側近たち。俺のことが嫌いらしい。


「早速だけど、キミはだれかな?」

 柔らかな声で、ヤマトはそう問いかけてきた。


 俺は一瞬「?」の表情を浮かべた。

 いま名乗ったばかりなのにと考えていたら、続きがあった。


「擬人は一定以上のダメージを受けると魂を放出する。もとの身体に帰ると思っていたところ、それがなかった。改めて聞くけど、キミはだれなのかな?」


 なるほど、そういうことか。

 ちょっと意地悪したい気持ちにかられた。


「先ほど名乗った通り、俺はゴーランでございます。それ以上でもそれ以下でもありません」

 やや慇懃無礼な態度で接してみた。


 すでにヤマトが聞きたいことの意味は分かっている。

 身体から離れた魂は、本来繋がっている場所へ戻ろうとする。


 それはメルヴィスの説明からもあった。

 ヤマトが知らない訳がない。


「魂が身体に帰る様子がなかったので、連れの者に聞いた。ゴーランの本体については知らないという」


 それはそうだろう。ジュガには何も話していない。

 ヤマトは続けた。


「試しにキミの魂を別の器に入れたら、できてしまった。さあここで問題だ。身体と魂が繋がった状態で、器を入れ替えることはできると思う?」


 そう聞くということは、できないのだろう。

 仕組みは分からないが、擬人の器を渡り歩くことはできなさそうだ。


「回りくどい話はいいですから、何が聞きたいんですか?」

 多少呆れた風を装って、俺は尋ねた。


 ヤマトは俺に聞きたいことがあるようだが、俺だってあるのだ。

 一方的に情報を聞きだそうとしても無駄だ。


「キミを調べた。そうしたら身体と魂が繋がっていない。つまりキミは帰るべき身体を失っていることになる。つまりキミは死者だ」


 ここでヤマトはわざと言葉を切った。俺の反応を見ている。

 だから俺もわざと無反応を貫き通した。


「いい精神力だ。……死者の魂はしかるべき所へ行く。擬人の器に入るはずがない」


「そうですか。それは知りませんでした。たしかに俺は冥界から来たんですけどね、始祖……いや、小覇王ヤマト様」


 瞬間殺気が膨れあがった。といっても、ヤマト本人ではない。

 側近たちが今にも襲いかかってきそうなほど、殺気をまき散らしている。


「……事情は半分飲み込めたかな。キミは魔界で死んだ。生まれ変わるために人界にきたが、なぜか赤子にではなく擬人の器に入った。そしてこれも不思議だけど、魔界の住人だった頃の記憶がある。それでいいかな」


 俺は頷いた。冥界から来たとしか言わなかったが、小覇王のくだりで察したようだ。

 だけど理由は話さない。


 俺が冥界を抜けられたのは、オレのおかげだ。

 それは俺だけが知っていればいいこと。目の前のヤマトに言う必要などない。


 そして当のヤマトはと言うと、「貴重な……だけど、人界の結界は……」とブツブツ呟いている。頷かなければよかったか?


「俺のことはどうでもいいんです。それよりハッキリさせましょう。異界ここで茶番を仕組んで、何をたくらんでいるんです?」


「それはどういうことかな?」

 今度は俺の番だとばかりに尋ねたのに韜晦とうかいされた。


「魔界は全土が乱れています。群雄割拠ですよ。それはそうだ。魔界の住人は、戦わねば、生きていけない連中が多いんですから。ここのように、他種族と争うなと押さえつけてどうしようと言うんです? 暴発するに決まっているじゃないですか」


 俺が叛乱勢力と言い争ったとき分かった。

 連中の中でも上に立つ者たちは自分たちの末路を知っていた。


 戦うことは、種族のアイデンティティだ。

 彼らは争うべくして争う。それが本能。オーガ族の中でも穏健派の俺がいうのだから、間違いない。


 戦うのに理屈は存在しない。

 それを禁止された彼らは、負けるのを承知で抗うしかなくなる。


 まるでだれかの手の平の上で転がされているかのように。

 分かっていても止められなかったのだ。


「キミはどう考えたのかな?」

 逆に問うてきた。


 種族間の争いを止めさせた理由か。それとも叛乱勢力をわざとつくり出した理由か。

 俺は答えた。


「ガス抜き、暴発しそうな者を一カ所に集めて討伐しやすくする、人間に危害を加えないための措置。いろいろ理由は思いつきますけど、どれも真の理由ではない気がしますね」


 これら一連の流れには、明確な意志がある。

 俺でしか分からない意志が。


「……ほう、では聞こう。真の理由とは?」

 さっきまでの雰囲気がなくなった。


 俺を見定める目をしている……気がする。

 ここから先を言うのは危険か?


 一瞬だけ、「やっぱ誤魔化すか」と心が囁いたが、それを無理矢理押さえつけた。


(もしここで死んだら、オレは怒るかな)

 ふと脳裏にオレの最期の言葉が浮かんだ。



 ――オレの魂じゃなく、オレの想いを持っていってくれ



 オレはそう言っていた。

 俺はいま、オレの想いを持ってきている。俺のハートは俺だけのものじゃない。


(……だったら、ここで引くわけにいかねえよな。オレだったら迷わず進む)


 あの世でオレに笑われたくない。

 ならば俺も踏ん張るだろ。


 ヤマトの考えはもう分かっている。

 あのヤマトの視線は本物だ……側近の放つすさまじいプレッシャーがそよ風に感じる。


 でも俺は言う。

 ここは引かない。


「始祖ヤマト様、あなたの狙いは……」



 ――魔界の住人の改造だ



 俺はそう言い放った。



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