003
天幕の中で飯を食っていたら、コボルド族がやってきた。まだ若い。
グーデンが目を覚ましたという。
「食い終わったら行く」
今日は戦場で走ったり、下克上したりで腹が減った。
食い終わるまで待ってもらおう。
メシの用意はコボルド族がやってくれる。
戦闘は不得手だが、こういった細々としたことは器用にやってのける。便利なやつらだ。
オーガ族なんていうと、生肉を骨ごとバリバリ喰うイメージがあるが、そんなことはない。
ちゃんと調理されたものを食べるし、野菜だって食う。好き嫌いはあるが。
俺たちの食事は、食物から栄養を摂っているのではなくて、食物が吸い上げて保有している魔素を体内に取り込んでいるのだと思っている。
魔素は大気中や、水中、大地の中に散っていて、それを取り込むことで種族の特性が現れている。栄養は生きるのに必要だが、強くなるにはより多くの魔素を吸収しなければならない。
まあ、その辺は確証がないんだが。
天幕から出ると、コボルド族の若者が律儀に待っていた。
先ほどの下克上の後始末。
気絶したグーデンの身体をどうしようかと考えて、彼らに平らな石の上に寝かせるよう伝えておいた。
コボルド族が様子を見てくれるというので、あとを任せていたのだ。
というか、横たわるグーデンのまわりに等間隔に小石を並べ始め、儀式の生贄みたくなっていたので逃げ出した。
行ってみると、グーデンは石の上であぐらをかいていた。
絞め落とされた後だっていうのに元気だな。
「がっはっはっは……負けた」
グーデンは俺の顔を見るなり、潔く負けを認めた。
これはどの魔族もそうだが、負けたあとはグダグダ言わない。
なにしろ文句があれば再戦――つまり下克上すればいいのだから、ゴネる必要がないのだろう。
「おまえは強いな」
「そうですかね」
転生してからこのかた、よく言われる。
だが、俺自身はそう思っていない。
戦い方を知っているのと、ちょっとだけチートな方法で強くなっただけだからだ。
「俺はおまえの下に付こう。今からおまえが部隊長だ」
「ありがとうございます。謹んで承ります」
どう言えばいいのか分からなかったので、テレビで見たような台詞を言ってみた。
案の定、グーデンは首を傾げた。
「支配の委譲をする。受け取れ」
グーデンは心臓のあたりから薄赤い玉を抜き出すと、俺の胸に押しつけた。
(これが支配の力か……)
もやもやとした赤い玉は俺に取り込まれ、すぐに沸き上がる力を自覚した。
力がどんどん俺の中に流れ込んでくるのだ。
逆らわずに全ての力を受け入れると、俺に何かが足されてたのが分かる。
(すごいな……俺の力、前の倍どころか、三倍に膨れあがってないか?)
これが支配のオーブの力かと戦慄するとともに、これを持った相手に挑んでよく勝ったなと、今更ながら冷や汗が出た。
「頼むぞ、部隊長。がっはっはっは……」
役目を終えたとばかりにグーデンは去っていった。
飯を食いに行ったのだろうと思ったら、首の骨が折れたかもしれないとのこと。
絞め落とすために渾身の力を込めたが、その時首が後ろに反り返ったらしい。
グーデンは起き上がるとき首に違和感があると言って、そこから動かなかったようだが、よく生きているな。
二人分の体重を使って、オーガ族の力で絞めあげたわけだし、ヒビくらい入ったのかもしれない。
やりすぎたのかもしれないが、あれは俺の方が不利な戦いだった。
まあ、グーデンは平気そうなので、忘れることにしよう。
「それで成り行きで部隊長になっちゃったけど……これはしょうがないよな」
あのままだったら、明日も明後日も同じ突撃が繰り返される。
その度ごとに死人が増えるのだ。いつ自分がその仲間に入ってもおかしくない。
俺はこんな場末の戦場で、肉片になりたくない。
「だからまあ……これでいいんだよな。……ん、なんだ?」
コボルド族の一人が、なにやら言いたそうにしている。
言いたいことがあるけど、言うに言えない。そんな顔だ。
「いいぞ、言ってみろ」
顔の区別がつかないが、服装でわかる。
今までグーデンの副官の役割を担っていた奴だ。
名前はたしか、リグ。
いつもグーデンが「おーい、リグ」と呼んでいたから間違いない。
部隊長が替わったから、お役御免になりたいとでも言うのだろうか。
だったらやだな。
「本日の会議はいかが致しましょうか?」
「会議って?」
「ネヒョル軍団長より毎晩、会議の招集がかかっております」
「毎晩だって? 前任――グーデン元部隊長はどうしていた?」
「初回に一度だけ出席されまして……あとは欠席されておりました」
「あー、なるほど」
脳筋だし、会議の中身が分からなかったか、面倒くさくなったかだな。
会議とは作戦会議のことだろう。
あの突撃するだけの命令がどこから出たのか気になるし、出てみるか。
「部隊長の変更を伝えなくてはならないし、出席する。場所はどこだ?」
「はっ、本陣――ネヒョル軍団長の天幕になります」
「それってどこにある?」
そういえば、三日前に着任したけど、自軍どころか、この周辺のことは何も知らない。
場所を聞いたところ、ここから十キロメートル以上離れていた。
行くの面倒くさいじゃねーか。