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力が強ければどこへ行っても我を通せる。
それが魔界のいいところだ。いいところか? まあいいや。
それが異界でも変わらないのなら、魔界の常識を持ってきて大丈夫なことになる。
それでちょっと、シミュレートしてみよう。
俺たちが常夏の海岸を歩いているとする。
その辺でたむろしている奴らが俺に気付く。もちろん反抗勢力に属している奴らだ。
「ようよう、てめえら。どこのもんだ?」
まあ、こんな感じでからまれる。
「俺たちは常秋の山林から来て、常春の野原へ向かう途中だ」
この辺が無難な答えだろう。
他所から来たと言い、お前たちに興味が無いと思わせる。
「なんだ他所もんか。そんなとこへ行くのは止めて、オレの配下になれ。うまく使ってやるぜ」
「はっ? おととい来やがれ!」
無礼な対応に、ヘーコラしていられない。
そういう相手には、今のような対応で十分だ。
「んだとコラァ! やんのか?」
ここで喧嘩が始まる。
つか、始まっちゃったよ、喧嘩。
魔界の住人相手なら、ありそうな展開だし、俺は悪くない。
だが、これでは駄目だ。却下だ。
もう少し下手に出てみよう。たとえば「部下になれ」と言われたとする。
「勘弁して下さい。俺は戦いができない種族なんです。ここはただ通過するだけですので、見逃して下さい」
これでどうだろうか。非戦闘員であることを匂わせつつ、相手の慈悲にすがる。
かなり行けそうな気がする。
「だったらオレの身の回りの世話をしろ。ちょうどパシリが足らなくて困ってたんだ。あんパンと牛乳買ってこい」
うん。これもありそうな話だ。いや、異界にあんパンと牛乳はないが。
なんというか、魔界の住人は結構人の話を聞かない。
とくに下っ端になればなるほど、その傾向が強い。
とすると、パシリは断った方が無難だろう。
そもそも俺たちは常春の野原へいくのであって、ここに常駐するわけではない。
「あんパンと牛乳だぁ? てめえが買ってきやがれ。ついでに俺の分もだぞ、忘れるなよ!」
断るならば、このくらい強気の方がいい。
ただし、これだと喧嘩になる。
ということは、これも駄目だ。
もっと前からシミュレートし直そう。やり直しだ。
相手が俺を見つけて絡んできた……始めるとしたらこんなところかな。
「てめえ、見かけねえ顔だ……へぷし!」
とりあえず、出会い頭に殴ってみた。先手必勝だ。
「ア、アニキィー……て、てめえよくもアニキを……ぷべらっ!」
こういう奴にはよく三下がついているから、そいつらからも絡まれる。
それらも一緒に排除すべきだろう。やはり先手必勝だ。
「何だ、今の音は? お、おまえ、侵入者か? 出会えぇ! 侵入し……あべし!」
だいたい部隊長クラスの奴が近くにいたりするからこれも排除だ。
さもないと、際限なく敵を呼ばれてしまう。
だが、時すでに遅く、わらわらと敵兵が集まってくる。さてどうするか。
こうすると……こうくるか。
だったら、こうして……いや、こうなりそうだな。
ふむ、なかなかクリアが難しい。難易度ベリーハードになっていないか?
とくに敵将が出てきた段階で、敵兵をどこまで減らせられるかが勝負なんだが、いかんせんこっちは俺ひとり。
戦力がちょい心許ない。
「ゴーラン様、どうしました? さっきからずっと考え込んでいますけど」
「難しいな」
「えっ? 何が難しいんです?」
「敵を下っ端から倒していくと、どうしても全滅させなきゃいけなくなる……だがそうすると、手が足らない。これは難しい問題だ」
「…………」
「いい方法ないかな。どうやっても一掃させる流れになるんだよなぁ」
うまい回避方法が見つからない。
「一掃って、反逆者たちですか?」
「そうだ。このままだと、あの竜たちまで出てきてしまいそうだ。さすがにそれはめんどい」
おそらく雑魚を半分も倒さないうちに真打ち登場となるだろう。
しかもジュガの話だと竜は二体いるようだし、さすがに愛用の武器と防具がない状態はつらい。
(でもなあ……どうしようもないんだよな)
強行しても下手に出ても、どうしても戦いになってしまう。
「なあジュガ。何かいい案はないか?」
「……さ」
「さ?」
「さすがです、ゴーラン様!」
「な、なんだ?」
「やっぱり『反逆の殲滅者』の名は伊達じゃないですね! さすが殲滅者と言われるだけのことはあります。さすが過ぎますよ!」
「ジュガ、お前……なんて失礼な」
何を言っているのだ。
それはこっちの台詞だ。
こんなに頑張って回避策を練っているのに、殲滅者呼ばわりは、さすがに失礼過ぎるだろ。
そう言ったのだが、ジュガは俺の話を聞いてくれなかった。




