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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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「おうおう、おまえら、見かけねえ顔だな。他所もんか?」

 なんか絡まれた。しかも絡まれ方が予想通りすぎる。


「なんだてめえら、やんのか? 喧嘩売ってんなら全部買うぜ。この人がな」

 ジュガが啖呵きって、俺を前に押し出した。


 ジュガ、何やってんの?

 どこぞの芸人か。


「ほう、てめえ……それ擬人か?」

 一人が進み出て、俺を下からねめつける。


「珍しい……こりゃ、たしかに擬人だ」

 もう一人は、俺の姿を下から上までジロジロと眺めてくる。


 いきなり襲いかかってくることはないようだし、話し合いは通じそうな気がする。


「そうだぞ。この擬人の方はなあ、泣く子も黙る『反逆の殲滅者』と呼ばれた、それはそれは恐ろしい方なんだぞ。よく見知りおけよ!」


 なんでジュガが偉そうなんだよ。

 というか反逆の殲滅者って、ジュガが考えた呼び名じゃないか。


「お前、『反逆の殲滅者』って知ってるか?」

「いや……聞いたことねえな、そんな痛い名前」


 ほれみろ。「何この人」的な扱いを受けているじゃないか。

 しかも「痛い」とか言われた。目の前で言われた。


「おまえら、耳の穴をかっぽじって、よく聞きやがれ。この『反逆の殲滅者』様はな、クサレ竜のヴァーガンとノーシュを討伐しにきたんだ。さっさと案内しやがれ!」


 いや、そうじゃないだろ。

 そんなつもりないし、無事に常夏の海岸を抜けたいだけだから。


「な、なんだと!? この『反逆の殲滅者』が我らが盟主様方を討伐すると?」

「こ、こうしちゃおれん。『反逆の殲滅者』の襲来だぁ!」


 おい待て、その痛い名前を連呼するな。

 そうじゃない。ジュガの言い分を真に受けるな。


「い、いまのをヴァーガン様に知らせなくては」

「俺はノーシュ様の所へ行ってくる」


「じゃ、手分けして」

「おう」


「「いくぞ、おー!」」

 連中は走って去って行ってしまった。


「……ハッ、口ほどにもない。そうですね、ゴーラン様」


「おまえ、何やってんの?」

 口の端をつり上げて笑うジュガに、俺は特大のゲンコツを落とした。




 ジュガに問いただしたところ、さっきの連中は反抗勢力側の巡回兵らしい。

 首元に揃いのスカーフを巻き付けていたので、間違いないと。


「なぜスカーフを?」と聞いたところ、「反逆の印」だと見当外れの答えが返ってきた。

 それと、ジュガが何でああも居丈高に出たか。


 故郷を追われ、散り散りになった赤帽子族のうらつらみということらしい。


 ジュガはいま、ボージュンのもとで下働きしているが、他の同族がどこで何をやっているのか一切分からないという。


 野たれ死んでいる可能性もかなり高いとか。

 たしかに住処を追われた非戦闘種族は、魔界でも生きにくい。


 もしくはとても逝きやすい。

 生きにくいし、逝きやすいのだ。いまちょっとウマいこと言えた。


 そういう理由で非戦闘種族のジュガは、彼らを憎んでいる。

 ジュガと最初会ったときから、感じていたが、本当に俺を彼らと敵対させたいようだ。


 それについては、予想できたことなのでそれはいい。

 だが……。


「あいつら、別に敵対的じゃなかったぞ」

 問答無用で襲いかかってくる感じではなかった。


 素直に通してくれるかは微妙だが、見るものすべて敵という印象でもなかった。

 これは統制が取れている証拠だ。


 案外、軍組織としてしっかりしているのではなかろうか。


「それでもボクたちを迫害したんですよ。立派な敵です」

「そうかな……まあ、そうかもな」


 非戦闘種族は、基本的に強い種族に従属して生きる。

 出て行けと言われれば出て行かざるを得ない。


 すべて戦闘種族のいいなりだ。

 だがそのいいなりの生活が悲惨かといえば、そうでもない。


 強い者は意外とみな大ざっぱなので、彼らのような者がいないと、基本的な生活すら成り立たない場合が多い。


 たとえば飯の用意から始まって、ゴミ捨てのような日常の些細なこと。

 当然上位種族だって、そういうのはできる。


 できるけどやらない。

 働いたら負けと考えているのか? いやそうではない。

 たしかにニートっぽいが。


 上位種族の思考はこうだ。

 面倒だからやらない。誰かやってくれるだろう。

 誰もやってくれない? だったらやらせるまでさ。


 このような感じだ。

 そこで上位種族の手足となって動く非戦闘種族の出番である。

 彼らの存在が不可欠なのである。


 そのため、虐待したり邪険にしたりすると、ジュガのように故郷を捨てて逃げ出してしまう。

 逃げられて困るのは戦闘種族だ。

 そのため、非戦闘種族を軽視する種族は少ない。中にはクズみたいな種族もいるが。


 だから俺は最初、もっと荒っぽくて、クズっぽい連中をイメージしていた。

 非戦闘種族が逃げ出すのである。情状酌量の余地がないものと思っていた。


 だが、思ったより統制が取れていて、少々意外だったのである。


「……じゃ、先に進むか」


 巡回していた連中が走り去ったので、ここで待っていてもしょうがない。

 彼らともそのうち会うこともあるだろう。


 俺たちは海岸線の道を進んだ。



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