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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
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 だんだんと俺の「ヤマト像」が崩れつつある。

 以前は「スゴイ男」という部分が強かった。


 何しろ、魔界で唯一にして最強の小覇王である。

 強いのは当たり前。


 古今東西、数多の魔王、大魔王が小覇王になろうとしてなし得なかった小覇王への道をただ一人だけ駆け上った男。

 原始にして最強。それがヤマトだ。


 だが今は、どちらかというと「したたかな男」という印象が強い。

 たとえば時系列的に考えれば、ヤマトが人界に来られるはずがない。


 何しろ、ゼウスが人界に結界を張ったのが最初だ。

 ゼウスは、己の命と引き替えに人界を閉ざした。


 ゼウスは天界最強の男……だと俺は思っている。

 少なくとも、それに手が届くような存在だろう。


 それが命をかけて結界を作ったのだ。

 かなり強固なものだと思う。事実、今でも破られていない。


 そしてゼウスの連れ合いであるヘラ。

 ヘラがゼウスを生き返らせようと、ヤマトの支配のオーブを狙った。


 天界からの大侵攻で、魔界は戦場と化した。

 その時の頂上決戦で、ヤマトはヘラとともに時空の狹間に消えた……と思われていた。


「それがなんで人界に出現したんだか」

 その辺の経緯は、俺が理解できる範囲を超えている。


 何かがあって、ヤマトは人界へ降り立ったのだろう。

 そしてこれも予想だが、そこで人界に取り残された魔界の住人たちを見つけた。


 ヤマトは彼らを保護するため、異界を造った。

「死したゼウスの身体を異界の要として……」


 すげーよ。発想がすげー。

 この異界の仕組みも、おそらくゼウスが張った結界をパクッ……拝借したのだろう。


 この異界、擬人と同じようにもとは天界の発明ではないかと思う。

 それをあっさりと成功させるあたり、ヤマトは相当に「したたか」ではなかろうか。


「早く会ってみてえな」

 いったいどんな人物なのか興味がある。すごく興味がある。


 さて、常春の野原に行くのに、どのくらいかかるのか。

 これをボージュンに聞いてみたところ、約四十日という答えが返ってきた。


 思った以上に長い。

 封印墳墓を出発すると約十日で、常夏の海岸に到着する。


 そこからは海岸線に沿って進み、およそ十日で末裔図書館まつえいとしょかんという場所に着くらしい。


 この末裔図書館というのは、常夏の海岸のほぼ中心地。

 そこは異界に住んでいる種族の情報を集め、管理している場所だという。


 やはり管理者がいて、そこにも擬人が安置されているらしい。


 末裔図書館を抜けて同じく十日で、常春の野原に入ることができるらしい。

 そこからさらに十日で、ヤマトのいる水晶宮殿に着く。


 これで片道四十日間。

 やはりかなり遠いと言わざるを得ない。




「それじゃ、行ってくるぜ」

「いってらっしゃいませ」


 俺は赤帽子族のジュガを連れて、封印墳墓を出発した。


 出がけに聞いたところ、この墳墓には、かつて異界に貢献した者、人界で成果を収めた者たちの亡骸が安置されているという。


 ちょっと見てみたいと言ったら「この異界と同じような術で封印されておりますので」と言われてしまった。


 安置されている者の名前を聞いたら、歴史上の偉人がいた。

 真実は小説より奇なりというやつだろうか。


「しばらくは穏やかな道が続きます」

 ジュガにそう言われて、俺は周囲を見渡した。


 視界一面のススキが風で揺れている。

 さすが常秋の山林。


 これは日本の秋の風景といったところか。

 懐かしいような、そうでないような。


 今の日本では、こんなススキ野原は存在しないのかもしれない。


 前に箱根に旅行したとき、群生するススキを見た記憶がある。

 それでもこれほど広範囲ではなかったはずだ。


 ジュガはひょこひょこと、奇妙な歩き方をする。

 まるで、水たまりを避ける子供のようだ。


「なあ、ジュガ。上位種族が少ないとボージュンは言っていたが、どのくらい少ないんだ?」


 妙な質問になったが、もともと魔界であっても、上位種族はそれほど多くない。

 少ないとはどの程度なのか。


「この常秋の山林だと、ボクが知る限りでも数人しかいませんね。常夏の海岸には、多くの戦闘種族がいますから、数もそれなりにいると思いますけど」


「なるほど。戦いたい奴は戦えそうな場所にいるわけか。それでどうして仲間割れがおきない?」

 俺が一番強いと思っている奴らだらけだろうに。


「常夏の海岸には、幻灯竜げんとうりゅうのヴァーガンと、牙砕竜がさいりゅうのノーシュがいますので。みなこのふたりには、敵わないんです」


 幻灯竜も牙砕竜も初めて聞く種族名だ。

『族』がつかないところをみると、特殊進化だろう。


 竜種は総じて戦闘狂なところがある。

 そんなのが二体もいたら、他は戦々恐々として過ごしているのかもしれない。


「ヤマト様に反抗している筆頭が、そのヴァーガンとノーシュなのか?」


「はい。ノーシュはその昔、人間に神と崇められていた竜の子孫で、自分の価値をそれに見いだしているんです。そのため、人界にどうしてもいまの姿で行きたいようですね」


 今の姿。つまり、擬人ではなく竜の姿で崇められたいのだ。

 かつての先祖と同じように。


「それでヴァーガンの方は?」

「一人でも多くの人間を喰い殺したいとよく言っています」


 普通に邪竜だった。



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