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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
304/359

304

「ゴーラン様!」

「ん?」


「きっとあの建物ができたから、ボクらの種族が常秋の山林に逃げられなくなったんだと思います」

「? ああ、なるほど……そういうことか」


 トーチカは道を塞ぐように建っている。

 さすがに避けて通るわけにもいかない。


「ある時を境に、急に常夏の海岸からだれも逃げて来なくなったんですよ。おかしいと思ったんです。きっと捕まったんだ!」


「なぜ捕まえたんだ? 要塞の情報を漏らさないためにか? だが、常秋の山林には大した戦力はないんだろ?」


「だからあれだけで十分と思ったんじゃないでしょうか」

「ふむ……」


 本当に警戒しているのは、常春の野原にいるヤマトやその側近。


 戦力をそっちに集めておいて、こっち側はトーチカひとつと、たまに巡回を出す程度で十分と考えたわけか。


 それならまだ分かる。

 あっちだって、大戦力を揃えているわけじゃないから、討って出るわけにもいかない。


 守備は片側だけに集中させる程度には不足している。

 そんな感じか。


「それでゴーラン様、どうしましょう」

「よし、話し合おう」


「――えっ?」


「なあに、あいつらだって怖いんだ。だからあんなところに篭もっている。話し合って、お互い理解し合えればいいじゃないか。それがいい、よしそれでいこう」


 話し合うことは大切だ。最近の俺は、いいこと言うな。


「えっと、ゴーラン様、いえ『反逆の殲滅者』様」

「おまえ今、わざと言い直したな。ゴーランでいいだろ」


「で、でも、ゴーラン様」

「大丈夫だ。よく見ておけ。平和的解決ってやつを見せてやる」


 俺は両手を挙げて、トーチカに近づいていった。

 気分は戦場のヒーローだな。




○常夏の海岸 トーチカ前 ジュガ


 ゴーラン様が両手を挙げて歩いていってしまった。

 行き先は、ゴーラン様がトーチカと呼んでいたあの砦。


 大丈夫だろうか。

 さっきもの凄い勢いで槍が飛んできたのに。


 相手は戦闘種族の集まり。

 しかもあんな頑丈そうな中に篭もっている。


 そもそもヤマト様への反逆を決めたときから、アイツらはもう捨て身だと思う。

 ここはヤマト様がお造りになった異界――四季の庭(ザ・ガーデン)


 ここで叛乱を起こすなんて、どれだけ無謀かボクにだって分かる。

 それでも一部の戦闘種族はやってしまったんだ。


 ――生きるために


 穏やかに暮らすのを良しとせずに、彼らは自滅への道を歩み始めた。

 そんな彼らが説得されるだろうか。


「あっ、話している」


 本当に説得に向かったみたいだ。


 ゴーラン様がトーチカの穴に向かってなにやら叫んでいる。

 どうやら本気で説得するみたいだけど、声が聞こえない。


 あの槍を見たら、ボクなんて近寄ることすら怖いのに。


「すごい……」


 ああやって話が通じるところまで近づくなんて、ボクにはできない。

 言えば分かるとゴーラン様は実行したけど、もしかしてゴーラン様ってすごい人なんじゃないだろうか。


「あっ、攻撃がきた」

 ゴーラン様はそれを避けて、また話しはじめた。


 攻撃が止んだ。

 中からも返答がある。たぶん言い合いをしているんだと思う。

 これがゴーラン様のいう対話というやつなのかな。


「あっ、ゴーラン様が刀を抜いた……えっと、トーチカを斬った? いや、刀が折れた」

 ゴーラン様の刀がトーチカの外壁を削った。硬さを確かめたかったのかな?


 何をしているのか、遠くてよく分からない。


 ゴーラン様が刀を捨てた? 本当に何を考えて……?


「あっ、トーチカの外壁を殴った!?」


 ええっ? どういうこと!?

 ゴーラン様が続けて何発も殴っている。


 さっき刀で傷がついただけだった外壁だけど、ゴーラン様が殴るたびに削られていく。

 見て分かるほど大きな塊が飛び散っていく。


「あっ、中から攻撃が再開された」


 飛んできたのは槍だ。だけど、近すぎるのか、あまり当たる感じじゃない。

 ゴーラン様はそれを手で払いつつ、外壁を殴り続けている。


「ええっ!? 穴が開いたぁ?」


 えっ? あれ、砦って言ったよね。砦の外壁って、あんなに脆いものなの?

 というか、開いた穴をどんどん広げて……ゴーラン様が中に入っていったんだけど?


「………………」


「………………」


 ボクはそれをじっと見ていた。

 何かすごいことをやっている気がする。


 上に蓋があったらしい。

 あのトーチカという要塞は、上から出入りできるみたい。


 それが開いて……みんな、逃げていった。


 一人、二人……ボクは逃げていく人たちを数えていった。

 全部で七人。


 しばらくして、ゴーラン様が顔を覗かせた。

 こっちに来いって、手招きしている。


 ボクは恐る恐るトーチカに近づいた。


「えっと……ゴーラン様、どうなったんです?」


「話し合ったんだけどなあ……ちょっと駄目だった」

 そう言って、照れながら頭をかいていた。


 ちょっと駄目って……拠点を制圧しているんだけど?

 それと、話し合ったのって、最初だけじゃないのかな?


 ずっと見ていたけど、トーチカの外壁を壊している時間の方が長かったと思う。

 中に入って暴れている時間がその次。

 話している時間は三番目だ。


「それでゴーラン様、中はどうなったの?」

 怖くて覗けないんだけど。


「中は結構広くてな。何人か伸びているから、事情を聞こうぜ」

「…………」


 ボクは非戦闘種族で良かったと心底思った。

 トーチカの中はたしかにかなり広かった。


 そして、かなり酷い状態になった人たちが……伸びていた。



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